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セルロイド発明150年 横浜の研究施設、20年に公開へ

社会 神奈川新聞  2018年06月18日 11:04

今年はセルロイドが米国で発明されてから150周年。横浜市港北区の研究施設「セルロイドハウス横濱館」には、国内外で作られた各種製品や関連資料10万点以上が眠る。東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年をめどに整理を終え、広く展示や貸し出しを行う考えだ
今年はセルロイドが米国で発明されてから150周年。横浜市港北区の研究施設「セルロイドハウス横濱館」には、国内外で作られた各種製品や関連資料10万点以上が眠る。東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年をめどに整理を終え、広く展示や貸し出しを行う考えだ

 世界初の合成樹脂セルロイドが米国で発明されて、今年は150周年の節目。だが、今や素材としてほとんど利用されないため、国内外での認知度は低い。そんな中、セルロイドの原料や、製品を型抜きする際などに使用する板状の生地素材、製品や金型、関連図書など10万点以上を集めた研究施設が横浜市港北区にある。「セルロイドハウス横濱館」だ。資料を観覧できるが、ごく一部。「セルロイド」と商標登録で“命名”されてから150周年となる2020年をめどに、収集品の分類・整理を終えて広く公開し、貸し出しも手掛ける方針だ。

 同館は、合成樹脂の開発支援や評価を行う大日本樹脂研究所(現DJK)の研究施設があった場所に立地。建物をそのまま利用し、05年に開設した。

 1964年に同研究所を親子で共同設立した館長の岩井薫生(いさお)さん(81)と父の故・信次さんが50年かけて資料を収集。さらに関連企業や関係者らが2000年に組織したセルロイド産業文化研究会が膨大な資料を寄贈した。現在は原料となる硝化綿や樟脳(しょうのう)、多様な色合いの板状の生地素材、製品を作る金型、各種製品、関連書籍などを所蔵しているが、その多くは整理を終えていない。

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懐かしい日本製のセルロイド玩具。遊園地の回転木馬(右下)まで作られていた=横浜市港北区のセルロイドハウス横濱館
懐かしい日本製のセルロイド玩具。遊園地の回転木馬(右下)まで作られていた=横浜市港北区のセルロイドハウス横濱館

 セルロイドは明治維新と同じ1868年、米国人のジョン・ウェズリー・ハイアットが発明した。それ以前に英国人のアレキサンダー・パークスが開発したが製造には至らなかったパーキシンという類似の素材を改良したものだ。

 米国では当時ビリヤードが大流行し、玉の素材となる象牙が不足していた。そこで玉のメーカーが代替品の開発を賞金付きで呼び掛けた結果、ハイアットの発明品が採用され、玉の素材に。結果的に多くの象が救われることになった。当初は素材に名前がなく、発明から2年後の70年に「セルロイド」と商標登録された。

 着色しやすく、欧米では装飾品や眼鏡のフレームなど日用品を中心に幅広く使われたが、欠点は燃えやすいこと。90度で溶け始め、170度で自然発火する。そのため、第1次世界大戦では火薬の材料に転用され、やがて燃えにくい樹脂の開発とともに製造されなくなった。

 欧米では衰退する一方、90年に製品の元となる生地素材の製造が始まった日本は、1937年までには世界シェアの4割を占める“セルロイド大国”になっていた。工場は大阪や、関東では主に東京の葛飾区を中心に都東部に多く存在した。

 国内では象牙のほか、べっ甲の代替品としても使われ、かんざし、くし、ボタン、装飾品、各種容器、フォークやナイフの柄、万年筆の軸、ピンポン玉、人形などの玩具に幅広く使われた。写真立てなど工芸品としても輸出され、「横浜港からも相当数が海を渡っていたのでは」と岩井さんは推測。収集品の中から裏付けとなる資料の発見が期待されている。

 日本のアニメ産業も透明なセルロイドのシートに一コマずつ絵を描くことが日本人の得意とする細かい手作業にマッチし、世界を凌駕(りょうが)していった。同館は希少な昔の「セル画」も所蔵している。

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実験室で激しく燃えるセルロイドを左手に持つ館長の岩井さん
実験室で激しく燃えるセルロイドを左手に持つ館長の岩井さん

 岩井さんは東京五輪・パラリンピックが開催される2020年までに資料を整理し、公開や貸し出しができるようにする考えだ。その際は「利用は無料とし、5人ほどのスタッフが研究者なので学芸員は置かない方針」。博物館のような位置付けではなく、「新たな樹脂を開発するためのヒントとして活用してもらいたい」と語る。

 副館長の佐藤功さん(76)も「金型だけを見ても、普通なら抜き取れない勾配がついていることから、現在の樹脂にはない柔軟な素材特性があると分かる。研究価値は高い」としている。

 一方で不安もある。一つは盗難。館内には非常に貴重と思われる品々が多数あり、展示の際の対策に万全を期し、貸し出す場合も身分証明の徹底が必要となる。さらに生地素材や製品への引火も懸念材料。専門家であれば知識もあるが、一般の観覧者や貸与先には燃えやすさを周知し、防火の指導が不可欠だ。

 日本では1996年に生地素材の国内生産を終え、現在は中国からの輸入に頼る。製品作りは酉(とり)の市などで販売される縁起物の熊手に付けられるタイの飾りや、高級眼鏡のフレームなどごく限られている。

 だが、合成樹脂でいち早く素材のリサイクルが行われるなど「学ぶべき点が多い」と岩井さんは評価。今年の「発明150周年」に合わせての目立った動きはないが、2年後の「命名150周年」には同館からの“発信”が期待されている。

 開館は土曜日の午前10時~午後4時。一部収集品の観覧は予約制。問い合わせは、同館電話045(549)6260。


象牙を模した「原爆ドーム」の置物(高さ約10センチ)。誰が何の目的で作ったのかは不明
象牙を模した「原爆ドーム」の置物(高さ約10センチ)。誰が何の目的で作ったのかは不明

写真立ては欧米で好まれた
写真立ては欧米で好まれた

バラの飾り物の金型。通常であれば抜き取れない勾配で作られており、今後の研究が待たれる
バラの飾り物の金型。通常であれば抜き取れない勾配で作られており、今後の研究が待たれる

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