1. ホーム
  2. 高校野球
  3. 名将の思い(14)新時代の指導者像

渡辺元智・横浜高野球部前監督
名将の思い(14)新時代の指導者像

高校野球 神奈川新聞  2018年08月23日 16:52

 吉田君という個人の力で勝ち上がってきた金足農と、能力の高い選手がチームとして力を発揮した大阪桐蔭の決勝。これから個の時代になるのか、チームの時代になるのか、高校野球の過渡期を象徴する100回大会になったのではないだろうか。

 大阪桐蔭は「春夏連覇を狙う」と公言して大会に臨んだ。松坂を擁した1998年の横浜でも、私はそんなことは言えなかった。西谷監督はチームを鍛え、そして全国のライバルたちの力量をしたたかに計って、「勝てる」と言ったのだと思う。

 走塁一つをとっても、大阪桐蔭の選手は外野手の動きを細部まで見て、例えば腰を落として慎重に捕球する動作があれば、その瞬間に一気に加速して左前打や中前打で二塁を陥れた。ハイレベルの練習のなせる技だ。

 スポーツへの意識が変わり、かつてのようにスパルタで鍛えるということが難しくなっている中で、西谷監督は選手が自分で考えて動く環境作りをしている。そこで選手は監督の思惑以上の練習、プレーをし、中川君という主将が嫌われ役になってもチームをまとめる。

 確かにクリーンアップの素質はものすごいが、身近に目標とする選手がいることで、他の選手も実力以上のものが引き出されている。選手が主役の、新しい指導者像が大阪桐蔭から見て取れた。

 金足農は送りバント主体の“昭和の野球”のようだが、チームとして徹底していた。吉田君は決勝が疲労のピーク。初回のスライダーの暴投は捕手が止めてあげないと。相手が大阪桐蔭だけに、苦しくなってしまった。

 横浜は、個の力では「西の大阪桐蔭」に対抗できる東のチームだったが、打てる球しか打てなかったという印象。金足農戦の九回表、狙いと違うボールはファールで粘って勝負球を待つという、技術と気持ちの強さが見られなかったのが残念だ。大阪桐蔭は全員がそれを出来ていた。

 慶応も大舞台で力は発揮したと思うが、「エンジョイベースボール」でさらに上を目指すには、楽しむためにこそ「鍛える」ということを考える必要があるだろう。

 大阪桐蔭の西谷監督のような指導者は、今の神奈川にはいない。練習はそれほど長くなくても、選手が自分で努力できる環境と信頼関係を作り、高い目的意識を持たせる。大阪桐蔭時代が来たと言っていい。

(渡辺 元智・横浜高野球部前監督)

 わたなべ・もとのり 横浜高-関東学院大。1968年から横浜高野球部監督を務め、2015年夏に勇退。甲子園では通算51勝、春夏合わせて5度の優勝を誇る。第65回神奈川文化賞受賞。松田町出身。73歳。


シェアする