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川崎転落死事件の衝撃(3)家族 苦渋の選択を迫られ

社会 神奈川新聞  2018年03月25日 12:07

 「今は施設に入れたことを悔やんでいる」。意見陳述で証言台に立った遺族の女性は、自責の念を口にしつつ、こう言い添えた。「でも、施設に入れなければどうやって介護をしていけば良かったのか」

 川崎市幸区の老人ホームで2014年、入所者3人が相次いで転落死させられた事件は、遺族の心に深い傷を残した。最初の犠牲者である87歳の男性が施設で暮らすようになった経緯について、葛藤を伴いながら法廷で語った長女もその一人だ。

 意見陳述によると、父親は寝たきりの母親の介護を亡くなるまで15年続けていたという。その後、肺炎をこじらせて入院し、1人暮らしが困難になった。父親は自宅への愛着が強く、不慣れな施設での共同生活に不安があったが、家族が付きっきりで世話をすることもまた難しかった。

 「やむなく施設への入居を選択したのです」。余生を安心して過ごせるためにと決めた預け先の職員に、父親が殺されるとは思いもよらなかった。

 家族の気持ちを踏みにじり、施設への信頼を打ち砕いた元職員の行為は、だからこそ許せない。「介護施設の入居希望者と、その家族に不安を募らせた罪は大きい」。長女は事件が社会に与えた衝撃も踏まえ、法廷で思いをぶつけた。

 高齢者施設での虐待事案は全国で頻発している。日本高齢者虐待防止学会の池田直樹理事長は「施設へ預けることに、漠然とした不安が広がってしまうのでは」と危惧し、「本当に困っている人が施設の利用をためらい、追い詰められるようなことがあってはいけない」と強調する。

 利用者側の不信感は、施設側にとっても好ましくない。池田理事長は「入所者が安心して最期まで暮らすためには、施設の力だけでなく、家族の協力や支えも欠かせない」と言う。施設と家族という両輪がぎくしゃくし、ただでさえ仕事の負担が大きい現場に、不安解消のための努力も求められれば職員はより疲弊しかねない、とも指摘する。

 施設の需要は高まるばかりだ。利用料金が比較的安い特別養護老人ホームの待機者は2016年4月時点で約37万人。施設数も右肩上がりを続け、厚生労働省によると、00年から16年にかけて有料老人ホームは12・4倍、認知症高齢者のグループホームは35・5倍に増えた。

 事件は、今後の施設利用を考えている人たちに暗い影を落としている。

 自宅で70代の父母とともに暮らす川崎市川崎区の女性会社員(50)は、こぼす。「今はまだ施設に入れなくても家族で支えられる。でもいつかは、施設に頼らないと難しいと思う。安心して預けられる場所があるのか、どの家族も無関係の話ではないのでは」


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