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相模原殺傷事件考 記者の視点=報道部・石川泰大
時代の正体〈587〉足元の差別から逃げぬ

社会 神奈川新聞  2018年03月29日 11:31

横浜拘置支所にいる植松被告から届いた手紙
横浜拘置支所にいる植松被告から届いた手紙

 目の前の古びたドアがわずかに音を立てて、ゆっくりと開いた。立ち会いの警察官に伴われて部屋に入ってきたその姿に、思わず息をのんだ。平成に入って犠牲者が最多の殺人事件を起こした男は、拍子抜けするほど「どこにでもいる普通の青年」だった。

 2016年7月26日未明、相模原市緑区の県立障害者施設「津久井やまゆり園」に侵入し19人を刺殺、26人に重軽傷を負わせた元職員の植松聖被告(28)=殺人罪などで起訴。

 これまで、同僚記者2人とともに14通の手紙をやりとりし、昨年12月以降、勾留先の横浜拘置支所で4回の接見を重ねてきた。

違和感


 彼と初めて向かい合ったのは17年3月。現場からほど近い津久井署の面会室だった。小柄でほっそりとした体形に、上下黒色のスエット姿。逮捕時に短かった金髪は耳を覆うくらいまで伸び、根元から半分は黒髪に戻っていた。事件から7カ月という時間の経過を感じさせた。

 「このたびは遺族の皆さまを悲しみと怒りで傷つけたことを心から深くおわびします」。体をくの字に折り曲げて深々と頭を下げ、緊張した様子ながら、はっきりとした声で言った。

 礼儀正しく、言葉遣いも丁寧な、どちらかと言えば気弱そうに見える青年。「障害者はいなくなればいい」と声高に叫び、無抵抗の入所者に襲いかかった「怪物」のイメージとの乖離(かいり)が引っ掛かった。戸惑った、という表現の方が正しいかもしれない。

 一体どんな人間なのか。障害者を軽んじる独善的な考えはなぜ芽生え、理不尽な憎悪をどのように膨らませていったのか。この違和感こそが、いつ終わるとも知れぬ取材に駆り立てる原点になったと言っていい。

芽生え


 アクリル板越しの彼は冗舌だ。なぜ事件を起こしたのか。拘置支所の接見室で何度か尋ねたことがある。

 「意思疎通の取れない“心失者”は人の幸せを奪い、不幸をばらまく存在。絶対に安楽死させなければいけない」。反省や謝罪を口にすることはない。重度障害者への差別的な主張を手紙同様に繰り返し、こうも言い放った。

 「私が殺したのは人ではありません」

 重度障害者は人間と見なさない-。事件から時間を経て、自らの考えをさらに深めているように思えた。時折笑みを浮かべる「どこにでもいる普通の青年」に、言い知れぬ不気味さを覚えた。

 「障害者は必要ないという考えは園で働くまで全く考えたことはありませんでした」。そう吐露する彼を変えるきっかけとなった入所者家族の言葉が、昨年8月に届いた手紙の中にあった。

 〈親でも子どもが何を考えているか分からない〉

 彼は犠牲者を一顧だにしないだけでなく、家族にとっても障害者は不必要な存在であるといわんばかりに振る舞う。

 そもそも障害者とその家族への感情を初めて自覚したのは、小学生の時だったという。聞けば、同級生に知的障害のある男の子がいた。騒いだり、暴れたり…。その行動は幼かった彼の目には奇異に映り、ほかの友人と一緒に遊んだことはあっても自分から話し掛けたことはなかった。


 「付き添っている親がいつも疲れているように見えました。

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