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時代の正体〈579〉大事な学び舎残して 北綱島支援校再編問題(上)

時代の正体 神奈川新聞  2018年02月18日 02:00

吉崎一浩君に寄り添う母の百合子さん=1月12日、横浜市立北綱島特別支援学校
吉崎一浩君に寄り添う母の百合子さん=1月12日、横浜市立北綱島特別支援学校

時代の正体取材班=成田 洋樹】たんの吸引や胃ろうなどの医療的ケアが必要な重度重複障害の子どもたちが多く通う横浜市立北綱島特別支援学校(同市港北区)。その行方に保護者が不安を募らせている。突然の閉校計画が明らかになったのは2年半ほど前。その後、市教育委員会は方針転換を重ね、別の支援学校の「分校」として存続させる案が19日、市会常任委員会で諮られようとしている。場当たり的、結論ありきに映る対応に保護者の不信感は増す。「地域の大事な学び舎(や)をいまのまま残して」。その訴えは何を問い掛けているのか。

転居も脳裏に


 「おはよう」

 「きょうは笑顔だね」

 午前9時半ごろ、スクールバス5台が次々と到着し、出迎えた教職員らに声を掛けられながら、車いすに乗った子どもたちがスロープをつたって校舎に入っていく。

 同じころ、吉崎百合子さん(45)は隣接する市立北綱島小学校の駐車スペースに車を止めた。福祉用車両の後部ドアを開け、車いすに乗った長男一浩君(9)を教員に引き渡した。

 小学部3年に在籍する一浩君は「異染性白質ジストロフィー」という進行性の難病を抱えている。最重度の重複障害があり、たんの吸引や胃の穴から栄養剤を注入する胃ろうといった医療的ケアが欠かせない。

 吉崎さんは、都筑区の自宅から20分ほどかけて送り迎えをしている。途中でコンビニの駐車場に止めて、たんの吸引をすることもある。運転には細心の注意を払っているが、バッグには眠気覚ましの辛口ガムを忍ばせている。計5時間ほどの睡眠はいつも細切れだからだ。夜中に何度も起きてはたんの吸引をし、床ずれを防ぐために体位を変えている。

 昨年秋までは約45分かかるスクールバスで通わせていたが、呼吸が不安定になって救急搬送されたために車で送迎せざるを得なくなっている。バスに乗る介助員は医療的ケアができないからだ。

 閉校計画が明らかになった2015年9月、一浩君は1年生だった。保護者に事前の説明はなく、3年半後の19年度に別の支援学校に転校するよう迫られた。

 「自宅から通える範囲に支援学校はない。どこか別の支援学校の近くに引っ越さざるを得ないかもしれない」

 一浩君には四つ上の中学1年生の姉(13)がいる。引っ越し、きょうだいそろっての転校…。一家の生活設計が狂いかねなかった。

 「健常児はみな、家の近くの小中学校に通う。それが、なぜ障害児だと認められないのか」

 吉崎さんはPTA内につくられた特別委員会「これからの北綱島を考える会」の代表に就き、保護者の中心になって市教委に閉校撤回を求める活動を始めた。


中学部3年の福田麗香さん(15)の手を握る母の美智代さん(51)。緑内障を患っており、両目の視野が一部欠けている。美智代さんの体調を案じた両親が九州から自宅近くに転居し、麗香さんの日々の車での登下校を支えている=2月9日、横浜市立北綱島特別支援学校
中学部3年の福田麗香さん(15)の手を握る母の美智代さん(51)。緑内障を患っており、両目の視野が一部欠けている。美智代さんの体調を案じた両親が九州から自宅近くに転居し、麗香さんの日々の車での登下校を支えている=2月9日、横浜市立北綱島特別支援学校

小さなサイン


 言葉を発することが難しい一浩君の意思をくみ取るのは容易ではない。だが、担任から「お母さんは小さなサインを見落としている」と諭されたことがある。吉崎さんにとってみれば体の緊張による表情の変化にしか思えない場合でも、担任は一浩君の視線や手の動かし方、口元の様子をつぶさに見ていた。

 「クラス対抗のボウリングゲームで負けて、ため息をついていましたよ。練習ではうまくいって得意げな顔をしていました」「『花いちもんめ』で最後は一人になってしまい、悲しそうな顔をしていました」

 自宅から外の世界に出て先生や友達に出会い、時間をかけて関係性を育んできた。その困難さと尊さを知るからこそ、在校生の転校を伴う閉校計画をまとめた市教委に厳しい視線を向ける。

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