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県立がんセンター問題(下) 前代未聞のトップ解任劇

社会 神奈川新聞  2018年02月22日 14:04

(写真左)県の調査結果に反論する土屋理事長=2日(写真右)県庁、土屋理事長の解任理由を説明する黒岩知事=5日、県庁
(写真左)県の調査結果に反論する土屋理事長=2日(写真右)県庁、土屋理事長の解任理由を説明する黒岩知事=5日、県庁

 県立がんセンター(横浜市旭区)で繰り広げられた患者不在の覇権闘争。年度途中に放射線専門医が立て続けに辞めた異常事態は、重粒子線治療が中断の危機に直面した直後のトップ解任という前代未聞の騒動へと発展した。黒岩祐治知事を支えてきた外部人材の布陣にも亀裂が生じ、県が進める医療政策に影響しかねない火種を残している。

 「事実と異なる調査結果を放置したままでは、熱意を持った医師や病院職員、県民に申し訳ない」

 2月2日午後、県庁の記者会見室。同病院を運営する県立病院機構の土屋了介理事長が、県がまとめた調査結果への不満をぶちまけた。医師が相次いで退職の意向を示した発端とされる「責任医師」の資格要件を巡る解釈、院内で不信感が広がったというパワーハラスメントに絡む対応…。

 実名こそ伏せたものの、特定の医師による数々の行為を痛烈に批判。県と病院は共謀して事実をねじ曲げているとし、「副知事2人に辞任を迫られた」とも言い放った。弁護士を横に座らせて淡々と語る節々に、怒りと覚悟がにじんだ。

 土屋氏が会見を開いたのは、4日前の出来事が理由としている。1月29日、県議会の厚生常任委員会が開かれ、医師退職問題に特化した集中審議が繰り広げられた。関係者によると、当初は土屋氏や病院関係者らを「参考人」として呼び、問題の経緯について意見聴取する段取りだった。

 だが、参考人招致は「直前になってキャンセル」(土屋氏)に。激しく対立する当事者が顔をそろえ、常任委が修羅場と化すことを懸念した県と議会が水面下で調整、「議会は裁判所ではない」として見送る方向で一致したとされる。公の場で反論する機会を失った土屋氏の不満は増すばかりで、「県に邪魔されずに主張できる」チャンスを探っていた。

 会見で県幹部や病院長、研修途中で辞めた女性医師への批判を繰り返した土屋氏だが、黒岩知事に対しては「感謝に堪えない」と、擁護する姿勢を見せていた。一連の混乱に関しては副知事らの言動を問題視し、「知事に正確な情報が届いているか危惧している」。知事自身が医師確保に奔走したことも評価し、こう語った。「できれば平常に戻って、知事とは良好な関係を続けていきたい。知事から不愉快な思いを受けたことは一度もない」

反論に反論


 だが、その知事から「絶縁状」を突き付けられる日は、遠くなかった。

 休日明けの5日。がんセンターは、朝から騒然としていた。院内のあちこちに病院関係者があぜんとする掲示物が張り出されていたのだ。

 「管理体制を一新する第1弾として、人事異動を発令しました」

 放射線治療医の退職による診療機能低下の謝罪とともに記された、大川伸一病院長を更迭する降格人事。その辞令は土屋氏が県庁で会見した日、院長室で大川氏に手渡そうとしたものだった。

 土屋氏は降格理由について、「理事長の指示に応じないことは、その職に必要な適格性を欠く」などと説明。大川氏は辞令を受け取らず、同席した事務局長も拒否。辞令は床に落ちたという。そして月曜の朝、玄関など掲示板以外を含む6カ所に更迭を伝える紙が貼り出された。

 事態が急展開したのはこの日の午後。土屋氏の「暴走」(県幹部)に業を煮やした機構の副理事長2人が、「土屋理事長の解任を求める緊急声明」を黒岩知事に提出した。大川氏をはじめ機構傘下の病院長ら6人が名を連ね、県の調査結果は妥当で、土屋氏は単独で反論し混乱を招いたなどと訴えた。

 声明の提出後に副理事長2人が会見し、病院長の更迭は「土屋氏の独断による不当な人事で、極めて不適切」と反発。理事長の人事権は認めながらも、▽不利益処分にもかかわらず内部手続きを踏んでいない▽通常はあるはずの内示がない▽辞令用紙が通常と異なる-として「効力はない」と語気を強めた。

 元県職員の佐藤清副理事長は、地方独立行政法人の運営に関する理事長権限を理解した上で「独断で行動する理事長を代えることは法的にできない。任命権がある知事による解任手続きしか道はない」と語った。

 だが、このときすでに、黒岩知事は土屋氏に「解任」を告げていたのだ。

 副理事長らが会見を開く直前、黒岩知事と土屋氏が会談。2人だけの知事室で知事は、3月末で理事長の任期が切れる土屋氏に「4月以降は新たな体制で臨まざるを得ない」とし、▽大川氏を引き続き病院長として医師確保に当たらせること▽理事長は今後、医師確保に一切関与しないこと-を要請。この2点を拒否した場合は「解任もあり得る」と付け加えた。

 これに対し、土屋氏は「知事の要請は違法で受け入れられないので、即刻解任してもらいたい」と回答。知事の「解任の手続きを進めていく」との説明を聞いて退室したという。

事件の禍根


 「知事が一般指揮監督することは法の趣旨に反する」。最後通告を受けてもなお、独立行政法人の自主性を脅かすと県の対応を疑問視する土屋氏は、知事就任前から親交を重ねていた黒岩知事が「心から尊敬する先生」として県に招いたがん治療の権威だ。国立がんセンター中央病院長を歴任し、改革派としても知られる。2014年に機構の理事長に就任した後は、病院経営の立て直しや重粒子線治療の「先進医療」継続に貢献してきた。

 だが一連の問題では当初から県の批判を繰り返し、知事の右腕として医療政策を進める元改革派官僚の首藤健治副知事も矢面に立たせた。土屋氏に同調する動きは外部の医師にも拡大。知事を頼りにしていた声は、失望へと変わっていった。

 黒岩、首藤、土屋の3氏は、国の医療政策に風穴を開けてきた盟友関係にあった。知事就任後は神奈川の医療改革も唱えてきたが、今回の「事件」で生じた亀裂が尾を引く可能性は少なくない。県内外に影響力を持つ土屋氏らは県への疑念をネットメディアなどで発信しており、知事が肝いりで進める医療・健康政策への影響は未知数だ。

 任期満了目前の解任という「非常に不本意で残念」な結末に唇をかむ知事。がんセンターでは、理事長解任が引き金となり、重責に就いていた別の医師が2月末で退職する見通しだ。土屋氏の解任に向けた聴聞は、22日に開かれる。


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