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高校野球丸刈り考(下)「揺り戻し」の理由とは

高校野球 神奈川新聞  2018年09月15日 09:38

今夏の甲子園に出場した慶応ナイン。ほぼ全員がスポーツ刈りよりも長めの髪型をしている=8月、甲子園
今夏の甲子園に出場した慶応ナイン。ほぼ全員がスポーツ刈りよりも長めの髪型をしている=8月、甲子園

 神奈川の高校野球において、1990年代に影を潜めつつあった丸刈りは、2000年代に入るとまた息を吹き返す。慶応高校などの一部の野球部を除き、大半の選手がバリカンでそっている。この「揺り戻し」は、なぜ起きたのだろうか。

 まず単純な丸刈りのメリットとして、洗うのが楽、バリカンさえ買えば散髪代がかからない、といった点がある。

 春夏合わせて甲子園11度出場の桐蔭学園高校でも、制服がブレザーに切り替わるタイミングで丸刈りを一時的に辞めたが、「桐蔭は寮生活で選手全員を理髪店に連れて行くのも大変だし、何よりお金がかかって仕方なかった」。当時の土屋恵三郎監督(現星槎国際湘南高校監督)によると、4年間ほどで戻したという。

 今、県高野連の理事やベテラン監督に聞くと、おおむね以下のような答えが返ってくる。

 「最近はこっちが特に何も言わなくても、入部する時には、ほとんどの生徒が自分から頭を丸めてきますね」

 90年代には半数ほどの指導者が「髪型の自由」を許容していたことから、「押さえつける指導者」と「受け入れざるを得ない生徒」という図式は現在に当てはめられないだろう。

 2014年まで県高野連の理事長(専務理事)を10年間務めた名塚徹・港北高校監督は、イメージの変化をこう見る。

 「昔は『やらされているかっこ悪いもの』だったのが、1990年代に一応は自由な選択肢を与えられたら、その後から段々と『そんなことないじゃん、むしろ野球部なら丸刈りでしょ』という前向きな気持ちを表すようになっていったように思う」

 ■ ■

 90年代前半はサッカーのJリーグが開幕し、Jリーガーやテレビドラマの主人公が、こぞって長髪の「ロン毛」にしていた。高校野球の髪型自由化の動きはこの前から始まっていたが、世の中も丸刈りとは縁遠くなっていた。

 ところが、2000年代に入る頃に潮目が変わる。メインボーカルが丸刈りのグループ「EXILE(エグザイル)」が国民的な人気を博し、男性誌では「おしゃれボウズ」という言葉が頻繁に使われるようになった。短髪への世間的なイメージが変わっていく時代とも重なり、高校球児の丸刈りへの回帰も顕著になっていく。

 母校の日大藤沢高校を率いる山本秀明監督は高校時代、1歳下の1989年の代からスポーツ刈りが解禁された。だが2004年に監督に就く頃には元に戻っていたという。

 「選手が『気合を入れる』と言って自分で五厘刈りにしてきて、校長に『君がやらせたのか』と問い詰められたことがある。五厘刈りなんて僕らの時は罰としてやらされるものだった。今の子たちは感覚が全く違う」

 かつてつきまとった「強制」や「負」のイメージが時代や流行、感覚の変化とともに薄れていき、野球部のアイデンティティーとして「正」の意味合いを帯びるようになった。

 ■ ■

 「非丸刈り」を貫いている慶応高校を15年までの25年間率いた前監督の上田誠さんは、高校球児の髪型と野球人口減少に相関性をみている。

 「競技人口が多かった昔は頭を丸めるのは嫌だけど、野球はやりたいから渋々受け入れる生徒が多かった。近年は、丸刈りが嫌な子は最初から野球を選ばず、ずっと続けるのは少年野球の頃から丸刈りを許容して割り切っている子、という傾向が強くなっていると思う」

 全国の小中学生の野球人口は、07年からの10年で約16万人減って49万人程度。夏の甲子園を目指す高校野球の地方大会の参加数も15年前の85回大会に最多の4163校を記録してから減り続け、今年は3781校となった。神奈川も00年の207校をピークに減り始め、今夏は186校だった。

 一方で、複数の高校でつくる連合チームは昨年の57チーム(153校)から81チーム(212校)となり、過去最高を記録した。

 全国的な傾向として一部の公私立の強豪校に選手が集中し、そのほかは部員集めに苦労するという「二極化」が進んでいる。

 それを踏まえ、上田さんは「公立の野球部を支えていたのは、野球はやりたいけど高校まで来て丸刈りは嫌だと悩む“中間層”だった。今はこの“中間層”が薄くなり、ここでも二極化が進んでいる」と考えている。

 「頭を丸めるならと野球を選ばない子ども、そして頭を丸める野球を選ばせたくない親という淘汰(とうた)が、昔より早い年齢で起きている。だからこそ『髪を伸ばして野球やろうよ』と言える指導者が高校で増えないと、ますます野球が選ばれなくなる」

 高校球児が進んでバリカンをあてているとしても、それが競技人口減の遠因となっているとすれば、確かに悩ましい。ただこれだけ横並びで丸刈りにする中、選手や監督一人、あるいはチーム一つが、その慣習を断つのはなかなか勇気がいる時代になっているのかもしれない。

 流れが変わる日がまた来るだろうか。それとも、このままだろうか。


今夏の全国高校野球選手権神奈川大会開会式で整列する選手たち。見事に丸刈りが並ぶ中、髪を伸ばしているのは慶応ナインだ=2018年7月、横浜スタジアム
今夏の全国高校野球選手権神奈川大会開会式で整列する選手たち。見事に丸刈りが並ぶ中、髪を伸ばしているのは慶応ナインだ=2018年7月、横浜スタジアム

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