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海遍路を追って(4)過ち何度繰り返すのか

社会 神奈川新聞  2018年11月20日 09:29

三陸を巡る海遍路のメンバー。被害の大きかった宮城県名取市閖上の漁港は再整備されていたが、街の明かりははるか遠くにあった=2014年5月
三陸を巡る海遍路のメンバー。被害の大きかった宮城県名取市閖上の漁港は再整備されていたが、街の明かりははるか遠くにあった=2014年5月

 2015年5月、「海遍路」のメンバーと共に私は有明海にいた。広大な干潟、4~6メートルという国内で最大とされる干満差が育んできた豊かな生態系。かつて「至宝」と言われた有明海だが、いまや「瀕死(ひんし)」とも表される。その引き金の一つとされる「諫早湾干拓事業」の現場へ向かっていた。

 水門を閉じて陸地側を淡水化し、農業用水源として約2600ヘクタールの調整池を造り、670ヘクタールという広大な農地が生まれた。計画は1952年に当時の長崎県知事が「食糧難を解決するため」と発案したのが始まりだったという。農地を手にし、塩害にも悩まされず、農業用水も確保できる。そうした机上に描いた夢はしかし霧散している。

 タイラギやアサリといった海域の浄化を担う二枚貝の漁獲量は80年代から激減し、低迷が続く。特産のノリの漁業者は「昔ほど採れなくなった」と嘆いていた。

 漁業を犠牲にした干拓だったがついに今年2月、干拓地の営農者が国などに開門を訴え始めたのだ。

 「堤防の閉め切りで内部の調整池が淡水になり、その淡水を好むカモなどが飛来するようになった」

 2008年から干拓地で営農を始めていたマツオファーム(長崎県諫早市中央干拓)はこう主張し、栽培していたレタスやブロッコリーをカモが食い荒らしたことから「防除の対策を怠った」として国などを提訴した。

 沿岸の農地は海風によって冬は暖気が、夏は冷気が田畑を潤し、作物が実る。干拓による農地開拓の利点はここにあった。しかし、諫早湾では過去に例のないほど巨大な堤防を造り、広大な調整池に淡水をためたことで冷気が農作物を襲うこととなった。今では冬季になるとビニールハウスが林立しているという。

 「かつての漁業者がトラクターに乗り、沖をいく漁船を眺めて、もの悲しい表情を浮かべている」

 海遍路の中心メンバーで京都大名誉教授の田中克さんは、見るに堪えないと話す。

 農地は1期5年のリース。開門を求めてきた漁業者と、その差し止めを訴えた農業者たちを分断した堤防だったが、3期目に入り農業者たちの足並みは乱れ始めているという。

■ ■ ■

 落胆をにじませ、田中さんは言う。「何かと似ていると思いませんか。机上で論を詰めて断行したものの思った結果が出ない。しかしやめない。この国でいま行われている経済政策であるアベノミクスと、まさに相似形ではありませんか」


諫早湾干拓事業の現場を訪れる海遍路のメンバー=長崎県諫早市沖、2015年5月(フリーカメラマン・柏倉洋介さん撮影)
諫早湾干拓事業の現場を訪れる海遍路のメンバー=長崎県諫早市沖、2015年5月(フリーカメラマン・柏倉洋介さん撮影)

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