1. ホーム
  2. 社会
  3. 外国人受け入れ拡大、審議入り 「移民」と認め議論を

横浜市立大講師:六辻彰二さん
外国人受け入れ拡大、審議入り 「移民」と認め議論を

社会 神奈川新聞  2018年11月13日 10:14

横浜市立大講師 六辻 彰二さん
横浜市立大講師 六辻 彰二さん

 深刻な人手不足を背景に、単純労働を含む外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案が13日の衆議院本会議で審議入りする。ただ、受け入れる業種、人数は不明で、生活環境の整備についてもこれまでに踏み込んだ議論はない。政府が「移民ではない」と強調する中、国際政治学者で横浜市立大講師の六辻彰二さん(46)の懸念は膨らむ。「日本社会の大きな方針転換で、社会全体で生きている人間を外から受け入れるという話。時間をかけて議論すべきだ」。その第一歩は「移民」と認めることだという。 

 -法改正の評価は。

 「改正案は日本社会の現状に合わせたものとして、評価していいと思う。人手は足りず、少子高齢化も進んでいることを考えれば、逆に遅すぎたという気もしないではない。一方で、これが実質的な移民政策であるということを政府が認めない、公式には言わないところが最大の問題だ。実際の内容を覆い隠し、そうでないものにしようとしている点が、非常に気になる」

 -移民でないと強調される背景は。

 「外国人が大量に入国することに、拒絶反応が起こる人がいるだろう。欧米諸国の経験から、移民の低所得層が、医療費や教育費などの財政的負担になるという懸念も強いのでは。一方で、政治的背景もあるだろう。安倍晋三首相には、経団連などの経済界と、非常に保守的な人たちという2つの支持基盤がある。経団連は人を呼び込みたいが、保守層はそれは困ると。落としどころとして『あくまでも労働力、働き手で一時的』と言わざるを得ないのだろう」

 -移民でないということは、どういう意味か。

 「できるだけフレキシブルに外国人を配置できるように、という趣旨なのかと思う。たとえば景気が悪くなって労働力が必要でなくなったときに『どうぞお引き取りください』と言うことが可能で、『そう扱います』ということなのかとすら思う。そうした不人情を織り込み済みということでいいのか。経団連は立場があり要求するのだろうが、経済合理性だけで人間は生きているわけではなく、それをアレンジするのが政府の仕事。だが、それがまったく見えない」

 -移民の定義は。

 「国際移住機関(IOM)の定義に照らせば、国を超えて移動すれば移民というのが、非常にシンプルな考え方。それからすれば、今いる184万人の外国人も、どう考えても移民だ。ずっと住み続ける人もいる。私の近所にもカレー屋を営むネパール人がいるが、住民税を払い、お祭りに寄付をしたり、一緒に屋台をやったりと、立派な社会の一員だ。それでも移民でないというのだろうか」

 -新たな外国人が入ってくるとどうなるか。

 「法案通りなら、新しく入ってくる人は特定技能1号、2号とカテゴリが設けられる。合法移民は、その国の市民と差を設けないというのが世界的な標準であり、彼らに義務教育や社会保障の面で、それほど日本人と差をつけるわけにはいかないだろう。もっと言えば、条件の悪いところにだれが好んで行くか。優秀な働き手を確保したければ、日本人と条件をそろえざるを得ない。そうすると、今までいた人も同じ条件に本来そろえねばならないだろう」

 -移民でない、というまま進めるとどうなるか。

 「実際とは違うという矛盾を引きずり導入することが、先々の日本にとっていいことか。最初のボタンのかけちがいをできるだけ無くしておかねば、後の世代にしわ寄せがいく。保守的でなくても、移民が来たら治安が悪くなるのでは、といった不安を持つ人はいるだろう。受け入れた際にどういうことが想定され、どのような問題があるか、他国の例ではどうだったかを説明した上で、それを補って余りある利益が相互にあると、きちんと伝えなければ。だが現状は、移民ではなくあくまでも一時的といいつつ、2号では期間の上限を設けない、人数も上限を定めない。言い方は悪いが、ダダ漏れだ。見切り発車でやっていい政策でない」

 -矛盾の放置が生む、しわ寄せとは。

 「今、人が足りないから今入れましょう、先のことは先で、ということでは、社会保障や教育など、財政がどうなるか見えない。たとえば子どもを育てるときや、本人が学校で学びたいとき、介護が必要となったときどうするか。単なるマシンではなく人間を受け入れる以上、そういった環境整備は絶対に必要だ。基本的に受け入れは支持するが、そうしたこともきちんと今決めなければ、後付けということでは、将来世代の不安となるだろう」

 「たとえば特定のエリアに特定の国の人が集まることなどで起きるトラブルが、全国に広がるとしたら。国内でのヘイトスピーチが余計に広がることも懸念される。そうなれば、雇う側も、できるだけ日本人がいい、となるかもしれない。そして所得水準が低い階層に外国人が集まってしまうとしたら。ただでさえ子どもの貧困が先進国中最も高いといわれている日本が、『世界から尊敬される国』になれるのか」

 -環境整備について政府は考えているだろうか。

 「考えていると信じたいが、人手不足という条件のもと、渋々やっている感がある。とりあえず当面の人手不足だけ解消できるような形で受け入れられればいいんじゃないかと。国際的に評判が悪い技能実習生を増やすことはさすがにできず、正規の労働者として受け入れるという体裁だけをとるが、そこまでなのかな、という気がしないでもない」

 -新たに外から人を受け入れる重大な話だが、それでいいのか。

 「政府の認識はともかく農業でも、コンビニでも、旅館でも、多くの人は日常的に外国人が働く状況を目にしている。『何を今更』という感覚もおそらく多いだろうし、大きな転換があると、市民側にあまり認識されていない気がする。多くの人が『そのうち帰るのだろう』という感覚でいる一方、ずっと住み続けることもあると法的に認めるなら、そこにギャップがある。政府の側の責任はあるが、『何を今更』という認識を私たちも変える必要がある。彼らを雇う立場の中小企業の社長でも、われわれサービスを受ける側でも関係があることなのだから」

 -今回の審議で、一番必用なことは何か。

 「まず、今回の改正案に関して言えば、移民だと認めることだ。日本には日本人しかいないという神話があり、そういう建前になっている部分があるが、決してそんなことはないと認めることが第一歩だろう。そして、日本人だけでたち行く状態ではないということ。そこからスタートすべきだと思う」

 -国会審議に望むことは。

 「もう少し時間をとり、きちんと議論すべきだ。受け入れる人数、出身国といった基本的な枠組みや、受け入れた人たちの賃金体系や社会保障などの権利、トータルな設定について、踏み込んだ議論が見受けられない。そこが必要だ。もう一つは、あくまでも『労働力』を受け入れるという認識なのか、ということ。人を受け入れる以上、日常生活があるが、現状では教育や社会保障などは自治体に丸投げで、政府が明確な基準を定めないため、自治体ごとに対応に差がある。それで果たしていいのか。そこを野党の側ももう少し突っ込んで聞いてもいいのでは。受け入れる人を日本全体でどう見るべきかという議論こそ、必要だ」

むつじ・しょうじ 横浜市立大卒。国際政治、アフリカ研究を中心に、学問領域横断的な研究を展開。横浜市立大、明治学院大、拓殖大、日本大講師。著書に「イスラム 敵の論理 味方の理由」(さくら舎)、「世界の独裁者-現代最凶の20人」(幻冬舎)など。


シェアする