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社会で支える発想を 面会交流は今(6)支援者

社会 神奈川新聞  2018年04月05日 11:45

「子どもの味方になりたい」と語る光本さん(左)。面会交流支援と、新たな相談を受けた帰り道だ=都内
「子どもの味方になりたい」と語る光本さん(左)。面会交流支援と、新たな相談を受けた帰り道だ=都内

 吐く息は白く、吹き付ける風が肌を刺す。女の子(9)は黄緑色のコートを着込み、改札口をじっと見詰め、父親(50)の姿を探し続けた。

 2月下旬の日曜日、埼玉県内の駅。離れて暮らす父親との月に1度の面会交流の日だ。支援で付き添うNPO法人ウィーズ(千葉県船橋市)の光本歩さん(29)と一緒に待つこと数分。視線の先に父親が現れると、女の子は笑顔とともに駆け出した。

 父子がひとしきりじゃれ合うのを見届けた後、光本さんは女の子に話し掛けた。「残念、違ったね。パパがいつものジャンパーだったら、コートとおそろいの色だったんだけどね」。父親はうれしそうに女の子にほほ笑む。「パパの上着、予想してくれてたの?」

 面会時の父親は緑色の上着姿が多い。到着を待ちながら、光本さんと女の子は「パパとコートの色、おそろいかな?」と話していた。

 「親子が離れている間の時間をつなぐことは、大きな役割」。光本さんは、子どもと同居する親と相談した上で、親子が会えていない間の様子を、別居する親とも可能な限り共有する。久しぶりの再会を自然に楽しめるための配慮だ。

 父母が考え抜いた末の離婚であれば、悪い決断とは思わない。ただ、夫婦関係は終わっても親子関係は変わらず続く。

 「親子であることを否定したり、なかったことにしたりする権利は誰にもない」。かつて両親が離婚した当事者として、訴える。「面会交流は、子ども自身がどんな親子関係でありたいかを考える機会。その積み重ねを支え、前へ進む力につなげたい」

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 ウィーズは、県内を含め70組以上の親子のサポートを続ける。面会交流が子どものためのものとなるよう、支援で何より大切にするのは「子ども目線」だ。

 3歳以上の子どもとは必ず面談し、思いをくみ取るよう努める。幼い子も一人の人間として尊重し、思いに耳を傾けることは当然と考える。そして、離婚などを経てつらさを抱えた親との対話も深める。親子それぞれの力になりたいと思う。

 忘れられない親子の交流がある。

 「(お父さんに会いに)行ってみる」。4歳の女の子は母親の顔色をうかがいながら、光本さんにつぶやいた。その一言に傍らの祖母は泣きだし、女の子は複雑そうな表情を浮かべた。

 母親と祖母は父子の面会を強く拒絶し、再会実現まで2年がかかった。ようやく迎えた親子の時間、父親はファミリーレストランで一緒に塗り絵を楽しもうと、真新しい40色ほどの色鉛筆を手渡そうとした。「いっぱい色あるよ」。しかし、女の子は使おうとはしない。「ばあばとママに怒られるから」

 面会は中断したが、光本さんは女の子と会い続け、共に過ごす時間を重ねるうちに、女の子は押し殺していた本音を打ち明けた。「本当は、パパとママと3人で会いたい」

 当事者だけでは実現が難しく、光本さんも交え4人でファミリーレストランのテーブルを囲んだ。光本さんを介して重たい雰囲気は徐々に薄れ、やがて父母がたわいもない会話を少しずつ交わせるようになった。

 「これ、使っていい?」。その姿を見ていた女の子は、父親が再び持参していた色鉛筆に初めて手を伸ばし、ディズニーのキャラクターの絵に笑顔で色を重ね始めた。

 光本さんは振り返る。「パパとママは普通に話せる。子どもがそう感じ取り、親子のありようが少し変わった。支援を続けて良かったと思える瞬間でした」

 目指すのは、いつか支援から“卒業”すること。当事者間で親子の在り方を考えていくことは、光本さんら多くの支援団体が見据えるゴールだ。安心して楽しめる環境を、と心を砕いても、親子の時間に第三者がいることはやはり不自然ではある。「私たちにできることは、ゴールまで一緒に伴走することだから」

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 今、光本さんは「子どもの味方を増やしたい」との思いを強くする。

 「子どもが話したい時、話したいだけ話せる場に」と、昨年12月に相談を24時間無料で受け付けるインターネットサイトを開設。中高生をはじめ若者からの相談が日々寄せられる。

 「お父さんとずっと会っていない。でも、前に進める気がするから会いたい」。悩みをにじませながらメールをくれた女子高生とは、一緒に父親に会いに行く約束をした。子どもたちが前を向いていく姿をそばで感じられることは、何にも代え難いやりがいだ。

 面会交流の意義は大きいとされながらも、その可否や方法などの合意は、基本的に当事者に委ねられる。父母間の対立の中で、子どもの目線は置き去りにされやすい。しかし親子への公的支援は一部にとどまる。民間の支援団体が頼りだが、どの地域にもくまなくあるわけではない。

 「まずは国が面会交流や支援の実態を把握することが大切」。光本さんは困難を抱えた親子を社会全体で支える発想の転換を願う。

 子どものための面会交流を考えることは、大人が子どもとどう向き合っていくか、を問うことでもある。

 離婚は年間約21万件、父母が離婚を経験した未成年の子どもは23万人とされる。少ない数では決してない。思い悩む子どもが身近にいる可能性は誰にだってある。その声に、私たちはどれだけ向き合えるか。

 「子どもの味方となり得るのは、私たち一人一人。その第一歩は、子どもの思いに耳を傾けること。一人でも多くの人に、そんな姿勢を持ってほしい。子どもたちは社会の宝だから」

=おわり

子の選択肢 豊かに
記者の視点=鎌倉支局 竹内瑠梨


 面会交流は2011年の民法改正で、「子の利益を最も優先して考慮」し、取り決めるよう明記された。離れて暮らす親子をつなぐ意義は大きい。

 ただ、無条件の実施には賛成しない。子どものための面会交流を実現するためには、子どもの声に耳を傾け、その声からより良い在り方を探り続ける姿勢が不可欠なのだと、取材を通して実感した。

 会いたいという親の希望をかなえるためにあるのではないし、会わせたくないからと親子関係を断絶させる権利は誰にもない。子どもの視点こそ大切にしてほしい。

 「大切にされていた実感がほしかった」。両親の離婚後、父親と13年間会っていない女性の言葉は、子どもが成長する上で支えとなるものを言い表していた。面会交流でも不可欠な要素だと思う。一度だけ行った面会では双方の親の顔色をうかがい、疲労ばかりが残った。父親から思われていた実感はなく、同居する母親を気遣い、親子関係についてどう考えたら良いかを見失ったという。

 「大切にされた実感」が親子関係を自由に考えていく力となり、選択肢も広がる。面会は、どんな親子関係でありたいか、子ども自身が選択肢を豊かにする機会であるはずだ。その選択肢を親の都合で奪わないでほしい。成長とともに変わっていく子どもの思いに向き合い続ける長期的な視点が必要だ。

 子どもたちとどう向き合っていくか。一人の大人として考え続けたい。


「子どもの味方になりたい」と語る光本さん=都内
「子どもの味方になりたい」と語る光本さん=都内

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