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記者の視点=報道部・三木崇
時代の正体〈593〉憲法の現場(3)野宿者へ絶えぬ偏見

時代の正体 神奈川新聞  2018年05月05日 02:00

ホームレスを排除する規制線が張り巡らされた県の施設 =横浜市中区寿町
ホームレスを排除する規制線が張り巡らされた県の施設 =横浜市中区寿町

 【時代の正体取材班=三木 崇】ミナト横浜を代表する観光地、横浜中華街(横浜市中区)にほど近いJR石川町駅前。4月上旬、大量の荷物と段ボールを抱えた男性(50)が突然、足を引きずりながらやってきた。路上生活者への偏見のまなざしが絶えず注がれ、なじられて孤立し、疲れ切っていた。

 男性は名字をもじって、路上生活の仲間たちから「ネコ」の愛称で呼ばれていた。歩道に広げたディレクターズチェアに腰掛けて1日の大半を過ごす。左足の裏を痛めているためだが、「働かないで楽をしている」という冷たいまなざしが通り過ぎる人たちから向けられる。ホームレスに理解を示そうとしない通行人とは目を合わせないようにしている。

 ブルーシートや段ボールで覆った毛布や衣類、日用品からは離れない。夜は荷物を抱えるように寝る。ネコにとって財産の全て。これまで何度も盗まれ、いたずらの被害に遭った。睡眠中に近くで誰かが立ち止まると、恐怖のあまり飛び起きてしまう。

 大柄のひげ面で一見すると強面(こわもて)だ。しかし、小心者で乱暴な振る舞いはしない。私が会いに行くと、同じ境遇の仲間たちや近くの住民と談笑を楽しんでいる。ネコがかつて公園で野宿していた時は、子どもたちの遊び相手にもなっていたのもうなずける。

 それなのに「このおじさんに近づいたらダメ」と、若い母親の甲高い声が響く。わが子を叱りつける心ない言葉を聞くたびに、自分の心が深く傷つくのが分かる。ポケットから千円札を落としたサラリーマン男性を呼び止めた時は、男性はネコにお礼を言うどころか「危ない、危ない」とにらみ付けて慌てて立ち去った。ネコは物乞いをしているのではない。単に、住まいがなくて路上で生活しているだけなのだ。

 ネコが簡易宿泊所が広がる横浜・寿地区に流れてきたのは7年ほど前。行政機関や民間の支援団体から支えられつつ寿地区で野宿をしていたが、昨年末から何度も退去を求められた。追われるように移ってきたJR石川町駅近くでは中華街に向かう観光客など多くの人の目にさらされて疲れ果て、空腹と貧困から脱却したい気持ちはある。

 福祉の担当者から何度も生活の自立を促されたが、ネコは生活保護制度を利用することが困難な、ある事情を抱えていた。

人権擁護の啓発急げ ホームレス支援


 「すぐとは言わないが、1週間ぐらいでこの荷物を片付けられないかなあ」

 横浜市中区役所の中土木事務所から来た職員2人が発した言葉に、ホームレス仲間から「ネコ」と呼ばれる男性(50)は表情を硬くした。

 4月13日。「JR石川町駅近くの道路で男性が小屋を建てている」との苦情を受けて職員が確認に訪れた。中土木事務所が管理する歩道にあったのは小屋ではなく、衣類や毛布、日用品などネコの所有物。風雨を防ぐために屋根のように段ボールが載せてあった。

 石川町駅から横浜中華街へと向かう観光客らの目が届く場所。ゴールデンウイーク(GW)期間中、さらににぎわうことが予想される。職員は撤去を求めた理由として、人通りがある場所であるとともに、市民から再び苦情が入る可能性があるためだと説明した。


貧困や孤独に加えて「偏見がつらい」と訴える路上生活者が多い =横浜市中区寿町
貧困や孤独に加えて「偏見がつらい」と訴える路上生活者が多い =横浜市中区寿町

 「引っ越すところはないけど、もし行くところがあっても、また役人が来て移動をしてくれと言われたらたまらない」。荷物は移せないと思ったが、中区役所の「お願い」にネコは戸惑い、断れずにいた。

 「行く当てがないのに期限を区切って撤去を求め、圧力をかけるのはいかがなものか」

 路上生活者を支援する寿支援者交流会の高沢幸男事務局長は、ネコから相談を受けてすぐに中土木事務所に電話で抗議した。

 18日に中土木事務所と中区役所生活支援課の職員がそろって訪れた際、ネコとの間では20日をめどに全て片付けるという話で進んだ。19日にことを知った高沢事務局長は「他に行くところがないからそこにいる。出て行けと言ったって他の場所に移るだけだ」と指摘し、ホームレスへの対応に異議を唱えた。

命綱


 ネコは建設現場で働いた元日雇い労働者。7年ほど前に横浜・寿地区に流れ着いた。昨年から厚生労働省の委託でホームレス就業支援の拠点にもなっている県の施設「かながわ労働プラザ(Lプラザ)」(中区寿町)の敷地内で寝泊まりしていた。

 Lプラザの担当者は「大量の荷物で非常口をふさいだので施設管理上、退去を求めることにした。中区役所の生活支援課の職員らも説明に加わり、生活保護を申請して自立支援施設『はまかぜ』への入居も考えてもらった」。ネコは3月上旬、3度目の退去で近くの市道上に移り、その場所でも退去を求められたために寿地区を離れ、石川町駅近くへと向かった。

 高沢事務局長から経緯を聞いた中土木事務所は4月20日以降、ネコに期限を言わなくなった。しかし「ずっとここにいるというわけにはいかないという趣旨で伝えている」と、引き続き荷物の移動を求めている。

 中区生活支援課では生活困窮者の「最後の命綱」である生活保護制度の利用を何度も促しているが、ネコはかたくなに断ってきた。

 その理由は、

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