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日本将棋連盟指導棋士五段、本紙将棋担当記者
将棋のはなし(148)忖度だらけの模範対局

文化・科学 | 神奈川新聞 | 2020年3月12日(木) 17:01


【2020年3月8日紙面掲載】

 2月某日、私が講師を務める子ども教室に指導棋士の野島崇宏四段が来てくれた。私にとって奨励会の2年先輩である。

 一通り対局が終わると、教室終了まで残り20分。そこで大盤を使って野島さんと私が対戦することにした。1手20秒の早指し戦。見守る子どもたちに読み筋を披露しながら指すという試みだ。

 野島さん得意の四間飛車に対し、私は居飛車で急戦を仕掛ける。好きな作戦ではないが、20分で終わらせなくてはいけないので、ゆっくりした将棋にはできない。

 中盤、私のミスで攻めの銀が戦場から取り残されてしまった。形勢は不利だが「しめた」と思った。これは格好の勉強材料になるだろう。

 「遊び駒があっては勝てません。とにかくこの銀を使うしかない」と解説しながら指し進めた。しばらくすると銀は無事、要所に戻った。

 終盤で私が勝勢になると、粘る手段はいくらでもあったのに野島さんは首を差し出すような潔い指し手を見せた。終了時間を気にしたのだ。また、粘って混迷する局面よりきれいな寄せを見てもらいたいという、優しさも含まれていたと思う。

 忖度(そんたく)だらけの模範対局はこうして終わった。勝利だけを追求した奨励会時代と違い、邪念の塊だったが、指導棋士同士が教室で指す公開対局としては良い内容だった。

 負けた野島さんも満足そうに笑っている。打ち合わせなんかなくても、以心伝心で好局にできたことがうれしかった。

 
 

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