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地元で凱旋公演
「君住む街へ」 小田和正(横浜編)

カルチャー 神奈川新聞  2016年11月01日 11:01

地元・横浜でコンサートを行った小田和正=10月18日、横浜アリーナ(アリオラジャパン提供)
地元・横浜でコンサートを行った小田和正=10月18日、横浜アリーナ(アリオラジャパン提供)

 横浜出身の歌手・小田和正(69)が10月18、19日に横浜アリーナ(横浜市港北区)で凱旋(がいせん)公演を開いた。母校・聖光学院(中区)の恩師も見守る中、地元を思う気持ちを強く感じるステージだった。

 「このツアーは、48本ありまして。45本目にして、ようやく横浜に戻ってまいりました」

 “聖地”に戻った小田に、「お帰りなさい」と声が飛ぶ。スッと息を吸い、歌い始めた第一声は、港を行き交う船の帆を膨らませる柔らかな風のよう。

 開演前。地元ならではの“おもてなし”として、巨大スクリーンに、氷川丸(1日目)、横浜赤レンガ倉庫(2日目)のイラストを映し出した。潮の香りが鼻をくすぐるかのような演出に、鼓動が高鳴る。

 「横浜を舞台に作った」と紹介した、オフコース時代の名曲「秋の気配」を歌う際は歌詞に登場する、港の見える丘公園を大スクリーンに投影。近くの教会やホテルの写真が、アルバムをめくるように展開された。

 生まれ育った街。

 MCでは、伊勢佐木町にあったパーラーに出入りしていたことなど、やんちゃだった中・高生時代の思い出を明かした。また、「21世紀に入ってから、神奈川新聞か朝日新聞か忘れちゃったけれど、MM21(みなとみらい21)について書いてくださいと言われて。(当時は)ネーミングが気に入らないと思っていたから存分に悪口を書いたんですけど、だんだん好きになって…。いまさら言い訳を書かせてくれとは言えないけれど、いまも横浜に帰ってくると、その記事のことを思い出して、何となく落ち着かない」と告白、笑いを誘う一幕もあった。

 景色は変わっても、街を愛する思いは変わらない。「故郷って本当に大事だなと思います」。静かにピアノを奏でた「my home town」では、コンサートの前半と後半の間に流す「ご当地紀行」(ライブを行う土地の名所などを訪れる映像作品)で足を向けた野毛山公園や横浜ベイブリッジなどを背に歌った。小田に送られる視線も、小田が観客に戻す視線も熱に満ちていた。曲の終盤には中学2年生の時、キャプテンを務めるほど打ち込んだ野球のグラウンドやMM21地区の映像も流れた。同曲は京急・金沢文庫駅のホームでご当地メロディーとして愛され、いまや街の一部になっている。


 約3時間のライブでは、客席の間に広がる花道を何度もダッシュ。「体力の限界を考えずに走り回ってしまいました。もうヘトヘト」と肩をすくめたが、曲が流れると、体を反らせ全力で歌った。踏み出す一歩が、心を揺さぶる。

 「あと1、2年は歌おうかなと思います。またみんなが聴きたいと思える曲を、何とか頑張って。じゃあ、みんな元気でね」。汗でぬれたその背中に惜しみない拍手が送られた。

 終演後、ツアータイトルの「君住む街へ」と記されたゲートで記念撮影をしていた川崎市の40代夫婦は「歌う姿に勇気づけられた」と口をそろえた。札幌市から訪れた女性グループは「『また会おうぜ!』と言ってくれた。いつまでも待っています」と目に涙をためていた。

 東日本大震災で被災した宮城県栗原市の50代の女性は小田の曲にまつわる逸話を語った。電気や水が止まり、ガソリンもなくなった震災直後、点灯しない信号で足が止まってしまい、張り詰めていた糸が切れ、涙があふれた。「その時、頭の中で小田さんが『君住む街へ』を歌う声が聞こえたんです。(地震は)一生に一度、あるかないかの出来事。亡くなった人も大勢いて、つらい思い出がある曲でしたが、小田さんが愛する街でこの曲を聴くことができてうれしい。いつまでも元気で歌い続けてほしい」と願った。

地元公演で出会ったファンの声

 
 初秋の午後9時半を過ぎたころ、横浜アリーナ(横浜市港北区)のロビーにコンサートを見終えた観客たちの姿が見えた。どの人も笑顔で、目にしたこちらも温かい気持ちになった。4月から始まった全国ツアー「君住む街へ」は季節が巡り、35公演目にしてようやく、小田が生まれ育った横浜に戻ってきた。

 「小田さんの地元で聴く歌声は特別」と多くの人が口をそろえた。地元公演で出会った人の声をリポートする。

▼コンサートは、一緒に歌うことができるところが魅力です。今回のツアーでも何度か、「一緒に歌いましょう」とマイクを向けて下さったことがありました。私も1度向けられて、焦りましたが特別な思い出になりました。間近で見た小田さんは、エネルギーにあふれていて、でもとても優しい目をしていました。横浜で行われたコンサートに来たのは初めてでしたが、これまで見たどの小田さんのコンサートよりも、きょうが1番と思える幸福感がありました。(秦野市・自営業女性・50代

▼第一線で居続けているそのパワーに刺激をもらっています。小田さん本人は「こんな歳になってまで、歌うとは思わなかった」とおっしゃったりするけれど、まだまだ! 歌うことに命を懸けているからこその言葉なのだろうと思います。60歳を過ぎて声が優しくなったなと感じますし、人となりは声に現れています。「心を込めて歌います」と言って、本当に心を伝えられる人は多くない。心を歌で表現できる。素晴らしい人間性だと思います。(東京都、主婦、40代

▼小田さんの地元でのコンサート。絶対見たい! と岡山から娘と来ました。「心はなれて」を歌われたとき、34年前に日本武道館(東京都千代田区)のスクリーンに映し出された「over」の文字とヒマワリの花畑の映像が流れて、グッときました。(岡山県・主婦・50代

▼5年前、就職のため岡山から上京したばかりのころ、さみしくなると「君住む街へ」を聴いていました。きょう、小田さんが歌う「君住む街へ」を聴いて、親元を離れたばかりで、心細くしていた自分のことを思い出しました。(岡山県・女性会社員・20代

▼今回のツアーはきょうで20公演見ています。でもやはり、地元・横浜は気合が違います。きょうが1番良かった。(東京都・男性・50代


小田和正が公演を行った横浜アリーナ。会場入り口には小田がギターを持つ姿をシルエットにしたゲートが設けられた
小田和正が公演を行った横浜アリーナ。会場入り口には小田がギターを持つ姿をシルエットにしたゲートが設けられた

 ▼高校生のとき、生まれて初めてコンサートに行ったのが、小田さんでした。観客全員で歌ったり、楽しむことができるのが、小田さんのコンサートの魅力です。ファンとのやりとりも、とても温かくて、小田さんの心遣いを感じます。(東京都・男性・40代

▼横浜でのコンサートは小田さんも、見る人も気合が違うと感じました。ほかの会場にも足を運びましたが、序盤は完売になっていなかった会場もあったのですが、横浜のチケットは争奪戦で、(ジャニーズの)嵐にも(入手困難さで)負けない!と思いました。1日目は「走りすぎてヘトヘトになった」とおっしゃっていて、2日目は「昨日の反省を…」と言っていたけど、2日目もダッシュされていました。途中、こけそうになったときもあって、ヒヤリとしました。(大阪府・女性・50代

▼学生のときに、「伊勢佐木町や日の出町のパーラーで買い食いしていた」とか、子どものころを振り返られていて、とても楽しいMCでした。でも一緒に見ていた友だちと、「子どものころに、(子どもだけで)喫茶店に出入りなんてしないわよね。小田さんって、どこかにお坊ちゃんさが出るのよ」と話して笑いました。(大阪府・女性・50代


▼中学生のときに、初めて「さよなら」を聴いて、自然に涙が出て、そのときからずっとファンです。受験勉強をしながらずっと聴いていたので、当時の曲を耳にすると、机に向かっていた自分のことを思い出します。小田さんは、伸びやかな声が何よりの魅力です。きょうは弟と妹と3人で来ました。今回のツアーは演奏する半分以上が、オフコースの曲なので、本当に感無量です。(千葉県・女性・50代

▼披露された曲はアレンジをされているものもありましたが、「さよなら」はオフコース時代を思わせる演出でじんとしました。オフコースを知ったのは、好きになったのは解散後でしたが、いまも変わらない小田さんの声で歌を聴くことができて感動しました。僕も姉と同じように、学生のころを思い出しました。(東京・男性・40代

▼コンサートの最後に、「また会おうぜ!」と言ってくれました。「また」来る日を楽しみに待っていたいと思います。(北海道・女性・40代

▼母がファンで小さい頃から聴いて育ちました。きょうは母と初めて一緒に来たけれど、当日券を1枚しか購入できず、コンサートには母が1人で参加しました。ハイトーンで美しい声が魅力。穏やかに見えるけれど、話し始めると毒舌なところもあり、人柄もとても好きです。
 「僕のおくりもの」を聴くと、母とカセットテープを回して聴いていた時のこと、並んで聴いていた部屋に入り込む夕日が目に浮かびます。
 母を会場の外で待っている間、チケットを持っていない人も開演中に、(会場内のロビーで)グッズを購入できたので、「伝えたいことがあるんだ」を歌う声が聞こえて胸が熱くなりました。
 母は小田さんと同世代。小田さんが歳を重ねてますます元気になっている姿に元気をもらっているので、いつまでも頑張ってほしい。私たち若い世代も、刺激を受けています。(横浜市磯子区・女性会社員、20代

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 会場を出て、すぐのところにある飲食店は、ファンの気を引こうと、「Yes-No」など小田の曲を店頭で流していた。小田の音楽を通じて出会ったコンサート仲間たちと、吸い込まれていく人。一方で、口ずさみながら駅に向かう人たちの声が聞こえてきた。繰り返し聴き、親しんできた曲は歌詞カードを見なくても、歌うことができる。歌の力を感じさせられた。



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