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時代の正体〈650〉外国人受け入れ考(3)移住連集会から

時代の正体 神奈川新聞  2018年11月26日 09:42

鈴木江理子氏
鈴木江理子氏

【時代の正体取材班=柏尾 安希子】入管難民法改正をにらんで、医療や社会保障に関しては外国人に差別的な施策が進みつつあり、教育や雇用などで現存する制度の壁も解消されそうにない。同法改正の問題点を考えるNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)主催の集会では、そうした指摘も上がった。

公平に生きる権利保障
移住連 大川昭博理事


 週刊誌などのメディアでこういう報道を目にしないか。外国人が日本の高度な医療制度を狙い、医療目的で入国してくると。しかも不正な在留資格で入国し、高額療養費や出産給付金などを受け取っていると。目にする機会があれば、よく読んでほしい。何の根拠もないと分かるだろう。

 報道の基底に流れるのは、外国人は健康保険などの日本の制度を不正に利用してやろうという連中だ、という差別に満ちた発想だ。だが、厚生労働省は報道を根拠に、市区町村役場の国民健康保険の窓口に、(国保加入後間もないなどで)怪しいと思える在留資格の外国人が高額療養費などを受け取りに来たら、在留資格や実態を聞き取り、問題がありそうなら入国管理局に報告するという調査制度を始めた。これは個人情報保護法での目的外使用のルールに反する。

 国保の窓口職員は在留資格のことを知らない人がほとんどだろうが、その人が聞き取った中身を勝手に問題がありそうと推測して入管に連絡し、調査が入る。重大な人権侵害ではないか。厚労省が1千万件近い外国人のレセプトをすべて調べたが、怪しかったのはわずか2件だった。市町村窓口での調査でも、現在までに在留資格取り消しに至った例はない。外国人移住者がまっとうに健康保険を使っていることは証明されたことになる。

 (外国人労働者受け入れ拡大を契機に)国保の扶養家族への給付について国内居住者に限る、また国民年金の給付金受け取りも国内に住んでいるときに限るという話も出てきた。外国人には健康保険に入る義務があり、保険料も払っている。日本に長く住む人と違う給付になるのは、明らかにおかしい。むしろ外国人労働者、移住者に平等に公的医療保険に入ってもらえば財政は助かるだろう。

 極め付きは、受診時の顔写真付き身分証の提示の方針が決まったことだ。顔写真付き証明書を持つ日本人は少なく、混雑する病院の窓口ももたないだろう。とすると、おそらく外国人のみに運用されるだろう。どれだけプレッシャーになるだろうか。こんなことを許していいのか。

 こうした一連の動きは、外国人労働者、移住者を労働力としか見ない、そして生活や健康を維持するための制度利用をコストとしか見ない政府の姿勢を反映している。もし、在留資格の適正化を保つためにいろいろな窓口が入管に情報提供をしたらどうなるか。これは戦前の内務省だ。そういったものが移民受け入れを口実に、外国人限定で復活するとすれば、まさに日本社会の危機だ。絶対に許してはいけない。

 日本の社会保障制度は、日本に長くいる日本人を想定してつくられているが、人の移動、移住を前提とした制度設計にこれから変えねばならない。新たな受け入れ論議と社会保障制度のあり方の議論は、いったん切り離すべきだ。窓口での調査や保険給付の居住要件の新設、受診時の本人確認の検討などは、ただちに中止してほしい。その上で、だれもが公平平等に生きる権利が保障される制度設計に向けた論議を進めたい。

基本法の制定が不可欠
国士舘大 鈴木江理子教授


 7月24日に(閣僚会議から)公表された外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策は、異なる文化的背景を持つ人々が共に生きるという視点から十分なものだろうか。

 移民政策、外国人政策には二つの側面があるといわれる。国境管理の移動の部分と、国境通過後、領土内での居住に関するものだ。従来、日本の移民政策は移動局面に重点が置かれたが、居住局面に関しては、ほとんど取り組みが行われてこなかったという批判がずっとなされてきた。

 その状況が少しずつ変化するのは2000年代だ。出入国管理基本計画では外国人を社会の構成員として位置づけ、総合的な外国人行政を行っていくとし、06年の「骨太の方針」では多文化共生社会の構築までも提示。ただし、取り組みは遅かった。それに対してことし6月15日の骨太方針では、総合的対策が出された。

 言葉の壁については、日本語指導の充実が示されている。19年度の予算の概算要求では、18年度の2億2100万円から倍増した。だがよく読むと、国は自治体支援にとどまり、十分な支援にはなっていない。

 日本人と外国人では制度や権利の違いがあるが、対応策では現行制度の見直しがない。外国人の場合は義務教育がないため、就学年齢相当であるにもかかわらず、学校に行く機会が奪われたままの子が放置されている。あるいは外国人ゆえに公務員になれない、管理職になれない、政治参加の機会がないことも見直されていない。

 共同通信が政令指定都市や県庁所在地などに行った調査では、就学年齢の外国人の子ども1万人の就学の有無が分からないと明らかになった。読み書きの基礎的な学びの場だけでなく、社会で生きるための基礎的なルールを学ぶ機会など、あらゆることが奪われたままだ。

 では、学校教育基本法第1条が定める日本人と同じ学校、1条校はどうか。ここでも日本語の問題が非常に大きい。公立小中学校に在籍する外国人の4割が日本語に困難を抱える。日本語指導の充実はうたわれているが、基本的に自治体任せだ。

 政令指定都市と東京23区の日本語指導の状況を調査しているが、予算や要件、指導時間はそれぞれ異なる。どこで暮らしているかによって、大きく支援が異なっているのだ。結果的に十分な日本語能力がないゆえに学力が身に付かず、高校進学ができないことで、将来の選択肢がきわめて限られた状況になっている。

 ことし、文部科学省は日本語指導が必要な児童生徒への特別調査を行ったが、日本語指導が必要な高校生の中退率は非常に高く、卒業後の進学率は低い。就職したときの非正規雇用の割合は全体が6・62%だが、(外国人は)4割だった。学校基本調査でも外国人の高校の在籍率は低く、高校進学はきわめて高い壁という現実がある。

 職業、雇用、入居などさまざまな差別への取り組みは、基本的には啓発活動や情報提供などで、直接的に差別の現場をどうするかは全く語られていない。実効性も疑問のままだ。外国人の2割が間接雇用で、日本全体の3%と比べ明らかに高く、雇用の調整弁として利用されている。こういった不安定な雇用をどうしていくか、総合的対応策では示されていない。結果的に予算措置も含め自治体任せで、国が責任をもって取り組む姿勢は総合的対応策にはない。十分なものではないといえる。

 ではどうしていくべきか。移動局面に関しては入管難民法があるが、居住局面においての総合的な法律はないままだ。従って、居住側面を支える基盤となる基本法の制定が不可欠だ。そして、総合的対応策で抜け落ちている異なる文化的背景を持つ人の母語や文化を尊重していくことも基本法に明示していく。市民の側から国会に伝えていきたい。


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