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記者の視点=デジタル編集部・成田洋樹
時代の正体〈586〉横浜に民主主義はあるか 北綱島支援校再編問題

時代の正体 神奈川新聞  2018年03月28日 02:00

横浜市立北綱島特別支援学校の分校化案を賛成多数で可決した市会本会議=2月23日、市会
横浜市立北綱島特別支援学校の分校化案を賛成多数で可決した市会本会議=2月23日、市会

 【時代の正体取材班=成田 洋樹】行政が市民の暮らしに影響を与える施策に取り組むのであれば、その施策が必要とされる明確な理由が示されなければならない。それが、施策が妥当かどうかの判断材料の要になるからだ。特に当事者や関係者には丁寧な説明が必要で、一定の理解を得ることが不可欠だ。ましてや子どもの命と人権に関わる問題ならなおさらだ。2年前の唐突な閉校計画に端を発し、曲折をたどった横浜市立北綱島特別支援学校(港北区)の再編論議では、これらを欠いていた。

拙 速



 同校を2019年度から市立上菅田特別支援学校(保土ケ谷区)の分校に移行させる案が保護者に提案され、市会で可決されるまでの経緯を見ると、民主主義は果たして機能していただろうかという疑問が頭をもたげる。北綱島は医療的ケアが必要な重度重複障害のある子が少なくない。とりわけ慎重な判断と手続きが求められるのに、むしろ乱暴に事が運び、「当事者不在」の思いは一層募る。

 市教育委員会が分教室として存続させる案を撤回し、新たに分校化案を保護者側に提案したのは1月中旬。議会で可決されるわずか1カ月ほど前のことだった。

 条例改正が必要な分校化案についての保護者説明会の日程は同月15、18、21日と組まれ、市教委は19日の臨時会で市会への提案を諮る構えを見せていた。つまり、説明会を全て終える前に、分校化案成立に向けた次のステップに進む算段だった。この日程を組んだ市教委からは説明を尽くした上で市会への提案を決めるという姿勢は全く感じられなかった。


横浜市教育委員会が新たに「分校」案を示した保護者説明会=1月15日、北綱島特別支援学校
横浜市教育委員会が新たに「分校」案を示した保護者説明会=1月15日、北綱島特別支援学校

 市教委は「19年度入学予定の未就学児の進路相談を控えているため、同年度以降の学校の位置付けを早期に決める必要がある」として17年度内の決着を急いだ。

 だが、保護者からは「いまの学校とほとんど変わらない形の分校であるのなら、なぜ移行する必要があるのか」との疑問の声が相次いだ。市教委は分校移行後も教職員数や教育内容で現行水準を維持する考えを示していたからだ。実質的に現状とほとんど変わらない学校であるにもかかわらず、形式的に分校に変えるだけのように保護者の目には映った。

 つまり保護者や学校現場が納得していないのは、分校に移行することへの不満や不安からだけではない。それ以上に「なぜ分校に移行せざるを得ないのか」という疑問について、市教委が明確に回答できていないからだった。かろうじてなされた「学校教育法で特別支援学校の設置義務が県にある中で、市は肢体不自由特別支援学校を独自に5校つくってきたが、これ以上校数を増やすことは難しい」という答えにうなずけるはずがなかった。

 岡田優子教育長らがインフルエンザにかかったため、19日の臨時会は26日に延期された。結果的に3回の説明会を終えてから臨時会に臨む形になったが、保護者から分校化案に賛同する声がほとんど上がらない状況に変わりはなかった。


横浜市教育委員会臨時会の審議に臨む岡田教育長ら(右)=1月26日、横浜市中区
横浜市教育委員会臨時会の審議に臨む岡田教育長ら(右)=1月26日、横浜市中区

 迎えた26日の臨時会。教育行政をチェックする立場にある教育長と5人の教育委員から、分校化案への異論は出なかった。市会に提案するか否かの審議は市教委会議規則に基づき非公開とされた。市会への提案を各委員が承認した根拠が公の場では示されなかった。

 3週間後の2月16日、分校化についての条例改正案が市会に提案された。議案提案者の林文子市長は「市教委の熟慮の結果」として分校化案に理解を示してみせた。


横浜市立北綱島特別支援学校の分校案を賛成多数で可決した市会こども青少年・教育常任委員会=2月19日、市会第二会議室
横浜市立北綱島特別支援学校の分校案を賛成多数で可決した市会こども青少年・教育常任委員会=2月19日、市会第二会議室

 実質審議の場となった19日の市会こども・教育常任委員会でも市教委から明確な説明はなされなかった。さらには、転校先が遠い場合、通いづらくなり、学ぶ権利を奪いかねなかった閉校計画について、岡田教育長は「間違いではなかった」となおも主張した。施策の妥当性をチェックすべき立場の同常任委員会も自民、民進、公明の賛成多数で可決し追認した。23日の本会議では自民、民進、公明に加え無所属などの計72人が賛成し可決した。反対は、共産と無所属の13人だった。

 説明責任を果たさない教育行政、その姿勢を追及ではなく容認する市会多数派。地方自治の「二元代表制」の一翼である市長も市教委の施策を追認した。納得できる説明を求める保護者や学校現場の意向は市民の代表が集っているはずの議会の場でも顧みられず、

切り捨てられたも同然だった。

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