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【K-Person】森下典子さん
“形”を覚える幸せ お茶の魅力を発信

K-Person 神奈川新聞  2018年11月18日 11:28

森下典子さん
森下典子さん

森下典子さん

 お茶の稽古を通して、一人の女性が成長していくさまを描いたノンフィクションエッセー「日日是好日(にちにちこれこうじつ) 『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」が黒木華(はる)主演で映画化され、反響を呼んでいる。

 「母親に勧められて、最初は嫌々習ったんです」。大学生だった20歳の頃、花嫁修業のつもりで、近所の茶道教室にいとこと入門した。すべて“形”がある茶道を、最初は窮屈に感じていたという。

 「ただの形式主義だわ」。先生の言う通りに左から右へ動作を繰り返す日々。なかなか覚えられないお点前に「いつもがっかりしながら、いとこと帰り道を歩いていた」と懐かしむ。教室に足が遠のきそうになった時もあったが、諦めずに続けてこられたのは「茶室に行くたびに、感動があったから」と目を輝かす。


森下典子著「好日日記」
森下典子著「好日日記」

 茶道具、茶菓子、床の間の掛け軸や、花-。季節によってしつらいが変わるのが新鮮だった。「一年中、空調の効いた部屋で過ごすことが多い現代人こそ、お茶はいいもの。日本列島に生まれた生き物としての感覚を思い出させてくれるんです」

 「日日-」の続編となるエッセー「好日日記 季節のように生きる」では、お茶を通して「二十四節気」の魅力を伝えている。お茶を始めて42年。今では「“形”があるということは、人間幸せだと思う」と悟る。

 「大学を卒業する時、就職活動は全滅で、ずっとフリーランスで歩んできました。自分が何を書くべきか分からなくて、不安で眠れない夜もあった」。人生に悩む時も稽古に行き、柄杓(ひしゃく)を構え、自分を静かに見つめた。

 「何十年も柄杓を触ってきたじゃない」-。諦めずに続けてきたことが、自分を救った。「仕事も同じ。うまくいくか評価されるか分からないけれど、今までもやってきたからこれからもやっていく。柄の手触りに、何度も助けられています」としみじみと語る。

 恩師の「武田先生」は、亡くなった樹木希林が演じた。「希林さんと先生は姿形や、タイプは違うのに、なぜか似ているんです」と驚く。「『あら、典子さんいらっしゃい』としゃべる樹木さんのせりふの声が毎回違う。こもっているものが違う気がして、先生は本当は待っていたんだなと、ぐっときてしまいました」

もりした・のりこ 1956年生まれ。横浜市在住。横浜雙葉学園高等学校、日本女子大学文学部国文学科卒。大学時代から「週刊朝日」連載のコラム「デキゴトロジー」の取材記者として活躍。その体験をまとめた「典奴どすえ」出版後、ルポライター、エッセイストとして活躍を続ける。「日日是好日 『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」(新潮文庫/飛鳥新社)は、2018年に映画化。「猫といっしょにいるだけで」(新潮文庫)。「好日日記 季節のように生きる」(PARCO出版)など著作多数。10年に「表千家教授」の資格を得る。宗名は、森下宗典。

記者の一言
 雑誌のルポライターとしても活躍し、イラク戦争が勃発した時にはホルムズ海峡に向かうタンカーに乗り込んで、命懸けの取材にも行ったという。「父は高熱が出て入院してしまいました」。着物姿で、さらりと話す姿が格好いい。希林さんとのエピソードも、森下さんの感性が光っていた。「撮影現場に立っていると、『こっちにいらっしゃい』と手を引いてくれた。お亡くなりになったと知らせを聞いた時、細くてきれいな指の手の感触がふとよみがえりました」。森下さんの言葉で紡いだエッセー、さまざまな奇跡が折り重なって完成した映画、どちらも心に染み渡る。


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