
国家や戦争、原発に関する政治的なメッセージを変幻自在な作品を通して発信してきた現代美術家、柳幸典さん(57)。これまでの活動を振り返る大規模な個展「柳幸典 ワンダリング・ポジション」が、BankART Studio NYK(横浜市中区)で開催中だ。これまでも自作に対し、抗議や規制があった。目の前に起こっていることを扱う現代美術には「検閲や自己抑制があるのは、常に当たり前のことだと思っている」と柳さんは淡々と語る。
1980年代の作品はつかみどころがない。廃棄物でできた巨大な球体をフンコロガシのふんに見立てて砂丘で転がしたり、モルタルで5メートルのたい焼きを作って魚拓をとったり。
「自分を縛っているものにあらがい、日本のシステムとやみくもに戦っていた」と振り返る。
90年に米国イエール大学へ留学。そこで「社会的なメッセージを発する芸術」に出合った。いろんな人種、宗教の人が寄り集まった社会では、自分が何者かを語ることが重要だと体感した。そうやって主張し、戦うことが民主主義を活性化することにもつながるという。
「日本は民主主義を戦って得たのではない。自由はいつでも与えられるものだと思っているが、そうではない。この先何かあったらひっくり返る。例えば表現の抑圧はいつでも起こりうることで、起きてしまってからではもう遅い」
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戦争放棄を明言した日本国憲法第9条。自由や平和は当たり前のものではないという意識を抱き、9条をさまざまな形で作品に取り上げてきた。
94年に発表した「アーティクル9」では、9条の条文を文節に分けてバラバラに配置し、赤いネオン管で表示。点灯と消灯を繰り返すことで「いつでもオン、オフが可能だ。電気を消すようになくなる可能性があると気付いてほしい」と訴えている。
「ザ・フォービドゥン・ボックス」(95年)はふたが開いた鉛の箱から薄布にプリントされた原爆のキノコ雲が立ちのぼる。