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連鎖地震 熊本の教訓(下)「断層回避より強い家を」 なお足りぬ命の備え

社会 神奈川新聞  2018年04月18日 09:58

熊本地震の断層活動によって大きくずれた道路=2016年4月、熊本県南阿蘇村
熊本地震の断層活動によって大きくずれた道路=2016年4月、熊本県南阿蘇村

 地下に潜むリスクを知らしめるため、地図上に引かれた幾筋もの線。そのほぼ線上に、震源の位置を示す×印が幾つも書き込まれた。

 前震と本震で震度7を2度観測した後、強い余震が続発した2016年4月の熊本地震。一連の地震を発生させたのは、「日奈久(ひなぐ)断層帯」と「布田川(ふたがわ)断層帯」という隣り合う活断層だった。

 激しい揺れに見舞われた熊本県益城町では農地を切り裂くように食い違いが生じ、別の地域も道路や宅地などにずれができた。政府・地震調査委員会が絞り込んでいた両断層帯の位置に沿う形で現れた、活断層の動いた「証拠」だった。

 あらかじめ危険性が指摘されていた場所での地震に、しかし被災地の人々は戸惑った。「熊本で地震が起きるなんて」

 専門家からは反省の言葉が口をついた。

 地震の翌月に開かれた緊急報告会。地震調査委員長の平田直・東大地震研究所教授は言った。

 「阪神大震災のとき、関西では大きな地震がないと一般の人や行政の担当者が思っていたのと同じようなことが熊本でもあったとすれば、地震調査委ができてからの20年間の成果が生かされていないということであり、大変残念」

 活断層の存在が広く知られるきっかけとなった1995年の阪神大震災でも、震度7を引き起こした「野島断層」が淡路島北部で姿を現した。教訓を生かすべく発足した地震調査委が取り組んだ対策の柱の一つに、全国各地に存在する活断層の調査とリスク評価がある。

 日奈久、布田川両断層帯の評価に関わった名古屋大の鈴木康弘教授は熊本地震の現地調査を踏まえ、緊急報告会で指摘した。「断層直上は建物がことごとく全壊しており、益城町や南阿蘇村には(阪神大震災で見られた)『震災の帯』と呼ぶべき一帯がある」

 地元では十分に認識、活用されていない活断層の情報。結果として、その近くで大きな被害があり、被災した人々は愛着のあるわが家に住み続けることができなくなった。

 時計の針を戻すような熊本の状況に「活断層の周辺は建築規制が必要」といった意見が強まったものの、久田嘉章工学院大教授は異論を唱える。「きちんと建てられている家は、断層の上であってもほとんど被害は出ていない」

 益城町に隣接する御船町で久田教授らが行った調査では、対象とした39棟のうち、7棟が断層の真上、32棟が断層からある程度離れていた。このうち真上では4棟、真上以外で3棟が全壊。被害は断層直上に目立ったものの、断層がずれた影響を回避できた建物も見受けられたという。

 「(家屋の底を全面的に鉄筋コンクリートで支える)『ベタ基礎』であれば建物は大丈夫。また日本の伝統家屋は変形の耐性があり、倒壊を免れていた」

 他の調査でも同様の傾向が出ていることも踏まえ、こう結論付ける。「活断層を避けて建物を建てることが望ましいが、地震後に出現する位置を正確に予測することは困難。それよりも建物の耐震性能を高めるべきだ」

 昨年10月、横浜市民防災センター。横浜駅西口で防災活動に取り組む商業施設の関係者らに、久田教授は訴えた。

 「(2000年以降の)今の基準でしっかりと家を建てれば、震度6強でも被害はほぼゼロにすることができるが、(過密で地盤も悪い)首都圏では、耐震等級2以上を目指すべきだ。そうすれば、震度7でも被害はほとんど出ない」

 耐震等級とは、品確法に基づく住宅性能表示制度の一つ。建築基準法と同じ強さの1から、強度を1・25倍に高めた2、強度1・5倍の3まである。

 久田教授は自宅を新築する際に施した工夫の一端をスライドに投影し、参加者に実践を促した。

 十分に鉄筋を入れたベタ基礎にして、1階を壁の多い居室、2階をリビングとし、柱やはりなどは金物で固定。構造用合板も配置し、耐震等級3を満たす構造とした。室内の安全対策にも気を配り、家具を作り付けにして転倒の恐れがないようにしている。

 「これで『逃げないで済む家』になったが、それほどお金はかかっていない。十分な備蓄さえあれば、地震で被災しても、自助でかなり対応できると思う」

 阪神大震災では、耐震性の低い家が「凶器」になった。改善を図るため、旧耐震基準(1981年5月以前)で建てられた住宅の強度を高める改修工事の助成事業が整い、補助額の拡充などが図られてきたものの、阪神から20年余りを経てもなお、事業の出口は見えていない。

 兵庫県西宮市の旧耐震の自宅がつぶれ、高校生の長男を失った経験から、耐震化の徹底を呼び掛けている木造住宅耐震改修推進研究所の稲毛政信所長は「熊本地震の直後は改修の相談が増えたけれど、最近は少ない。古い住宅の建て替えによって耐震化が進んだとしても、今のペースだと30年はかかってしまう」と、動きの鈍い現状に歯がゆさを覚えている。

 熊本地震から2年を経た今も、約3万8千人が不便な仮住まいを余儀なくされている。被災者の苦境を思いやり、「必ず効果のある耐震改修を行わない理由などない」と稲毛所長。「命を守れるばかりか、被災後に大規模な修復や建て替えをせずに済み、いち早く元の生活に戻れる」からだ。

 横浜市は2017年度、熊本地震を受けた国の支援策を活用。木造改修の補助額を30万円増額し、105万円に引き上げた。改修が必要とみられる旧耐震の住宅約13万9千棟への戸別訪問で利用を呼び掛け、耐震診断や相談、改修の利用件数はいずれも大きく伸びた。

 「助成制度の存在を知らなかった人もおり、耐震化が進む余地はまだある」と担当者は実感。家主の高齢化が進んで数百万円に上る改修コストの負担が難しくなり、事業の限界も指摘される中、同市は補助の増額措置を本年度も継続し、さらなる掘り起こしを狙う。

 避難所や仮設住宅での不便な暮らしを避けるためにも欠かせない安全な住まい。稲毛所長は自らの苦い経験をかみしめ、訴える。「国が主導して改修の支援額をもっと引き上げ、半ば強制的にでも耐震化を10年で終わらせるべきだ。そうしなければ、首都直下地震や南海トラフ巨大地震は乗り切れない」


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