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〈時代の正体〉補助金不支給は人種差別 朝鮮学校補助金問題で県弁護士会

時代の正体 神奈川新聞  2018年11月15日 02:00

会見する神奈川県弁護士会の芳野会長(左から2人目)ら=横浜市中区の県弁護士会館
会見する神奈川県弁護士会の芳野会長(左から2人目)ら=横浜市中区の県弁護士会館

【時代の正体取材班=石橋 学】県が朝鮮学校に通う児童・生徒への学費補助金の支給を停止しているのは人種差別に当たるとして、神奈川県弁護士会(芳野直子会長)=は14日、黒岩祐治知事に対し、人権救済申立制度に基づく「警告」の決定を交付した。平等を保障する憲法14条に違反すると認定し、人権侵害を直ちにやめるとともに、権利回復のため2016年度にさかのぼって支給を再開するよう求めた。

 警告書は、補助金不支給は「教育(民族教育)を受ける権利に不利益を及ぼす差別的取り扱い」であり、憲法や国際人権条約が保障する平等原則に反すると指摘。「朝鮮学校に通う児童・生徒への差別の助長につながりかねない極めて重大な問題」と非難している。

 県は神奈川朝鮮中高級学校(横浜市神奈川区)で使用している歴史教科書の内容を問題視、拉致問題を盛り込む改訂がされていないことを理由に16年度から補助金を支給していない。

 今年1月の保護者の救済申し立てを受け、調査に当たった県弁護士会人権擁護委員会は、朝鮮学校に対してのみ教科書改訂を条件にしていることを「拉致を行った国家と朝鮮学校を結び付け、他の外国人学校と区別的に取り扱っている」と判断。支給要綱になく、児童・生徒と無関係で関知し得ない条件を設定する不当さなどを指摘し、「手続きも理由も正当とは到底言えず、不合理な差別的取り扱いで憲法14条に違反する」と結論付けた。

 朝鮮学校への補助金停止問題で警告の決定が下されるのは15年の埼玉弁護士会に続き2例目。記者会見した本田正男人権擁護委員長は「人種差別という切実な問題。県には真摯(しんし)に受け止め、考えを変えてほしい」と話した。

「尊厳認められた」保護者


 県弁護士会が発した「警告」は人権救済申立事件において最も重い決定だ。会見した千木良正弁護士は「子どもの教育権という重要なものが制限されている」と補助金不支給による被害の重大さを強調した。


神奈川県弁護士会が黒岩知事に交付した警告書
神奈川県弁護士会が黒岩知事に交付した警告書

 救済を申し立てた保護者118人の一人である母親(49)は「当たり前の尊厳がようやく認められた」と喜んだ。朝鮮学校の否定は在日朝鮮人として生きることの否定を意味する。「子どもに矛先が向けられるのは許せなかった」

 県は拉致問題を絡めて朝鮮学校にのみ教科書の改訂を突き付ける。これに対し人権擁護委員会の調査報告書は、その不当さを国際・政治情勢に左右されず教育権を保障するとした補助金制度の理念に反する自己矛盾、私立学校の自主性尊重原則に抵触する逸脱といった、さまざまな観点から指摘。憲法だけでなく子ども権利条約や人種差別撤廃条約などの国際条約にも違反する差別と断じた。

 「県民の理解が得られない」との言い分も「憲法は多数派の意思を反映した国家権力を制限し、少数派の人権を保障するために存在する」と一蹴。県民の「誤った理解」を正そうとしないばかりか、行政による不当な扱いが差別を助長すると駄目を押した。

 弁護士会の決定に法的拘束力はない。「差別」との認定を受けてなお、黒岩祐治知事は「拉致問題の明確な記述のある教科書への改訂を確認したら交付する」と、従来の見解を改めなかった。言葉を失いそうになりながら母親は言った。「まかり通ってきた差別行政に良心が示された。何が問題なのかを知り、おかしいと考える人はきっと増えていく」


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