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~関東大震災90年~ 語り継ぐ(3)
未曽有に学ぶ〈3〉守る(上)◆「地震峠」に集う人々

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神奈川新聞  2005年11月27日公開  

地震峠の地蔵尊の前で手を合わせる右から鵜沼清さん、良之さん、早矢香さん、真由美さん=相模原市緑区鳥屋
地震峠の地蔵尊の前で手を合わせる右から鵜沼清さん、良之さん、早矢香さん、真由美さん=相模原市緑区鳥屋

 足元の地域で起きた被害に思いをはせる3世代の家族に、関東大震災を経験した者は一人もいない。しかし、時を経ても変わらぬ思いを紡ぎ続けている。

 橋本駅から西に約10キロの相模原市緑区(旧津久井町)鳥屋。静かな集落を貫く県道沿いに1年半ほど前、手作りの木の案内板が立った。「地震峠」。16人の氏名とともに記された「心よりご冥福をお祈り致します」の一文が、90年前にここで起きた「山津波」の悲劇を今に伝える。

 地震峠は、激しい揺れで崩落した大量の土砂によってできた小高い山だ。山あいの集落で救助はままならず、遺体が見つかったのは8人。残る8人と家屋や養蚕の作業所など9棟が埋まったこの場所に、犠牲者を悼む石碑や地蔵尊がたたずむ。

 案内板を作ったのは、この集落で生まれ育った鵜沼良之(45)。「東日本大震災後に訪れる人が増えた。気付くと、おさい銭が置いてあったりして」。今は実家を離れて市内に居を構えるが、ホームセンターで木材を買いそろえ、妻真由美(40)、中学2年の長女早矢香(13)と一緒に2~3週間かけて完成させた。

 「お金をかけて業者に頼めば、もっといいものができたかもしれない。でも、手作りにした方が『忘れていないよ』というメッセージになる」
 鵜沼家にとって山津波は忘れようもない出来事だ。良之の曽祖父と伯父が土砂に埋まり、犠牲になったからだ。

 良之の父、清(74)は、後に両親から何度も聞かされた話を思い出し、祖父らの無念に心を寄せる。「2人は知人宅を訪ねていた。家を出たときに山津波に遭い、祖父が兄をおぶって逃げたが、間に合わなかった」

 清は以前から、石碑などがある一角で草むしりや掃除を続けてきた。5年ほど前からは良之が加わるようになり、1年半前の案内板作りでは、早矢香が黒ペンキで「地震峠」と書いた。

 親子孫の3代による静かなる共同作業。学校では教わらない関東大震災の被害を清たちから学んだ早矢香は、犠牲になった一人一人の名を見ながらかみしめる。「本当にすごい地震だったんだ」

 「水が流れるように山が崩れ、山肌の木は立ったまま里まで押し寄せた。波打つ畳の上を転がりながら外へ逃げた」。当時14歳、現場近くの家で昼食を囲もうとしていたときに山津波に遭った新井エツ(104)は体に染みついた恐怖をそう語っている。

 建物をのみ込んだ土砂は集落を流れる串川をせき止めた。旧津久井郡内の死者33人の半数を占める惨事となった山津波の現場で、家族6人が全員死亡するという悲運をたどった一家もある。

 その親族で、新井とも交流があった門倉仙太郎も毎年、9月1日を前に現場の草刈りや清掃を欠かさなかった。

 震災時は9歳。自身は山津波に巻き込まれなかったが、長年、自らに課した使命のように現場に足を運び続け、震災70年の節目には地蔵尊を私費で建てている。

 鵜沼一家が立てた手作りの案内板は、その地蔵尊や石碑を道行く人に知ってもらうためのものだ。

 2000年、86歳で鬼籍に入った門倉の胸の内を長男の紘一(69)は思う。「父は山津波のことを地域で引き継ぎ、伝えていってほしいと思っていた。案内板のことも喜んでいるに違いない」

 悲劇が大きければ大きいほど、残され、命をつないできた者たちはその尊さを知る。「ご先祖様が亡くなったこの場所をできる限り守っていきたい」と話す早矢香たちに、思いはしっかりと受け継がれている。 =敬称略


石碑や石像とともにある地蔵尊。石碑にも犠牲者の名が刻まれている
石碑や石像とともにある地蔵尊。石碑にも犠牲者の名が刻まれている

鵜沼さん一家が手作りした地震峠の案内板
鵜沼さん一家が手作りした地震峠の案内板

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