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民間任せから脱却を 面会交流は今(5)制度

社会 神奈川新聞  2018年04月04日 09:02

FPICのセミナーで、参加した親を前に語る山口さん(左奥)=東京都豊島区
FPICのセミナーで、参加した親を前に語る山口さん(左奥)=東京都豊島区

 2月上旬、日曜日の昼下がり。都内のビル一室で、約20人の親たちに年配の女性が語り掛けていた。

 「離れていても親子であることは変わらないと伝え、思いを言いやすい環境を整えることが大切」「子どもに愛情を伝える大人が1人でも多くいると良い」

 親たちが離婚や別居時の子どもとの向き合い方を考えるセミナー。面会交流支援を担う公益社団法人家庭問題情報センター(FPIC)が開催し、FPICで支援に携わる山口恵美子さんが約2時間、支援の現場で聞いた子どもの声を参考にポイントを伝えた。

 FPICのスタッフは家庭裁判所の出身者が多くを占め、約25年前から支援を続けてきた。横浜など全国10カ所の相談室で約1300組の親子を支える。「離婚前後の子と向き合う親のヒントになれば」と20年前から親向けセミナーを手掛け、現在は月1回のペースで開催する。

 親向けセミナーは広がりを見せている。年に数回実施する一般社団法人「びじっと」(横浜市中区)の古市理奈代表理事は「親都合に陥っていることに気付けていない親もいる。子ども中心に考えていくきっかけが必要」。今後は毎月開催したいといい、「親子がお互いに向き合えるよう尽力したい」と意気込む。

 参加する親の受け止めはさまざまだが、「子ども目線」への転換につながっているようだ。ある母親は「娘が相手に会いたくないというのは、私が悪口を言っていたからかも」と自らを省みる。

 離婚後の親子をつなぐ面会交流を「子どものため」のものとしていくには、まずは子どもの立場に立つことが重要だ。離婚や別居を巡り対立する父母が、狭間(はざま)で悩む子どもの心理を考える機会の確保など、民間の支援団体が多様なサポートを手掛けている。

 県内含め70組以上の親子を支援するNPO法人ウィーズ(千葉県船橋市)の光本歩さんは、父母とそれぞれ一対一で子どもの養育について話し合い、親の悩みも聞く。ファミリーレストランで3時間以上語り合うことも珍しくない。

 「親の過去や現状も丸ごと受け止めないと支援はできない」と光本さん。例えば、離婚を望まなかった側の親の思いも知らず、「離婚は事実なのだから受け止めて」と伝えれば傷は深まる。親同士の不信をさらに深めかねず、結局は子どもがつらい思いをする。仕事も子育ても1人で担い、目の前のことで精いっぱいな親もいる。

 「親も悩み、苦しんでいる。理想を押し付けるのではなく、“伴走者”として一緒に今後を考えていく姿勢が大切」

 親のケアや面会交流の仲介などに奔走する支援団体への公的補助は乏しい。「自立した財政運営ができている団体はない」と専門家が指摘するように、人員や財源が限られている。

 一方、公的機関の取り組みは一部地域にとどまる。

 先進的とされる支援に取り組むのは兵庫県明石市だ。「子どもはまちの未来をつくる宝」という理念のもと、2014年度以降、▽FPIC大阪相談室や弁護士と連携した相談態勢の充実▽子どもの気持ちを詳細に記した冊子を離婚届とともに配布▽市職員による支援団体との面会交流支援-などを実施している。

 面会交流を離婚時の取り決め事項と明文化した民法改正後の12年度から、国は自治体への補助事業を始めた。16年度は東京や千葉など1都2県5市が対象となり、各自治体は支援団体に事業委託し、当事者が無料で支援を受けられる仕組みなどを整備。しかし、神奈川ではこうした取り組みはみられない。

 また、横浜などの家庭裁判所では、調停中の一部の夫婦向けに子どもの気持ちをパンフレットやDVDで学ぶ機会の提供を始めた。

 ただ、いずれの取り組みも全国的な広がりは途上にあり、地域によって受けられる支援にばらつきがある。当事者への支援は「民間の善意に頼っている」(専門家)のが実情だ。

 当事者も公的な支援の拡充を訴える。

 元夫と長女の月1回の面会交流を見守る都内勤務の40代の女性会社員は、民間の支援団体による付き添い型のサポートを利用する。「第三者がいてくれて本当にありがたい」と実感を込める。

 離婚までの間、元夫の威圧的な態度がストレスだった。責められるたびに「自分が悪い」と思い、周囲にも相談できなかった。「事情があって別れた2人の間では負の感情が付きまとい、話し合いをすることすらままならない。意見が少し違っただけで大きくこじれる。信頼できる第三者の存在は大きい」

 年間約21万件の夫婦が離婚し、面会交流の調停件数は増え続けている。支援の必要性が高まっている、と思えてならない。「親子の数だけケース・バイ・ケースの支援が必要なはず。必要としている人が団体とつながれることが大切」と訴える。

 支援の費用負担も気掛かりだ。例えば付き添い型のサポートは1回につき数万円かかることも。支援を必要としていても、手の届かない人もいるのではないか。だからこそ、国や自治体には「支援団体任せにせず、もっと支援に加わり、助成も拡充してほしい」と願う。

 「『家庭の問題は全て家庭で解決』という考えが根強く、子どもを社会全体で支えるという発想が乏しい」。公的支援が進まない背景について、立命館大の二宮周平教授(家族法)はこう指摘する。関係機関が連携しながら親子を支える海外とは対照的だ。

 二宮教授によると、韓国も日本と同じく夫婦間の話し合いによる協議離婚が一般的だが、離婚を考える夫婦には裁判所の親向けガイダンスの受講が民法の規定で義務付けられている。

 カナダは裁判所の指示で、国が助成する面会プログラムを利用できる。心理学など専門スタッフが付き添う安全な環境で面会でき、子どもの意向確認や親向けのアドバイスも担う。米国などでも、親向けガイダンスを受けなければ裁判所での離婚手続きを進められないという。

 一方の日本は、協議離婚で面会交流の可否や方法に関する取り決めは義務付けられていない。調停で実施が決定しても継続的なフォローはなく、具体的な内容に関する父母間の合意や面会の実現は基本的に当事者任せだ。「『子どものため』という視点が抜け落ちやすい」と二宮教授は指摘する。

 親が子どもの気持ちを考える機会、離婚を巡る子どもへの情報提供、親子関係について意見しやすい環境づくり…。「子ども目線」の面会交流につなげるためには、いずれも欠かせない。二宮教授は強調する。「子どもの思いを中心に、親子で合意形成していけるよう社会全体で支援すべきだ」


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