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規制か推進か 民泊巡り揺れる自治体

社会 神奈川新聞  2018年03月18日 11:14

民泊事業予定者らに向けて県が開催した説明会=9日、藤沢市保健所
民泊事業予定者らに向けて県が開催した説明会=9日、藤沢市保健所

 住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行に合わせて制定される県条例案で上乗せ規制がなされるのは、箱根町1町となった。民泊普及を図る新法の趣旨を鑑みた格好だが、現にトラブルがありながら対象から外れた鎌倉市や、営業が一部で禁止される箱根町の事業者には懸念がくすぶる。一方で過度な制限は新法を骨抜きにしかねないため、国は地方自治体の動きをけん制しており、規制か推進かで民泊を巡る状況は揺れている。

くすぶる懸念


 全国有数の観光地であると同時に、住民の自治意識が高いことで知られる鎌倉市。居住環境を守るためのルールが定められている区域は、市内に100カ所以上もある。同市の担当者は「騒音などのトラブル、住宅地の生活環境悪化が懸念されるため、県には何度も要望してきた」と話す。

 実際に同市には民泊を巡って、苦情や相談が寄せられている。

 建築基準法で禁止されている地域で開業していた事業者に対し、同市は営業の取りやめを指導したほか、ごみの処理や騒音などに関する相談を受けて対応を求めたケースがあった。

 県の条例制定にあたっての意見照会に対し、▽家主居住型以外の営業禁止▽住宅地での営業禁止▽平日の営業禁止-などを求めたが「合理的な理由がない」として受け入れられなかった。同市の担当者は「今後も要望を続けていく」と言いつつ「住民が自主的にルールを作る際に支援していきたい」ともする。

 条例案の対象となった箱根町も、当初は通年での規制を希望していたが、繁忙期にあたる6カ月間にとどまった。

 同町の旅館業者からは不安の声が聞こえてくる。

 箱根温泉旅館ホテル協同組合の担当者は「箱根に来るお客さんを迎えるという点では、民泊も旅館やホテルと同じ。箱根のイメージが悪くなるのは勘弁」と心配げだ。「旅館やホテルは費用をかけて安全対策に取り組んでいる」とし、「民泊であっても同レベルの安全確保をしてほしいし、県にはしっかり管理をしてもらいたい」と語気を強める。

住環境を守る


 良好な住環境を守る目的で、独自の規制に乗り出す動きは全国の自治体で広がっている。

 違法民泊が横行している京都市では、「住居専用地域」での民泊営業について、家主が居住する場合などの例外を除いて観光閑散期の1月15日正午~3月16日正午に限る条例が成立。2020年に東京五輪・パラリンピックを控える東京都の各区でも、新宿区が条例で同地域の平日営業を禁止するなど網をかける条例が次々と制定されている。

 県内では、横浜市が「第1種・第2種低層住居専用地域」で、祝日を除く月曜正午から金曜正午まで民泊営業を制限。「町のブランド」を守る条例案は、2月の市会本会議で可決された。

 マンションの管理組合にも影響は及ぶ。

 分譲マンションの管理会社でつくるマンション管理業協会(東京)の調査によると、会員会社が業務を受託した8万7352の管理組合のうち、8割超の管理組合が民泊の禁止方針を決議。管理組合が禁止方針を決めたマンションでは、民泊新法により届け出ができなくなっている。

 政府は民泊が高まる宿泊需要の受け皿になることを期待しており、こうした規制の広がりには難色を示している。

 日本政府観光局のまとめによると、訪日外国人客は12年には約835万人だったが、17年は約2869万人と、5年で3倍以上に増加。19年にラグビーワールドカップ、翌年には五輪・パラリンピックを控え、さらなる訪日外国人客の増加が見込まれる。

 「民泊の健全な普及を図る新法の目的を踏まえれば、過度な規制は適切でない」。今月5日の記者会見で、菅義偉官房長官はこう苦言を呈した。

歯止め効果も


 県は今月に入り、箱根町と鎌倉市にそれぞれ隣接する小田原、藤沢の市内2カ所で、民泊事業希望者ら向けの説明会を開催。参加した計120人に「適正に運用し、地域と調和した健全な民泊に取り組むようお願いしたい」と呼び掛けた。

 約20ページにわたって事細かなルールなどが書かれた資料に基づき、民泊が可能な住宅の設備や居住要件、届け出方法を解説。騒音防止などについては外国人利用者が理解できる言語で適切な説明をすること、周辺住民からの苦情には夜間早朝を問わず対応すること、宿泊実績について2カ月に1回県に報告する義務などへの対応を求めた。

 藤沢と鎌倉両市に別荘を所有するという男性は「旅館業法よりは条件が厳しくない。ビジネスチャンスをつかみたい」と期待。一方で、参加者からは「夜中に苦情の電話がかかってきたときに毎回対応するのは難しい」「騒音やごみを巡って近隣とのトラブルは必ず起こると思う」という声も上がった。

 県の管轄外になる保健所設置市の茅ケ崎、藤沢両市は様子見のようだ。

 茅ケ崎市は「制限をあまりきつくすると、かえって違法民泊が増えてしまうかもしれない」と規制に慎重な姿勢を示す。ただ「特定の地域で苦情が殺到する状況などが発生すれば、条例を制定する可能性はある」と含みを残し、藤沢市も「6月の施行日までに状況が変われば制定の可能性はある」と語る。

 民泊を営みたい人の自治体への届け出は今月15日にスタート。民泊仲介業者の観光庁への登録も始まった。民泊新法には、箱根町観光課が「あったとしても全てをチェックするのはマンパワー上、難しい」と明かす、野放し状態の違法民泊に歯止めをかける効果も期待されている。

 民泊と地域の共存をどう図っていくのか。県は「環境が悪化するのかどうか、始まってみないと分からない」としつつも「悪質な場合は告発も辞さない」と今後を注視する構えだ。

 ◆住宅宿泊事業法(民泊新法) 民泊の基本的なルールを定めた6月15日施行の法律。現在は旅館業法に基づく簡易宿所の許可を得るか、国家戦略特区に指定された地域で首長の認定を受ける必要があるが、新法では自治体首長への届け出によって年間180日を上限に、民泊営業が可能となる。家主に対し▽民泊住宅と分かる標識の掲示▽宿泊者名簿の作成▽定期的な清掃▽騒音防止対策や近隣からの苦情対応-などを義務付けている。法令に違反した場合、業務停止命令などの対象となり、従わない場合は6月以下の懲役か100万円以下の罰金を科す。


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