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時代の正体〈615〉米朝会談と日本の役割(上)非核化へ主体的関与を

時代の正体 神奈川新聞  2018年06月29日 10:22

梅林宏道さん
梅林宏道さん

うめばやし・ひろみち 平和運動家。横浜市港北区に事務所を置くNPO法人ピースデポ特別顧問。2017年、核廃絶に努力した個人・団体に贈られる国際的な賞「核のない未来賞」を受賞。81歳。
うめばやし・ひろみち 平和運動家。横浜市港北区に事務所を置くNPO法人ピースデポ特別顧問。2017年、核廃絶に努力した個人・団体に贈られる国際的な賞「核のない未来賞」を受賞。81歳。

 【時代の正体取材班=石橋学】朝鮮戦争勃発から68年を迎えた6月25日、都内でシンポジウムが開かれた。米朝首脳会談による共同声明で動き始めた平和構築プロセスに日本はどう向き合うべきか。登壇者の一人で平和問題、核・軍縮問題に取り組むNPO法人ピースデポ特別顧問の梅林宏道さんの講演を紹介する。

      ◇

 北朝鮮がいつかの時点で核放棄に転じると私は確信していた。自分たちはなぜ核を持つのか。その説明は2006年の地下核実験から驚くほど一貫していた。敵対政策を採り続ける米国による核攻撃に対する防衛手段として核抑止力が必要だ、と。安全の保障と非核化がセットで実現すれば核兵器を持つ理由はなくなるとも発信し続けてきていた。

 大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成宣言を経て急展開を見た今年、金正恩(ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「わが国の核戦力はいかなる米国の核の脅しも打ち砕き、反撃することができる」と述べた新年の辞も、抑止という目的を逆の表現で述べたものだった。そして4月20日の党中央委員会総会で明確な路線転換が表明された。核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」は完遂し、これからは全エネルギーを経済発展に費やす経済中心路線への転換がうたわれた。

過去の教訓


 12日の米朝共同声明は、北朝鮮に対する安全の保障と朝鮮半島の非核化という二つの懸案について大枠で合意するという、バランスの取れたものとなった。平和と繁栄に向かう米朝の新たな関係を確立する。朝鮮半島の恒久的で安定した平和体制を構築する。核の角を突き合わせ、軍事衝突も予測された二つの国の首脳がこの大目標で一致し、実現に向けて努力すると合意した。これが評価すべき最大のポイントだ。

 ただし、非核化と一言で言っても簡単ではない。まず現状の把握が必要だ。弾頭はいくつあり、軍事転用可能な核物質はどれぐらいあるのか。その先にこれ以上増やさないための凍結という段階があり、施設を解体し無能力化するステップを踏む。プロセスごとに検証が必要で、技術的な非核化を考えただけでも多くの工程が含まれている。

 では、北朝鮮の安全を保障するということはどういうことか。北朝鮮が米国に求めているのは、政治的には独立国家と認め、対等の立場で外交関係を樹立することだ。防衛面では、休戦協定が結ばれただけで戦争状態にある朝鮮戦争の終結と平和条約の締結。経済的側面では、貿易制限と経済制裁の解除が敵対関係の終焉(しゅうえん)を意味するとしている。

 ことごとく頓挫してきた非核化交渉からいかなる教訓を得るかが重要だ。1992年の南北非核化共同宣言では核管理委員会が設置され、南北が検証し合う関係となったが短期間で行き詰まった。北朝鮮にとっては米軍の核兵器が最大の脅威であり、在韓米軍基地の査察を求めたが実現しなかったためだ。

 北朝鮮の核拡散防止条約(NPT)脱退、94年の米朝枠組み合意を経て、95年に朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)ができるが、これも失敗に終わった。クリントン政権の成果を引き継いだブッシュ政権時代だったが、ネオコンと呼ばれる保守勢力に共同コミュニケはつぶされた。

 その後の6カ国協議では北朝鮮の非核化だけでなく北東アジアの安全保障の問題と捉えられた。つまりそれぞれの国が責任を有しており、2005年の6カ国共同宣言が壊れた結果には日本政府も責任を負っている。

 北朝鮮が強く求めてきたのは約束対約束、行動対行動という方法論だった。歴史的に積み重ねられた不信を一つ一つ行動の中で解いていく、互いに一歩ずつ信頼を高めていこうと合意したのだった。

 共同声明では信頼構築が非核化を促進すると確認されたのはその意味で的を射ているが、今後のプロセスも道のりは険しいだろう。当事国、関係国が歴史を総括し、忍耐を持って事に当たり、大目標を見失わずに交渉を続けられるかだ。

 はっきりしているのは朝鮮半島の非核化というとき、北朝鮮は在韓米軍の非核化を強く要求しているということだ。では、在韓米軍の非核化が実現すれば米国の核の脅威がなくなるかというと、そうではない。在日米軍に同じ能力があれば実質は何も変わらないからだ。だから在日米軍の核能力が問題になってくる。在日米軍は米韓合同軍事演習にも関与していて、爆撃演習には岩国、嘉手納の米軍基地から戦闘機が爆撃機の護衛に加わっている。米軍に関しては今後、日本を含めた検証が浮上することになる。

信頼の構築


米朝会談までの経過を追い共同声明の意義を解説する梅林さん
米朝会談までの経過を追い共同声明の意義を解説する梅林さん

 私はかねて、「北東アジア非核兵器地帯構想」が地域の安全保障の重要な解決策になると主張してきた。日本、韓国、北朝鮮が非核地帯を形成し、中国、ロシア、米国の核保有国は非核地帯に核の脅威を与えないと誓約する「スリー・プラス・スリー」の構想だ。

 南北首脳会談による板門店宣言と米朝共同声明に基づき、朝鮮半島において構想が現実化する。北朝鮮の非核化は同時に、朝鮮半島の非核化でもあるためだ。米国の傘の下にいることが許されなくなる韓国は中国、ロシアの核にどう対峙(たいじ)するのかという問題が持ち上がり、中ロを含む安全保障の協議に進まざるを得ない。そこには日本と在日米軍の脅威という問題も当然含まれてくる。つまり日本が非核地帯に加わり、朝鮮半島から北東アジアに安全保障の機構が拡大することが解決には欠かせない。

 昨年7月、生物・化学兵器と同様に核兵器も非人道兵器として禁止する核兵器禁止条約ができた。だが米国の核の傘に頼る日本は核兵器依存性政策が条約違反になるので参加できない状態だ。

 北東アジア全体が非核化されれば日本も核の傘が不要になる。被爆国の日本が条約に加わり、世界の非核化に貢献するという誇るべき地位を得ることになる。米国も中国もロシアも北朝鮮も韓国も抱き続けている日本の核武装の不安も取り除かれる。ここは日本がイニシアチブを発揮し、非核兵器地帯構想を打ち出し、朝鮮半島の非核化プロセスに関与すべきだ。

 だが、北東アジアの一国として平和や安全保障をどう実現するか、日本政府の主体的な発信は皆無だ。トーンこそ修正されてきていると感じるが、昨年の国連総会で安倍晋三首相が北朝鮮は国際社会をだまし続けてきた国だから、制裁で徹底的に絞り上げるべきだと演説したのは記憶に新しい。核軍縮に力を注いできたはずの河野太郎外相も同様だ。

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