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「津波災害警戒区域」の指定進まず 神奈川など35都道府県が未指定

社会 神奈川新聞  2016年11月06日 02:00

 東日本大震災を教訓に沿岸部の津波避難対策を強化する「津波災害警戒区域」の指定が全国的に進んでいない。制度化から来月で5年となるが、区域を指定したのは海に面する39都道府県のうち、南海トラフ巨大地震で津波の被害が見込まれる静岡、和歌山、徳島、山口の4県のみ。神奈川など35都道府県が未指定のままだ。沿岸部のイメージ悪化や人口減への懸念が地元に根強いためで、発生頻度の低い津波のリスクに向き合い続けることの難しさを浮き彫りにしている。

 津波災害警戒区域は、2011年12月施行の津波防災地域づくり法に基づくもので、最大級の津波で浸水が想定される沿岸部に都道府県が指定する。実践的な訓練や避難計画づくりなどを通じて命を守れるようにする警戒区域のイエローゾーンのほか、より深刻な被害が想定され病院や学校などに建築規制をかける特別警戒区域のオレンジゾーン、市町村が住宅も規制対象に加える特別警戒区域のレッドゾーンがある。

 国土交通省によると、これまでに警戒区域の指定を終えたのは、徳島、山口両県のみ。静岡、和歌山両県は指定を進めているが、なお未指定の地域が残る。特別警戒区域のオレンジ、レッドの各ゾーンは全国的にまだ指定されていない。

 同省水政課は「地元市町村には地価下落などへの不安があると聞くが、説明会などを通じて理解を求め、適切に指定が進められるようにしたい」としている。

 静岡県は今年3月、伊豆半島相模湾側の東伊豆町と河津町で警戒区域を指定した。しかし、対象の沿岸市町は21に上り、駿河湾側を中心に19市町の指定作業を残している。

 「全ての沿岸市町に警戒区域を設定する方向だが、各市町に指定の必要性について議論してもらうことが前提」と県担当者。有識者による検討委員会を設けて指定推進に向けた提言を受けるなど慎重な手順を踏んできたのは、「浸水想定の公表後、地域によっては人口が流出し、企業が生産拠点を内陸部に移す動きがみられた。そうした影響に対する市町の懸念に配慮する必要もある」からだ。「現時点では、指定完了の目標年次はない」としている。

 これに対し、和歌山県は昨年9月、沿岸の全20市町で一斉に警戒区域を定めようと指定案を公表。同年中の指定を目指したものの、和歌山市から「警戒区域として明確に線引きしてしまうと、浸水想定域外の住民にも避難を求める市独自の対策がしにくくなる」といった異論が示されたため、同市については見送った。

 同県南部では、南海トラフ巨大地震が発生すると2~3分で津波が押し寄せるとの厳しい想定が示されている。各市町の指定の受け止めについて、県担当者は「こうした仕組みを活用して備えたいという意見の方が強い」という。

 2月に指定を終えた山口県も「地価が下落したというケースは聞いていない」と強調。ただ、「オレンジゾーンやレッドゾーンは、長期的なまちづくりに関わる大きな問題。慎重に進めざるを得ない」と、一層の対策を講じる場合の難しさを口にする。

 神奈川県は来年2月に修正予定の地域防災計画に警戒区域の指定に努めるとの規定を追加する方針。具体的な検討はまだ始めておらず、県災害対策課は「市町と調整しながら進めたい」と慎重な姿勢を見せる。

 県内のある沿岸自治体の担当者は「土砂災害警戒区域は周辺で急傾斜地の工事が行われる場合もあり、対策が目に見える部分もあるが、津波災害警戒区域はそうしたメリットがない」と制度面の課題を指摘。「毎年のように起きる土砂災害と違い、津波は発生頻度が低いため、指定への理解が得にくい」とみている。


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