1. ホーム
  2. 社会
  3. 官吏の道に反する 森友改ざん、「首相らの辞任不可避」

官吏の道に反する 森友改ざん、「首相らの辞任不可避」

社会 神奈川新聞  2018年03月19日 10:27

藤井裕久氏
藤井裕久氏

 学校法人「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書を巡り、財務省の官僚が改ざんに手を染めた前代未聞の不祥事。元大蔵官僚で財務相も務めた藤井裕久氏は、失望と憤りで声を震わせる。「中立公平でなければならない官吏の道に反し、万死に値する」。「最強の官庁」の不正で行政に対する信頼が崩れ去ったとする一方、「役人が忖度(そんたく)することは、あり得ない」とも。権力者の示唆があったことは明白とし、麻生太郎財務相と安倍晋三首相の辞任は不可避とみる。

 この問題を放置しておくことは、政治と行政が世の中の信頼を失うということだ。信頼を失えば、納税通知なども含めすべてが「インチキではないか」となる。到底、許されるものではない。安倍首相と佐川宣寿前国税庁長官(前理財局長)の罪は重い。

 発端は、昨年2月に安倍首相が国会の場で「私や妻が関係していたなら、間違いなく総理も国会議員も辞める」と言ったことだ。それに基づいて佐川氏は迎合する答弁を重ね、文書を直したのだろう。

 佐川氏が政局に加担したことは許し難い。だが、佐川氏1人でも、財務省の内部だけでもできる所業ではない。世間では「忖度」と言うが、役人が勝手に考えることなどあり得ない。

 大蔵省で役人を21年やってきた自分から見ても、考えられない話だ。明確な指示ではなくても、権力者から何らかのサジェスチョン(示唆)があったことは間違いない。麻生財務相も、知らないはずはない。

 昭恵首相夫人と学園理事長だった籠池泰典被告が並んだ写真は、相当大きな意味がある。それでも、役人は絶対に公平中立を曲げてはいけないんだ。


決裁文書の主な改ざん点
決裁文書の主な改ざん点


 接待汚職や「居酒屋タクシー」などの不祥事もあったが、どれも個人の問題だった。今回は政権を支えるための問題で、重さが全然違う。昔の方が良いということではなく、安倍政権を維持するために役人が行動した点は、接待汚職などとは比べものにならない重みがあるということだ。

■ ■ ■ 
 公務員が、一人の権力者の政局に加担してはいけない。これは大原則だ。役人だったころ、田中角栄内閣を官僚として共に官邸で支えた後藤田正晴氏から「公務員は中立公正で、初めて国民の幸せが実現する」と言われた。大蔵省の先輩からも、こう教育を受けていた。

 しかし、佐川氏は一人の権力者である安倍首相に迎合した。官僚が与党のシンクタンクであることは否定しないが、それは政策に限られる。政局についてシンクタンクであるつもりは毛頭なく、決してあってはならない。

 竹下登官房長官の秘書官を務めていた際、竹下氏に「官僚は入って来るな。今日は帰れ」と言われたことがある。長期政権だった佐藤栄作首相を降ろす動きがあった時で、「おまえたちは、ここでおしまいだよ。もうこういう席には来るな」と言って、はっきり区別していた。

 これが筋だ。ここから先は政策とは違う政局の世界だと、政治家の側がけじめを心得てくれていた。役人を政局に巻き込むことはおかしい。役人もいい気になって見たい思いがあるが、決して見てはいけない。

 政策と政局の違いをわきまえることは一番大事なところだ。例えば個人的には減税反対でも、政治が「減税する」と決めれば黙って従わなければいけない。これは政局とは違う。個人として反対でも従うしかない。それが官吏だ。

 だが、その姿は安倍政治で崩れたと言っていい。役人がここまで落ちたのは、2014年に内閣人事局を新設して間違った運営をしてきたからだ。

 役所のトップの人事を政治が握ることは、正しく運用されるのであれば間違っていない。しかし、安倍首相は誤った運用をしてきた。自分の意に沿わない人事には反対する運用だ。「法の番人」とされる内閣法制局でも、安全保障政策について憲法違反との見解を示した人物を代えた。

 今回も安倍首相や側近から、「自分と昭恵夫人のことをまっとうに処理してくれるなら、次のことを考えてもいい」といったことが、ある段階で出たのだろう。佐川氏は、それに抱き込まれて国税庁長官という恵まれた立場に任命された。拒否すべきだったが、従った。だから財務省が忖度したのではなく、人事権でやられたと思っている。

 

■ ■ ■
 「権力者は隠せる」ということも明確になった。改ざんした資料を基に審議してきた国会は、うそを前提に1年間議論してきたことになる。まさに前代未聞。議会制民主主義の冒とくでしかない。完全な政治不信につながっている。

 だが、ようやく明るみに出た。これは、世論とマスコミ、野党の力だと思っている。財務省の中にも、まっとうな役人がいたから報道機関に情報をリークしたのだろう。

 命を落とした人間もいる。こういう事件は巨悪が眠り、若い人が犠牲になるのが常識になっている。真面目な下僚は耐えられないからだ。財務省が信頼を取り戻す道は、本来の公務員の原則に立ち戻る以外にない。

 問題の根本は籠池被告と昭恵首相夫人が親しく、国有地を8億円値下げして売却したことだ。首相が自分と妻を守ろうとし、その説明がつかないことが混乱を招いている。

 麻生財務相の責任を追及するのもいいが、それでやめては駄目だ。まして、佐川氏でやめてはいけない。最後に責任を取るのは安倍首相しかいない。政治不信が広がり、竹下内閣が総辞職したリクルート事件のようにならざるを得ないだろう。責任の取り方は辞任しかない。そのことによって初めて信頼が戻る。

 藤井裕久(ふじい・ひろひさ)氏 東大卒業後、大蔵省入省。大蔵官僚時代には、佐藤栄作、田中角栄内閣で竹下登、二階堂進両官房長官の秘書官を務めた。1977年の参院選全国区に自民党から出馬し、初当選。細川護熙、羽田孜内閣で蔵相、民主党政権の鳩山由紀夫内閣で財務相を歴任。2012年に政界を引退した。85歳。


シェアする