1. ホーム
  2. 時代の正体
  3. 時代の正体〈597〉許可は差別への加担 ヘイト集会問題 

ヘイトスピーチ考 記者の視点=川崎総局編集委員・石橋学
時代の正体〈597〉許可は差別への加担 ヘイト集会問題 

時代の正体 神奈川新聞  2018年05月16日 04:18

「日本浄化デモ」の行く手を阻み交差点に体を横たえる人たち=2016年1月31日、川崎市川崎区
「日本浄化デモ」の行く手を阻み交差点に体を横たえる人たち=2016年1月31日、川崎市川崎区

【時代の正体取材班=石橋 学】人種差別の扇動を繰り返し、川崎市のヘイトスピーチ対策の妨害、阻止を公言する極右活動家、瀬戸弘幸氏が6月3日に市教育文化会館(川崎区)で講演会を計画している。公的施設でのヘイトスピーチを防止するガイドラインに沿って市は利用を不許可にするべきだと私は考える。人権被害がすでに生じていることからも開催された場合の結果は明らかで、許可という不作為はヘイト対策を自ら形骸化させ、差別に加担することにほかならないからだ。

 講演会の目的はいよいよ明らかだ。瀬戸氏は12日にブログを更新し、自身は今回の講演会で発言せず、法律の専門家と川崎市在住の「仲間」が登壇すると明かした。

 ブログの記事は「講演会は絶対に成功させなければならない」と結ばれる。「成功」とは何を指すのか。瀬戸氏らが立ち上げた主催団体が昨年12月に同館で開いた集会に前例を見ることができる。

 瀬戸氏のほか「仲間」である5人の登壇者はデマを交え、代わる代わる在日コリアンへの敵愾(てきがい)心をあおり、1時間半余にわたって差別と排斥を繰り返してみせた。

 地方参政権のない外国人市民の声を市政に反映させるため、市が設置した外国人市民代表者会議を「外国人の外国人による外国人のための自治体をつくろうという圧力団体」と評し、「外国人による支配が川崎市では延々と続く」。

 デマは「朝鮮人は大変犯罪率が高い」「川崎市は在日朝鮮人を市職員に採用したが、これは違法」「外国人高齢者福祉金は闇年金」と枚挙にいとまがない。市民が求め、福田紀彦市長もマニフェストに掲げる差別をなくすための条例に関しては「宗教と近代的価値観は相いれないというアンタッチャブルな問題を掘り起こす危険な条例」「朝鮮人という言葉を使って批判ができなくなる恐ろしい条例」と、的外れでやはり事実に反する言説を重ねた。

 果ては「市長のマニフェストには条例をやるなんて書いてない。差別の『さ』の字もない」。瀬戸氏は市のヘイト対策について「日本人の権利が奪われる」と声を張り上げ、こう締めくくった。

 「われわれは日本人で、ここは日本だ。われわれが主役だ。なぜ日本国籍も持っていないような外国人に萎縮させられ、言いたいことも言えない社会に生き続けなければならないんだ」

 市の施策を批判する政治的言動を装いながら、ここに差別の扇動という本当の目的があらわになっている。市が進める外国人施策を攻撃することで、その施策が擁護しようとする在日コリアンを攻撃する。つまり、守られるべき存在ではない、共に生きる存在ではないと示し、排斥する。差別者たちが守ろうとしているのは表現の自由などではなく、こうした「差別する自由」にほかならない。

被害の継続



 結果、何が起きたか。

 講演の模様と抗議に集まった市民たちの姿を収めた動画はただちにインターネット上に投稿され、コメント欄は悪罵で埋め尽くされた。

 〈川崎市は朝鮮人に毒されています〉

 〈日本人は、朝鮮人テロリストなどと共生も共存もする気など、毛頭無い〉

 〈慈悲を与えた結果、今の現実がコレだ。特権を盾に被害者ヅラ。もう4、5世になるまで、寄生して、満足だろう。ソロソロ祖国にお帰り下さい〉

 平等に扱うどころか、在日コリアンの権利はなおさまざまに制限されているにもかかわらず、「特権」に映るゆがんだ現状認識、その言動で人権を踏みにじる加害者でありながら、自分たちこそが「奪われている」などという倒錯した被害者意識は増幅され、殺害までが正当化される。

 〈発見次第即射殺しても良いという法律を制定して下さい〉

 〈コリアン・テロリスト・ゴー・ギロチン〉

 〈日本人は戦います。朝鮮人が一匹残らず日本からいなくなるその日まで〉

 差別の扇動効果がはっきりと見て取れる。「死ね、殺せ」というあからさまなヘイトスピーチは発していない。だが、瀬戸氏はその必要がないと知る。ひとたび事を起こせば、ただちに差別に結びつく回路を長年のヘイト活動でこの社会に埋め込んできた。

 そして、 市民がまっとうな抗議の声を上げる。多くは日本人だが「朝鮮人」とひとくくりにして「敵」に仕立て、憎しみをあおる。それが昨年3月、7月に主催した講演会とデモでもみられた常套(じょうとう)手段だった。

 だから、瀬戸氏が登壇しないからといって、講演会の目的や開催された場合の結果が変わるわけではない。それが証拠に講演会の計画が告知されただけで差別はあおられている。

 〈川崎の朝鮮民族は侵略者〉

 〈日本からいなくなればいい〉

 〈妨害勢力が講演会を中止させる前に、我々が妨害勢力に先制攻撃を仕掛けてはいかがでしょうか?〉

 〈みなさま、川崎での講演会を成功させましょう〉

 うそに侮蔑、敵視を重ね、排除する、危害を加えると示すというパターンがそっくり繰り返されている。こうした差別者がまた川崎へやって来る。恐怖にさらされるという在日コリアン市民の実害がすでに生じている。

 いや、被害は引き続いていてきたものだ。

 瀬戸氏はブログの告知でおぞましい記憶を呼び起こしてみせた。登壇する「法律の専門家」とは、市を相手に提起しようとしている訴訟の原告団長を依頼している人物だという。2016年6月5日にヘイトデモを計画した主催者に対し、市は公園の利用を認めなかった。この判断についての違憲訴訟を検討しているという。この告知は、これから会館利用の可否を判断しようという市への威嚇(いかく)を意味すると同時に、ヘイトデモを正当化しようとしているというメッセージとなって、標的とされた在日コリアンを再び恐怖の淵に突き落とす。

絶望を思う



 そのデモは民族虐殺をうたい「日本浄化デモ」と銘打たれ、在日コリアン集住地域の川崎区桜本の街を襲撃するものだった。

 命の危機を訴える声を瀬戸氏は「大げさ」とブログに書きつづる。これほどの悪意があるだろうか。

 都内の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央に銃弾が撃ち込まれるというテロ事件は記憶に新しく、何より関東大震災の際、「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」というデマを信じた日本人によって虐殺されているといういまわしい歴史を抱えさせられたまま、ついに虐殺の事実を認めようとしない都知事までが登場している。

 瀬戸氏も参加してきたヘイトデモであおられた差別感情が引き起こすヘイトクライム(憎悪犯罪)は実際、ここ川崎で起きている。

 デモ参加者が帰りの川崎駅ホームで居合わせた男性を模造刀で切り付ける事件が起きたのは14年2月。ヘイトスピーチに反対する抗議の市民と勘違いしての犯行だった。

 16年3月には極右政治団体が同駅前で行った街宣活動で集団暴行事件が発生。「ヘイトをするな」と抗議した男性に参加者十数人が襲いかかり、殴る蹴るの暴行を加えたとして4人が逮捕された。弁士の1人は瀬戸氏だった。

この記事は有料会員限定です。

月額980円で有料記事読み放題/100円で24時間読み放題のコースも。詳しくはこちら


シェアする