2月に岐阜県羽島市で行われたテコンドーの東京五輪代表最終選考会。男子58キロ級で切符をつかんだのが川崎市生まれの鈴木セルヒオ(25)=東京書籍=だ。家族とともに5歳で渡ったボリビアで競技と出合い、本場韓国でもまれて力を付けた。同68キロ級の弟、リカルド(19)=大東大=とともに挑む初の大舞台。狙うのはもちろん、そろっての金メダルだ。
勝つか負けるかで人生が変わる。一つの椅子を懸けて死に物狂いでぶつかる最終選考会。勝ち上がりは苦闘の連続だった。
準決勝は延長ラウンドまでもつれ、決勝もひりつくような競り合いだった。8─7で迎えた最終第3ラウンド残り1秒。一つでも食らえば全てを失う局面だが、セルヒオは冷静だった。
「勝っても負けても、自分の動きをすることだけだと考えていた」。相手の蹴りをかわして代表の座を射止めても、試合内容については高ぶりはない。「想像していた通りの試合展開。面白みはなかったかもしれないけど、相手が決まっていたので作戦を練ってきた」
得意技はないという。「強いて言えば距離感とタイミング」。フィジカルを鍛えれば、技術を磨けば勝てるわけではない。当然自らのテコンドーを貫くことが大前提だが、勝率を高めているのは練りに練った戦略だと自負する。
「試合に臨む前には動画をチェックして気を付けるべきところ、相手の長所、短所を見てどう立ち回るかまで決めて臨んでいる」
鋭い観察眼と揺るがぬメンタルは世界を股に掛けた20年の競技人生で培われた。
川崎市川崎区で暮らしたのは5歳まで。一家で渡った母の祖国で、韓国発祥の格闘技と出合った。