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性的少数者の就活、不安解消へ スーツ選び、性別欄削除、広がる取り組み

社会 神奈川新聞  2018年03月03日 09:37

性的少数者向けのスーツ選びの催しでは、サイズなど細かな注文に応じた
性的少数者向けのスーツ選びの催しでは、サイズなど細かな注文に応じた

 来春卒業予定の学生を採用する主要企業の会社説明会が1日に解禁され、就職活動が本格的に始まった。「売り手市場」とはいえ、少なからぬ若者が自分の進む道について思い悩む時期、LGBTら性的少数者の苦悩はとりわけ深い。「男女で分かれたスーツを着るのがつらい」「面接でセクシュアリティー(性の在り方)を公表していいものか」。こうした就活時の不安を解消しようとの取り組みが今、広がっている。

 「ゆったりと着たいですか、それともフィットしている方がよろしいでしょうか」。2月24日、有楽町マルイ(東京都千代田区)であったスーツ選びの催し。自社ブランド売り場の担当者が顧客から細かな要望を聞き取っていく。

 対象は、同性愛者や両性愛者、生まれつきの体の性と自覚する性が異なるトランスジェンダーら性的少数者の就活生や社会人。ゆっくりと買い物を楽しんでもらおうとの趣旨から、1人に対して約1時間半、個別に相談や注文に応じた。

 主催したのは、ファッションビルを展開する丸井グループと、性的少数者を支援している東京都のNPO法人「ReBit(リビット)」。両者が目的にしているのは、就活の一歩目とも言えるスーツを着ることへの抵抗をなくすことだ。

 スーツはメンズとレディースに分かれ、性別でサイズが限られていたり、シルエットが大きく違ったり、ボタンの掛け合わせなど細部も異なる。この性差の強調が性的少数者にとって苦痛になっている。

 例えば、女性として生まれ、男性として生きるトランスジェンダーが出生時の性である女性向けの服を着ることは、望まない「異性装」を強いられることにほかならない。店側に相談したくても、自分のセクシュアリティーについて言いにくいのが実情だ。購入の際に「演劇の衣装」と自分を偽るケースもある。

 丸井グループの自社ブランドのメンズスーツは身長145センチから作れ、レディースも幅広く用意。上は男性用、下は女性用といった組み合わせが可能で、色合いも合わせられる。

 昨年初開催したが、顧客のさまざまな注文に応じられることが好評で、北海道からの来店者もいた。ことしは有楽町だけでなく、マルイシティ横浜(横浜市西区)など4店舗に拡大。春からの社会人生活に向け、スーツを購入したトランスジェンダーの大学4年生は「服を買うときはいつもビクビクしていたけど、安心して買い物ができた」と笑顔を浮かべた。

 一方、面接で使うエントリーシートから性別記載欄を削除する動きも出てきている。昨年3月の経団連の調査によると、多くの企業が性別欄をなくした、あるいは記載の「必須項目」から「任意項目」に変更したと回答。採用部門の担当者に研修を受けさせたり、ガイドラインを示したりするところもある。

 この調査で回答のあった233社の91・4%が性的少数者への取り組みの必要性を感じており、232社(回答なし1社)の76・4%が「既に実施」「検討中」と回答。そのうち採用活動での配慮を挙げたのは49・4%に上っている。

 企業の姿勢に変化が生まれる中、丸井グループも催しを通じて新たな可能性を発見している。担当者は「決めつけがあったのはわれわれの方」と言う。「きゃしゃな男性もいるし、スポーツをしている女性もいる。LGBTの方に限らず、さまざまな顧客のニーズを気付かされている」と、ジェンダーレスの広がりも視野に入れる。

 電通が2015年に20~59歳の約7万人に実施した調査では、性的少数者は7・6%が該当。同法人によると、昨年3月卒の就活生に換算すると、当事者は3万人以上いると想定されるという。

 就職への選択肢を他者がゆがめ、自らも狭めることがあってはならない。同法人の代表理事は「セクシュアリティーにかかわらず、自分らしく働ける社会になってほしい」と願っている。

姿勢の可視化努める企業も



 就職活動で性的少数者が困難を感じることは多い。

 今回のスーツ選びの催しに参加した東京都に住むトランスジェンダーの男性(26)も、その一人。学生時代、当初は出生時の性である女性用のパンツスーツで就活に臨んだが「女性であることを強烈に認識させられてつらかった」と振り返る。

 自分自身の人間性をアピールしたいのに、その手前で阻まれてしまう。逡巡(しゅんじゅん)を経て親にトランスジェンダーであることを告げ、その後、男性用のスーツで就活を再開。就職を決めた。

 今も腰回りが気になり、上下で別々のメーカーのものを着ざるを得ず、同じ黒でも光沢などが違う。「苦痛だったスーツ選びの場がエンジョイできる場に変わった」と男性はほほ笑んだ。

 丸井グループと共同開催したReBitの代表理事は、女性として生まれ、男性として生きるトランスジェンダー。企業への就職経験もあるが、就活の際に自身のセクシュアリティーを話すと、面接官から「お帰りください」と言われたことが耳に残る。

 性的少数者への就労支援に力を入れるReBitには、就活生らから多くの相談が寄せられる。代表理事は「働いているLGBTのロールモデルや、職場、就労支援機関の理解が見えにくい」ことが不安につながっていると指摘する。

 自社の姿勢や取り組みの可視化に努める企業は出てきている。

 化粧品販売のラッシュジャパン(愛川町)は、独自の体験型会社説明会を設けているが、エントリーシートの性別欄の廃止はもちろん、個性を尊重して服装は自由だ。また性的少数者への「支援宣言」をし、同性パートナーを配偶者とみなす社内制度などに早くから取り組んでいる。

 政治家の発言などに差別の根深さがうかがえる半面で、変化の兆しも見え始めてきている。「互いに違いをいいねって気軽に言えるようになってほしい」。そう語ったトランスジェンダーの男性は、今回の催しで選んだスーツを着て転職活動に臨むという。

 ◆性的少数者 レズビアン(女性同性愛者)ゲイ(男性同性愛者)バイセクシャル(両性愛者)、生まれつきの性別に違和感を持つトランスジェンダーの頭文字を取った「LGBT」と表記されることが多い。ただ自分の性を模索しているクエスチョニングなども含めて、性は多様なことが分かっている。


店内には多様性を象徴する「レインボーフラッグ」を掲げ、性別を表す頭部がないマネキンを使う配慮も
店内には多様性を象徴する「レインボーフラッグ」を掲げ、性別を表す頭部がないマネキンを使う配慮も

パンプスなどもさまざまなサイズを用意している
パンプスなどもさまざまなサイズを用意している

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