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本人と家族 寄り添い続け 横浜市後見的支援制度(上)

社会 神奈川新聞  2018年10月03日 10:06

福祉関係者らが集まった研修会「親なきあとの『成年後見』」。障害のある人が地域で暮らすための支援などが解説された =横浜市社会福祉センター
福祉関係者らが集まった研修会「親なきあとの『成年後見』」。障害のある人が地域で暮らすための支援などが解説された =横浜市社会福祉センター

 障害のある人と家族が住み慣れた地域で安心して暮らしていけるようサポートする「横浜市障害者後見的支援制度」が、全18区での実施から1年を迎えた。制度は福祉の専門職や地域住民らが障害者の日常生活を見守り、本人の思いや家族の希望や不安などを受け止めながら寄り添い続けることが柱だ。親が亡くなるなどの変化があっても、本人が願う地域での生活をどうすれば実現できるかを共に考え、支えていく市独自の取り組みの今を紹介する。

 今夏に福祉保健研修交流センターウィリング横浜(同市港南区)が開いた研修会「親なきあとの『成年後見』」。会場の市社会福祉センター(同市中区)には、福祉関係者や地域で活動する人たちが集まった。

 研修では、知的障害のある娘を持つ行政書士で、「『親なきあと』相談室」(東京)を主宰する渡部伸さんが講演。親の死後に子どもがお金で困らないための方策や、成年後見制度などについて説明した上で「お金さえあればいいわけでもない。制度を知ることは大事だが、人とのつながりをつくることはもっと大事。いろいろなところとつながり、接点を持ってほしい」と話した。

 市内に住み、障害のある子どもがいる親も登壇。これまでの暮らしぶりや後見的支援制度の利用などについて語り、参加者は真剣に聞き入った。

 後見的支援制度が目指すのは「障害者本人の権利擁護」と「地域で暮らしていくためのつながりづくり」だ。そのために障害者本人の願いや家族の思いなどを個別にじっくり聞き、日常生活も見守って本人の望む暮らしの実現をともに探っていく。

 利用は無料。登録は18歳以上の障害者が対象で、本人が希望する限りいつまでも利用できる。身体介助などのサービス提供やその調整などはせず、財産管理や契約行為などを後見人らが行う民法上の成年後見制度とも異なる。

 2010年10月に南、保土ケ谷、都筑、栄の4区で始まり、17年から全18区で展開されている。市障害企画課の佐渡美佐子さんは「地域で支え合う仕組みづくりのために構築した制度。生活全体を見ながら障害者本人の気持ちを確認し、黒子のように寄り添うということが画期的」と説明する。

 今年3月末で、10代から70代以上までの1365人が利用者として登録。知的障害939人、精神障害224人、身体障害79人と、さまざまな障害のある人が利用している。

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 制度は障害者への教育、福祉が不十分だった1973年から、在宅の障害者に支給されていた「市在宅心身障害者手当」の見直しをきっかけに立ち上がった。86年に国が障害基礎年金を創設したことをはじめ、在宅福祉サービスの整備はその後も進んだ。

 一方で、自宅で暮らす障害者の多くは親が生活を支えている。そのため、特に母親が亡くなると残された家族でも本人への対応が分からなくなってしまうことがあり、親が亡くなった後や、障害者が地域で暮らすための不安の声は少なくなかった。

 障害者団体や家族らが手当のあり方について意見交換を重ね、個人向けの支給ではなく、財源を地域で安心して暮らすための施策などに活用するという方向で一致。後見的支援制度の発足につながった。

 制度利用の拠点は、各区に設置された「障害者後見的支援室」。主に障害福祉に携わってきた社会福祉法人が運営する。さらに、支援内容のばらつきがないよう各運営法人を支え、制度を取りまとめる市社会福祉協議会(同市中区)障害者支援センターが「あんしんマネジャー」という職員を各支援室に配置、双方がチームを組んで進める。

 マネジャーは、本人や家族の話を聞いて見守り体制や支援計画を作り、定期的な訪問などを通じてうまく進んでいるかを本人らとともに考える。

 障害者の日常活動の場などを訪ねて話を聞くなど、本人に最も近い支援者が「あんしんサポーター」だ。また、障害者の親同士や利用者の近所に住む人など、身近にいて本人に何か困ったことが起きたときに支援室に連絡するなどの手伝いをする「あんしんキーパー」もいる。運営法人の担当職員も在籍し、制度の啓発やキーパーの発掘などに取り組む。

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 制度は障害者が地域で安心して暮らすための見守り体制を作ることが主な目的だが、運用する中で障害者本人と家族が何を求めているかをはっきりさせる効果もあったという。

 障害者本人と家族の意向が異なることもあるため、話はそれぞれ個別に、じっくり聞く。重い障害のために言葉によるコミュニケーションが困難な人に対しても、動作や表情、雰囲気などから思いをくみ取る。

 市社協障害者支援センター「あんしんマネジャー」の瀧澤久美子さんは、「自分たちの希望や悩みを発信することが困難で、その機会に恵まれなかった障害者が、自分たちの言葉でそれを伝えることができるようになり、コミュニケーション力が引き出された」と話す。それにより、「制度が始まってみたら、(その仕組みが)結果的に意思決定支援になっていた」(同センターの手代木貴行さん)という。

 家族も、具体的な困りごとではない、自分の気持ちなどを語れる場は少なかった。「親がいなくなった後の不安や、漠然とした将来のことを相談するところがない」という声は以前から上がっていたという。制度の支援者と定期的に会い、本人の日常の暮らしぶりなどさまざまなことを話すことで、親も不安や悩みが整理されてくるという。

 障害者本人への福祉サービスや支援がどれほどあっても、地域で暮らすにはその人を見守る人が必要だ。制度創設から8年目になるが、その暮らしを望む人すべてには、まだ浸透していない。佐渡さんは「住み慣れた地域で安心して望む暮らしが実現できることが制度の柱。必ず使わなければならない、というものではないが、仕組みはぜひ知ってほしい」と呼び掛けている。

 問い合わせは市社協障害者支援センター電話045(681)1277。


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