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ヘイトスピーチ考 記者の視点=川崎総局編集委員・石橋学
時代の正体〈653〉ヘイト参加を許さない 2日川崎で差別団体「学習会」

時代の正体 神奈川新聞  2018年12月01日 23:06

前回6月3日の集会は市が許可した結果、多くの市民が抗議に駆け付けた=川崎市川崎区の市教育文化会館前
前回6月3日の集会は市が許可した結果、多くの市民が抗議に駆け付けた=川崎市川崎区の市教育文化会館前

【時代の正体取材班=石橋 学】2カ月前の10月7日、川崎駅東口で行われようとしていた街宣活動を中止するよう私は呼び掛けた。主催は極右政治団体「日本第一党」で、ヘイトスピーチが行われることは明らかだったからだ。街宣はしかし開催され、外国人の追放を唱える「外追」の二文字を掲げる旗が打ち振られ続けた。

 第一党最高顧問の瀬戸弘幸氏は2日、川崎市教育文化会館での集会をやはりやめないだろう。ならば私は参加しようとしている「あなた」に呼び掛ける。参加してはならない。参加すること自体が許されない人権侵害になるからだ。

 瀬戸氏は市が進める差別撤廃条例の制定を阻止すると公言する。それ自体が、条例が守ろうとしているマイノリティー市民への攻撃にほかならない。ブログでは「彼らが主張する条例ができれば在日が支配する暗黒の都市になる」と集会の参加を呼び掛ける。マイノリティーを敵として描き、差別と排斥をあおる典型的な差別扇動の手口で、コメント欄には閲覧者により「在日60万人を全員強制送還させる」といったヘイト書き込みがなされている。すでに差別があおられ、迫害は始まっている。瀬戸氏は削除せずに放置している。それが狙いであるからだ。

 告知の文言はいうまでもなく虚言だ。市も「条例は有識者らの提言を受け、市長が公約に掲げたもの。議会に諮りながら制定していくものだ」とデマであると認める。もはやうっかり信じたというレベルではない。意図的な差別的言動をうのみにできる人物、つまり人種差別主義者とみなされる。

 そもそもあまりに愚かしいではないか。参加者は東京と横浜の2カ所に集合し、チャーターバスで会館に乗り付け、そろって会場入りするのだという。自らの言動を棚上げし、市民による抗議から身の安全を守るためだという。被害者を演じる手法がここでも繰り返されている。警備員か何かと勘違いしているのか、県警の警備に守られることも期待しているらしい。そのようにして参加しなければならない「学習会」がどこにあるというのだろう。

差別を食い物に


 公的施設は貸し出しが原則だ。だが、瀬戸氏らが申請した途端、担当部署に連絡が行き渡り、使用を許可することが妥当かどうかの検討が始まる。公的施設でのヘイトスピーチを防ぐためのガイドラインが適用されること自体が異例で、異常なことだ。

 今回は市によって少なくとも「警告」という利用制限が課されようとしている。市が「差別的表現を行わないと表明しているが、行う可能性が高くはないがある」と判断したからだ。そのような集会にあなたはなぜ参加できるのか。瀬戸氏自身が告知の動画で明らかにしているが、顔が知れると困るので参加できないという人物がいるらしい。あなたにはマイノリティーを痛めつける活動に加わることに恥じ入る気持ちはないのか。やはり、確信的なレイシストだということになる。

 考えてもみよう。本当に市条例の制定に反対しているなら、参加することは何の役にも立たないどころか逆効果になる。瀬戸氏らによるデモや集会、街宣が繰り返されるたび、市のヘイト対策は進んできた。川崎区桜本の在日コリアン集住地区を襲ったヘイトデモの被害が立法事実となり、ヘイトスピーチ解消法はできた。国や自治体に施策の実施を求めるこの法律に基づき、ガイドラインもできた。利用制限も初めて課されようとしている。幅広く人権を守るための条例制定も、その延長線上にある。

 立法事実はまた一つ積み上げられることになる。啓発を繰り返し、首長が「ヘイトがないことを望む」と述べたところで、なるほどヘイト行為は食い止められない。確信的な差別は条例で禁じ、罰則を設けなければ止められない。参加するあなたが何よりそれを証明することになる。

 瀬戸氏らはそれを承知で川崎市で集会、街宣と活動を続ける。つまり条例制定阻止は本当の目的ではないということになる。告知しただけで扇動効果が表れているように「反・反ヘイト」をネタに事を起こせば、差別をあおることができると知っている。そうすればブログの閲覧数が稼げる。著書であるヘイト本が売れる。カンパが集まる。つまり差別を食い物にしている。実際、瀬戸氏は告知の動画で「1万円をカンパしてくれた人がいた」と報告している。あなたもその1人なのだろうか。

最善尽くしたか


 「学習会」に登壇するのは徳永信一弁護士と会の代表である佐久間吾一氏だという。徳永弁護士は「在日特権を許さない市民の会」(在特会)をはじめとするヘイト団体が起こした数々の事件で差別主義者らの代理人を務めてきた。瀬戸氏の言動は「ヘイトではない」と言い、差別への抗議を「反日活動」とみなすまなざしの持ち主だ。

 佐久間氏に至っては、レイシストを在日集住地区に案内し、街を徘徊(はいかい)しながら「コリア系が不法占拠で住み続けている」と誹謗(ひぼう)中傷し、その様子を収めた動画がインターネット上で公開されていることに「問題があるとは思わない」と居直る人物である。

 開催されれば、ネット上で現在進行形の差別扇動と人権侵害が公的施設に舞台を移して行われることになる。そうである以上、呼び掛けなければならない先がもう一つある。川崎市だ。

 現時点で市は不許可の判断に至っていない。瀬戸氏らが重く受け止めるべきものとして私は初の利用制限を前進と書いた。一方で、あまりにささやかで遅々たる歩みではないか。無条件ではないにせよ「許可」であることに変わりはない。ガイドラインがうたう「公の施設で差別的言動が行われることを制度的に防止することが求められる」という目的を果たせているとは言えないのではないか。

 事なかれに走る。保身に傾く。判断を自己正当化するため矛盾に目をつむる。往々にしてあることだ。しかし、懸かっているのは人権だ。脅かされているのは人間の命だ。職員の意識や能力、首長の政治姿勢、議会情勢などで左右されることがあってはならない。

 やはり、だからこそ条例は必要なのだということになる。差別は禁止され、罰を受けるものだと示されてこそ明確な判断基準、揺るぎない行動規範となる。ヘイト行為者への抑止になると同時に私たち自身を律する最大の啓発となる。

 まさに人権を守るセクションのあなたは目にしたはずだ。閉庁間際の11月30日午後5時すぎ、人権・男女共同参画室に駆け込む在日コリアンの女性がいた。3週間前、条例の早期制定とガイドラインの見直しを求める4万筆もの署名を提出したばかりだが、その後に寄せられた91筆を届けにやってきた。「最善を尽くしてくださいと伝えるため」。思いが届かないたびに傷つきながら、たゆまずヘイト被害を訴え、市のヘイト対策への応援のメッセージを発し続ける崔(チェ)江以子(カンイヂャ)さん(45)はやはりあなたの面前で言っている。

 「行政の施策は市民の人権と命を直接守る。だから差別を批判し、終わらせるという思いで施策を解釈し、実施してほしい。自分はいま、市民の人権と命を守るために判断しているかを見詰めてほしい」

 瀬戸氏は1日、再び在日コリアンを攻撃する文章をブログにつづった。市が利用を許可するのは2日の当日、主催者側へ鍵を渡すとき。直前まで情報収集と検討を続けるという。決断の時間は残されている。


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