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セクハラ対策 法改正案、実効性に課題 禁止規定なしに反発も

社会 神奈川新聞  2018年12月06日 11:53

メディアで働く女性ネットワーク主催の集会で、セクハラを実効的に規制する法整備の必要性が語られた=11月8日、衆議院第1議員会館
メディアで働く女性ネットワーク主催の集会で、セクハラを実効的に規制する法整備の必要性が語られた=11月8日、衆議院第1議員会館

 財務省の現職事務次官が女性記者に対するセクハラで更迭されてから7カ月。職場のセクハラ対策は、一定の改善が図られる見通しとなった。ただ、行為自体を禁止する規定は見送られる見込みで、労働組合や女性支援団体は「実効性がない」と反発している。


労使が攻防


 厚生労働省は11月、職場のハラスメント対策を巡る法改正の骨子案を、諮問機関である労働政策審議会の分科会に提示した。セクハラについては、男女雇用機会均等法を見直し、相談者が解雇のような不利益を受けないよう明記。取引先や顧客から被害を受けた場合の対応も指針に盛り込む、とした。

 厚労省は年内に分科会の議論を取りまとめる予定で、来年の通常国会に法案の提出を目指している。

 セクハラは、均等法で事業主に防止措置を義務付けているものの、行為そのものを禁止する条文はない。分科会で、労働者側は禁止規定を設けるよう求めているが、規制強化に慎重な使用者側との攻防は続いている。


後進の日本


 労働者側の委員で連合総合男女・雇用平等局の井上久美枝総合局長は「厚労省の骨子案に実効性はない。禁止規定が盛り込まれるよう、今後の分科会で押し返したい」と意気込む。

 連合が禁止規定にこだわるのは、国際労働機関(ILO)が職場でのハラスメント禁止の条約を来年にも制定する方針を決めたからだ。拘束力を持つ初の国際基準になる見通しで、加盟国は「国内法令を採択すべき」と言及された。連合は今回の見直しが、その好機と期待していた。

 労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると、女性の3割近くがセクハラを経験し、その対応として6割が「我慢した」「何もしなかった」と答えている。

 全国の労働局に寄せられるセクハラ相談は年間7千件前後にとどまり、労働組合「パープル・ユニオン」の佐藤香執行委員長は「被害者の大半が泣き寝入りを余儀なくされている」とみる。「現行法の限界は明白で、日本はハラスメント対策の後進国だ」


救済も後手


 現行の救済制度は「行政は被害者の望みから大きく乖離(かいり)し、司法はハードルが高い」とJILPTの内藤忍副主任研究員は指摘する。

 労使の紛争解決を担う労働局はセクハラの認定はできず、主に調停による金銭解決にとどまる。厚労省は均等法に基づく制裁として、是正勧告に従わない企業名を公表できるが、セクハラに関する公表例はいまだない。当事者は訴訟を提起しても、経済的、精神的に負担が大きい。

 財務次官によるセクハラ問題を受けて発足した女性記者らによる「メディアで働く女性ネットワーク」代表世話人の林美子さんは「女性がセクハラを心配せずに働ける環境を実現するまでほど遠い」と話す。

セクハラ国内初の原告 女性虐げられたまま



 平成最後の流行語に「#MeToo」が選ばれた。この1年、性暴力の告発は世界に広がった。平成元年(1989年)の新語大賞は「セクシャル・ハラスメント」だった。その渦中で時の人となった出版社社長の晴野まゆみさん(61)=福岡市=は「女性はずっと虐げられたまま」と、この30年を顧みる。

 晴野さんは、セクハラ被害の損害賠償を求める訴訟を、31歳だった89年に全国で初めて起こした元原告。福岡地裁は92年、被告だった元勤務先の出版社と上司の男性編集長に計165万円の支払いを命じた。晴野さんの全面勝訴だった。

 「女性はとにかく、お茶くみに電話番。男性が女性の社会進出を疎んじる雰囲気さえあった」。晴野さんは、そう記憶している。この出版社に勤務したのは、男女雇用機会均等法の施行前後だった。

 4歳上の編集長によるセクハラは、快活な晴野さんの働きぶりに対する嫉妬に始まった。「ふしだらな女」「不倫している」と繰り返し吹聴され、会社も中傷を黙認した。入社3年で退職を余儀なくされた。

 女性はもてはやされているうちが花-。提訴前の民事調停で晴野さんをなだめた調停委員の言動が、女性蔑視の世相を表していた。「そんな細事で目くじら立てるなよ、って非難されているようだった。私自身が被害者なのに」

 その鈍感は、麻生太郎財務相の暴言と重なる、と言う。財務次官のセクハラ発覚直後から、「はめられた可能性は否定できない」「セクハラ罪はない」と相次いだ。「女性側に落ち度があるような言い草。30年前と変わらないようで、がっかりした」

 判決まで3年を要した訴訟で、支援者から「勇敢な女性」と称される一方、今後の人生の不利益を想像すると、精神的に「しんどかった」。提訴前に労基署に不当解雇を申し立てようとしたが、自己都合の退職とみなされ、かなわなかった。行政、司法とも、現行の救済制度は「被害者本位でない」と指摘する。

 平成は、暮れゆく。「セクハラ」が注目されたあの時のように、「#MeToo」は再び「流行」としてくくられた。「一過性の時流にしてはいけない」と警告する。有力者の性暴力やセクハラが次々と暴露された欧米に比べ、国内の機運が低調なのも気掛かりだ。ネット社会では実名がさらされ、自身が闘った当時より、被害者は泣き寝入りしやすい時代と案じる。

 「劇的な変化は期待できない。ただ、歴史を振り返ると、女性は少しずつ人権を勝ち取ってきた」と失望はしていない。「口をつぐんでしまえば、現状は変わらない。間違いに異論を唱え続ければ、男性の意識も徐々に追い付いてくるはず」。そう信じている。


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