
キクラゲを、横須賀の新たな特産に-。合同会社「げんき農場」(横須賀市津久井)を運営する内藤義和さん(68)がキクラゲの生産設備を整え、販売を始めた。健康食材として用途が広がっているだけに、希少な国産品の安心感を武器に、販路拡大を目指す。収益率の高いモデルを確立し、地域農業の活性化に貢献することが目標だ。
高い湿度ながら、夏でも一定の温度を保ったハウス内。棚に並んだ筒状の菌床から、真っ白な花びらのようなものが育っている。楊貴妃も愛用したとされるシロキクラゲだ。
3週間ほどで4~5センチに生育したものを、乾燥させて出荷する。ビタミンDが豊富に含まれ、美容健康志向の人がスイーツやサラダに用いる。内藤さんは「きれいな色でしょう。生育環境が少し変わるだけで薄茶色になるから気を付けていますよ」と目を細めた。
内藤さんは土木建設会社「武尊(ほたか)建設」(同市)の社長。畑違いの農業に乗り出したのは、3年前に親しい農家の子息から農業の窮状を聞き、心を動かされたからだった。
「現状では収益が低く、おやじが亡くなったら耕作放棄地になる」。農業を続けられる方法を一緒に探したところ、見つけたのがキクラゲだった。
その長所に▽狭い土地で効率良く生産できる▽国内大手の供給するシメジやシイタケと違い、国産品が少ない-などがある。中でもシロキクラゲはキクラゲより育てるのが難しいからこそ、収益も見込めると判断した。
昨年7月に完成したハウス(幅7メートル、奥行き30メートル、高さ5メートル)は、筒状の菌床8千個を収納できる。温度や湿度などをセンサーで管理し、通年栽培を可能に。生育状況はパソコンやスマートフォンからも確認できるようにした。

さらに冷暖房にボイラーやクーラーを使う従来と違い、地下水を利用することで環境負荷を低減し電力消費量を抑えた。
建設費は約2500万円。ハウスと空調を手掛けるアグリクラスター(さいたま市)と湘南信金の協力に加え、国から農業高度化に資する取り組みとして認定され、3分の2は補助金を充てることができた。
販路の開拓が課題だが、湘南信金と連携した鎌倉女子大の学生らによるレシピづくりなどが進む。岡山県の会社に生産を委託し、自社製品の「キクラゲ入りの青汁」を商品化もした。
「耕作放棄地は日本全体の問題。高収益のキクラゲ生産が事業承継のモデルの一つとなれば」。そう話す内藤さんは「健康で良いことずくめの食材。横須賀の名産にもしていきたい」と意気込んでいる。