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海遍路を追って(1)人と海つなぐ水辺巡る

社会 神奈川新聞  2018年11月17日 10:42

穏やかな陽光を受けてきらめく波間を進むカヤック=5月16日、鳥取県大山町沖
穏やかな陽光を受けてきらめく波間を進むカヤック=5月16日、鳥取県大山町沖

 陽光が薄曇りに遮られ、涼やかな風が吹く。波一つない。水面(みなも)は鏡のように日本海の絶景を映していた。日本の海をカヤックで探訪する「海遍路」の一行と私は、2018年5月、鳥取県の沿岸を巡っていた。

 海洋冒険家の八幡暁さん(44)と、「森里海連環学」の第一人者として知られる京都大名誉教授の田中克さん(75)。親子ほども年の差がある2人が、実体験を通じて「人と自然の関係」を取り戻そうと海遍路を始めたのは2011年。2年の歳月を掛けて延べ51日間で四国を一周しスタートした。

 そして8年目を迎える今年は、初めて日本海へと向かった。冬季の厳しさを感じさせない穏やかな海、豊かな漁場があった。

 現役時代は「稚魚の初期生態」を専門に研究してきた田中さんはカヤックに乗り込み、パドルを器用に操う。2人乗りのカヤックの前に私。後ろに田中さんだ。

 沖から、里、そして山すじを見つめる。美しい円錐(えんすい)形をした、富士山を思わせる山を指さし、田中さんは言った。

 「この鳥取の豊かな漁場は、あそこにそびえる大山(だいせん)から流れ込む水と、海底にある湧水による恵みなんです」

 京都大では水産生物学、特に沿岸性魚類の研究に没頭し、その発生や生育で成果を残した。

 「生態を研究するうち、稚魚は沿岸部に集中することが分かってきました。つまり、山と海の結節点である沿岸が生き物にとって豊かであるということ。そうしたことがはっきりと研究成果として確信するころには、現役を終えるほどの歳月を費やしていました」

 そして、今から15年前に提唱したのが「森里海連環学」だった。

   ■ ■ ■

 山から森、人が住む里、そして海-。その多様で複雑なつながりが、豊かな自然環境を育んでいるのではないか。その仮説を実証的に学問研究として論証する。

 「当然、それぞれの領域が有機的につながっているわけです」

 野山に雨が降り注ぎ、やがて川となって海へと注ぐ。海面は陽光に照らされ蒸発し、雲となってまた雨として降ってくる。「その循環の中でも特に重要なのが里と海をつなぐ『沿岸』です」

 海遍路をスタートさせたのも、この「沿岸」を巡るフィールドワークだったからだ。

 陽光が西へ沈み込む前に、カヤックを岸へと寄せる。今夜のテント場は大山の麓にある小さな港、御崎漁港だ。傍らに磯場がある。


里と海をつなぐ「沿岸部」が自然の連環を再生していく上で重要だと話す田中克さん=5月16日、鳥取県大山町の御崎漁港
里と海をつなぐ「沿岸部」が自然の連環を再生していく上で重要だと話す田中克さん=5月16日、鳥取県大山町の御崎漁港

 海遍路の旅は常に野宿。宿を探す手間も時間も必要ない。天候と人力に頼った旅程は時に停滞し、時に先を急ぐ。だから野宿だ。費用がかからないという要素も忘れてはなるまい。

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