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記者の視点=石橋学
時代の正体〈585〉配慮なき蔑みの末に 朝鮮総連銃撃テロ事件(中)

時代の正体 神奈川新聞  2018年03月07日 09:11

朝鮮半島を巡る報道についての思いを語った女子生徒(右手前) =神奈川朝鮮中高級学校
朝鮮半島を巡る報道についての思いを語った女子生徒(右手前) =神奈川朝鮮中高級学校

 在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)本部ビル銃撃テロ事件の約2週間前の2月11日、フジテレビのワイドショー番組「ワイドナショー」で国際政治学者の三浦瑠麗氏は言った。

 「もし、アメリカが北朝鮮に核を使ったら、アメリカは大丈夫でも、われわれは結構反撃されそうじゃないですか。実際に戦争が始まったら、テロリストが仮に金(キム)正恩(ジョンウン)さんが殺されても、スリーパーセルと言われて、指導者が死んだのが分かったら、一切外部との連絡を断って都市で動き始める、活動すると言われているんですよ」

 画面下にテロップで〈スリーパーセル 一般市民を装って潜伏している工作員やテロリスト〉と表示され、司会のお笑い芸人が「普段眠っている、暗殺部隊みたいな?」「潜んでるってことですか?」と尋ねる。三浦氏は答えた。

 「テロリスト分子がいるわけですよ。ソウルでも、東京でも、もちろん大阪でも。今、結構大阪やばいって言われていて」「潜んでます。と言うのも、いざというときに最後のバックアッププランです。首都攻撃するより、他の大都市が狙われる可能性もあるので、東京じゃないから安心はできない。正直われわれとしては核だろうが何だろうが、戦争してほしくないんですよ、アメリカに」

 公共の電波で、根拠も示さず北朝鮮の脅威をいたずらにあおる。在日コリアンが多く暮らす大阪を名指しして「隣に住む在日に気を付けろ」と呼び掛けているようなものだ。事実か否かにかかわらず、差別と敵愾心(てきがいしん)を助長し、地域社会に分断を刻みつける。何より在日コリアンを恐怖に陥れ、危険にさらす。まかり通る配慮のなさと、そこに透ける蔑(さげす)みの暴力性。私は前日に触れた、在日4世の朝鮮学校生の悲嘆を思い起こした。

見下しのまなざし


 横浜市神奈川区の神奈川朝鮮中高級学校で開かれた日本人との交流イベントだった。参加者が車座になって感想を語り合う。率直な思いを聞かせてほしいと求められ、女子生徒は言った。

 「北朝鮮のニュースが流れるたび、日本の友達に『あれって本当なの?』と聞かれます。北朝鮮に住んでいるわけじゃないから分からない。でも、日本の報道が全てではないと思う。とはいえ、北朝鮮がものすごくいい国で、日本の報道が全て間違っているとも思わない。毎回そう答えます」

 朝鮮学校は外国人学校も対象にした国の高校無償化制度から唯一除外されている。朝鮮学校に通っているというだけで県の補助金を受けることもできない。在日コリアンとは無関係の拉致問題が持ち出される不条理は差別以外の何ものでもない。だから放課後、横浜駅前に立ち、私たちの存在を認めてほしい、と署名集めに励んできた。快く応じてくれる人々に心強く思う一方、「こっちはミサイルを撃ち込まれているんだ」「金正恩のことはどう思うんだ」と詰め寄られ、社会にはびこる差別の回路と偏見の根深さを肌で感じてきた。

 「メディアの影響力はすごい。私たちがいくら頑張っても、取り上げ方次第で台無しになる。うそをついていると思われてしまう。だからニュース一つで決め付けないでほしい。私たちを見て、自分なりに考えてほしいと思います」

 懇願するように締めくくったのも、平昌五輪のさなか、南北関係を巡る洪水のような報道が続いていたからだ。ほとんどが「ほほえみ外交にだまされるな」といった南北融和に否定的なトーン。北朝鮮の「意図」がことさらに伝えられ、韓国の対応があしざまに取り上げられていた。まるで対立を望んでいるかのように。

 三浦氏も脅威論の前置きのようにして語っていた。

 「北朝鮮は韓国にとって同じ民族。だから美女応援団がやって来たり、金(キム)与正(ヨジョン)氏との会談が成功したりすると、結構ふわーっと『もう統一に向けていけるじゃん』というムードになっちゃう」「ソウルの人たちは自分たちが火の海にされたくないから、少しでも希望の光が見えたら、仲良くする道があるんだとすぐに飛びついちゃう」

 どこまで見下しているのか、と思う。平和と統一への切実な希求を嘲笑(ちょうしょう)する態度は醜悪に尽きる。だまし、だまされている北朝鮮と韓国にだまされるなという言説は、なるほど、かつて朝鮮半島の人々を自分たちより劣った存在とみなし、植民地支配を正当化させた差別と蔑視と重なって映り、南北分断につながる旧宗主国としての責任が一顧だにされていないのもうなずける。

差別を打ち消さず


 三浦氏は知らない。平昌五輪の開会式、韓国と北朝鮮の選手団が統一旗を掲げた合同入場行進を在日コリアンの子どもがどんな思いで見守っていたかを。

 「滞りなく、失敗なく、無事に終わりますようにと祈るような気持ち。失敗があればマスコミがただちに報じ、ほら見たことかとインターネットで炎上が起き、在日への攻撃が押し寄せてくる。感動的な場面を、そんな張り詰めた気持ちで見詰めている現実がある」

 そして知らないはずがない。自らの身を守るため、人を人と思わぬ差別意識が疑心暗鬼と重なったとき、人は人を殺す。1923年の関東大震災で起きた朝鮮人虐殺の歴史は教える。「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人が暴動を起こしている」という流言を人々が信じ、自警団を組織して凶行に走ったのも、当時の新聞が「朝鮮人はテロリスト」を意味する「不逞(ふてい)鮮人」という、いまでいうヘイトスピーチを流布させていたからだ。それは震災4年前の19年に朝鮮半島で起きた三・一独立運動を武力で鎮圧した日本政府が弾圧を正当化するためのものだった。

 三浦氏のまなざしはその後の態度が決定づける。番組での発言が差別や偏見を助長するという批判について、ハフィントンポストの取材にこう反論している。

 「私は番組中、在日コリアンがテロリストだなんて言っていません。逆にそういう見方を思いついてしまう人こそ差別主義者だと思います」

 自らを棚に上げ、話をすり替え非難を封じる差別主義者の話法そのもの。問われているのは意図ではない。自身の発言が引き起こす害悪と責任の取り方だ。ブログでは「仮にこのレベルでの発言が難しいのであれば、この国で安全保障について議論するのは正直、不可能です」とも開き直った。この国の安全のためなら差別があおられたとしても小事だというのか。つまり、自身の発言によって在日コリアンの身に危険がおよび、ヘイトクライムが起きようとも構わない。そう言っているに等しい。人を殺傷する拳銃を使った朝鮮総連へのテロが発する、在日コリアンは殺されても構わないという凶悪なメッセージと底流で通じて、響き合って聞こえる。

 4日に卒業式を迎えた女子生徒に三浦氏の発言について聞いた。

 「これからも出会う一人一人に自分たちのことを話していきたい。でも、日本国民全員と知り合いになれるわけじゃない。マスコミの人やメディアで発言する人は影響力があると知っているはずなのに、どうして偏見に満ちたことしか、他人を傷つける言葉しか言えないのでしょう。みんなが平和になるために発言しなければいけないはずなのに。自分に発言力がないことをうらめしく思います」

 専門学校へ進む女子生徒は俳優を目指す。有名になり在日コリアンの本当の姿を知ってもらいたいという。

 その日放送されたワイドナショーで三浦氏が笑いながら語ったのは「3週間前に一生懸命、4月にアメリカが北朝鮮に先制攻撃するというので、食い止めようとして発言して炎上した。あまり炎上発言したくないんですよ」だった。東大政策ビジョン研究センター講師という公的な存在として最低限果たすべき反差別の表明も、自分の発言を差別に利用しないでほしいということさえ言えず、メディアもまたその責任を果たそうとしないのだった。


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