28日から横浜のシネマ・ジャック&ベティなどで上映。
「花の都」と形容されるその華やかさは、この国のごく一面に過ぎない。人種、宗教、社会的階層…。複雑に絡み合うフランス・パリ郊外の現実を本作は容赦なく突き付ける。
ビクトル・ユゴーの名作「レ・ミゼラブル」の舞台でもある町、モンフェルメイユは、今や低所得者が多く住む犯罪多発地区。新入り警察官のステファン(ダミアン・ボナール)がパトロール部隊に加わったある日、少年が出来心で悪事を働き、取り返しのつかない騒動へと発展する。
観客はステファンの視点で町の鬱屈(うっくつ)を体感する。異民族間の軋轢(あつれき)と憎悪、貧困がもたらす非行。問題を移民に押し付ける白人警官の非道ぶりに目を覆いたくなるが、映画は単純な善悪の図式で登場人物を描かない。警察官自身もまた、この土地の厳しい環境を生きる一人だからだ。
2018年、サッカーのワールドカップ決勝。フランスが優勝を決め、歓喜に沸く群衆が冒頭に映る。はためく三色旗の下、スポーツでつながった市民が再び殺伐とした日常へ戻る。警察に繰り返し監視される若者、秩序を保とうと抑圧を強める警察。あまりに深い負の連鎖を断ち切ろうと、監督は自身も育ったこの町にカメラを向けた。
俳優陣のリアルな芝居とラストの「怒り」が圧巻。対話を試みるステファンの良心に、希望を捨てない監督の意思がにじむ。
監督/ラジ・リ
製作/フランス、1時間44分