1. ホーム
  2. K-Person
  3. 魅了され続けた 日本の大曲に挑む

【K-Person】山田和樹さん
魅了され続けた 日本の大曲に挑む

K-Person 神奈川新聞  2016年10月30日 11:33

山田和樹さん
山田和樹さん

山田和樹さん

 今秋、日本人初となるモンテカルロ・フィル芸術監督兼音楽監督に就任した。世界が注目する気鋭のマエストロが、「私財をなげうってでもやらなければならない」と意気込む演奏会がある。

 「柴田南雄 生誕100年・没後20年記念演奏会 山田和樹が次の時代にのこしたい日本の音楽」-。作曲家、音楽学者、音楽評論家として活躍した柴田(1916~96年)を取り上げた演奏会で、11月7日にサントリーホール(東京都)で開催する。山田自らが企画した異色のコンサートで、日本フィルハーモニー交響楽団、東京混声合唱団などと協演する。

 「僕自身、失礼ながら2004年に東京混声合唱団で指揮するまで、先生のことを知らなかった」と山田。だが、「出会ってみたらすごくすてきな世界だった」と、それ以降、魅了され続けている。

 柴田は、会場全体を使い、客席間を行き交いながら即興的に演奏や合唱を披露する音楽手法「シアターピース」を生み出したことで知られる。

 シアターピースの1作目となる「追分節考」(73年)では、信州の山中で、馬をひきながら歌い継がれてきた民謡などが作品に盛り込まれ、歌い手たちは会場を行き交いながら歌声を披露する。山田は、「何かが移動すると、空気の流れが変わる。その空気の流れに観客を置こうと、欧州に先駆けて挑戦したのが柴田先生。その偉業をもっと多くの人に知ってほしい」とコンサートを企画した。

 幼稚園児の頃から、音感教育や児童合唱団で音楽に親しんできた。県立希望ケ丘高校で吹奏楽部に入ってから、本格的に指揮の勉強を開始。東京芸大指揮科に進学した。「学生時代が一番忙しくて、寝る時間もなかった」と振り返る。2009年、若手の登竜門ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。その後、国内外のオーケストラで活躍してきた。

 演奏会では、「追分節考」のほか、演奏時間が60分を超す柴田の交響曲「ゆく河の流れは絶えずして」(75年)にも取り組む。“大曲”を前に、「今回を逃したらもう再演できないかもしれない」と、満を持してタクトを振る。

お気に入り

 東京芸大の学生時代、文化祭のために仲間を集めて結成した「TOMATOフィルハーモニー管弦楽団」(現「横浜シンフォニエッタ」)は、世界にはばたく今も大切な存在だ。「部活みたいに継続的に練習できるオケが欲しかった。時につらいこともありましたが、友人同士で音楽をつくっていけたのが、切磋琢磨(せっさたくま)につながった」と振り返る。現在も、同オケの音楽監督を務めている。

やまだ・かずき
指揮者。秦野市出身。県立希望ケ丘高校卒。東京芸術大学指揮科で松尾葉子・小林研一郎の両氏に師事。
2009年、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝後、欧州でも活躍。10年、横浜文化賞文化・芸術奨励賞。11年、出光音楽賞受賞。12年、渡邉曉雄音楽基金音楽賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞、文化庁芸術祭賞音楽部門新人賞受賞。
現在、モンテカルロ・フィル芸術監督兼音楽監督、スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者など。ベルリン在住。
11月7日は、午後7時開演。チケット4千~7千円。問い合わせは、東京コンサーツ電話03(3200)9755。「facebook」で特設ページ公開中、https://www.facebook.com/shibataminao/

記者の一言

 9月、県立音楽堂で山田さんが指揮をしたシアターピース作品「萬歳流し」を聴いた。会場の四方向から歌声が聞こえてきて、都会のホールにいながらも深い山あいでこだまを聞いているような感覚になった。山田さんのおしゃべりも快活で、会場を引きつけていた。

 インタビュー時、山田さんは指揮者のイメージを、「人の心を開かせるような才能がある人」と話していた。学生時代は、音楽的なことだけではなく、尊敬する恩師から「人を思いやる気遣いなど、人間性を意識して学んだ」という。「どこまで、聴衆や楽団員を巻き込めるか。それには、音楽も大切だけれど、音楽を素材にした愛が一番必要」。人を思いやる心が、音楽にも仕事にも大切だとあらためて気付かされた。


シェアする