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【台風12号】高波で救急車大破、暗闇を脱出 緊迫の現場

社会 神奈川新聞  2018年08月07日 18:27

高波にのまれ、大破した救急車=7月29日午前、小田原市江之浦の国道135号(湯河原町議会総務委員会の資料から)
高波にのまれ、大破した救急車=7月29日午前、小田原市江之浦の国道135号(湯河原町議会総務委員会の資料から)

 暗闇の中、救急車が高波で山側の斜面に打ち付けられ、乗用車は冠水した道路を流されていく。海沿いを走る小田原市米神と江之浦の国道135号で、救急車やパトカーなど車計15台が立ち往生した台風12号による高波被害。乗車していた計約30人は高台にたどり着いて無事だったものの、関係者の証言から惨事につながりかねない緊迫の状況が浮かび上がった。

 「波を受け、脱輪した」。湯河原町消防署の指令室に一報が入ったのは、7月28日午後7時15分ごろ。同消防署奥湯河原分署の隊員3人が乗車し、高熱の高齢男性1人と付き添いの女性2人を搬送中の救急車が江之浦で高波に襲われた。

 同消防署の高吉裕二署長はすぐさま小田原市消防本部へ代替搬送を依頼。その後、別の隊員2人と指揮車で現場近くに着いたが、事態は予想を超えていた。

 片側1車線の幅員約9メートルの国道で、高波が高さ1メートルほどのフェンスを超え、打ち寄せている。路上に石や流木が転がり、水しぶきの先にハザードランプをともした車が複数台見えた。

 さらに現場へ近づこうとすると乗用車が浮きながら迫り、進路をふさいだ。300メートル先の救急車に近寄れないまま待機するしかなかったという。

 一方、救急車は高波でエンジンが停止。電気系統も故障し無線が使えず、頼みは携帯電話だけだった。

 「車体が変形してドアが開かない」「車ごと海へ持っていかれそうだ」。切迫した隊員の声を聞き、高吉署長は左側面の割れた窓からの脱出を指示した。

 隊員はガラスが残る窓枠に毛布を重ねて車外へ。約20メートルのロープで自らと付き添いの女性を固定した上、山側のガードレールにくくりつけるなどして1人ずつ連れ立って避難した。

 見通しは利かず、約400メートル先の江之浦漁港入り口に到達するまで1人30分以上かかった。担架で男性を運び終えると、時計は午後10時すぎを指していた。

   ■

 「生きた心地がしなかった」。乗用車を運転中に高波を受け、自力で避難した熱海市の男性会社員(24)は身をすくませる。

 午後7時ごろ、現場を通り掛かった。国道は既に冠水しており、危険を感じて停車したが「波が次々と押し寄せ、車体がどんどん流されていった」と話す。

 小田原署の警察官2人も巻き込まれた。江之浦の現場に到着したのは午後7時25分ごろ。交通規制の必要性を署に伝え、救助活動を始めたところ高波にはじき飛ばされた。

 一般車両の運転手らを誘導し高台に避難したが、警察官は「死ぬかと思った」と振り返る。パトカーは水没。無線機や携帯電話が駄目になり連絡が滞り、「救助したドライバー1人を乗せたパトカーが行方不明」という誤った情報が流れるなど混乱を来した。

   ■

 一夜明けた29日朝、現場に残された救急車は衝撃のほどを物語っていた。屋根がひしゃげ、フロントガラスなどが大破。中でも左側面の損傷が激しく、山側の斜面に何度もぶつかった様子がうかがえた。

 ガラス窓がない構造の右側面が海側に向いていたのが幸いだったという。結果的に高波による浸水が少なく、脱出を容易にしたとみられる。

 この高波被害で警察官2人を含めて男女4人が軽傷を負った。命が失われる最悪の事態を回避し、胸をなで下ろす高吉署長だが、課題も感じている。

 国道135号で交通規制が敷かれず、同じく湯河原町や小田原市を結ぶ有料道路の真鶴道路も規制がなかったことから、隊員は国道を使う通常の最短ルートで小田原市内の病院へ向かったという。高吉署長は市民の生活に直結する道路のため、すぐに止めることが困難なことに理解を示しつつ「規制前でも情報収集して判断する必要がある」と語っている。


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