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署名活動リーダー林田光弘さん
時代の正体〈577〉ヒバクシャ明記の意義 核兵器禁止条約(上)

時代の正体 神奈川新聞  2018年02月15日 17:24

2017年に発効した核兵器禁止条約。その前文に明記された「ヒバクシャ」の文字、その意義について語る林田光弘さん
2017年に発効した核兵器禁止条約。その前文に明記された「ヒバクシャ」の文字、その意義について語る林田光弘さん

【時代の正体取材班=田崎 基】唯一の被爆国から「ヒバクシャ」という言葉を発信する国際的な署名活動のリーダーになってから2年ほどたつ。「あのとき『核兵器禁止条約』が2017年に採択されるなんて想像すらしていなかった」。長崎市出身の被爆3世で大学院生の林田光弘さん(25)=横浜市戸塚区=は、国際非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のノーベル平和賞受賞につながった署名活動から「核なき世界」への展望を語る。連載(下)はこちら

党派を超え


 日本の主要な平和・反核団体が主導して2016年4月からスタートした「ヒバクシャ国際署名」。国内44団体が肩を並べ、このうち「ピースボート」などはICANにも加盟している。署名活動とICANは連携を密にしてきた。17年7月に「核兵器禁止条約」が採択。前文に「ヒバクシャ」が明記され、核廃絶を願う被爆者の声が結実した。ICANは条約採択に貢献したとしてノーベル平和賞を受賞した。

 署名活動にはこれまで手をつなぐことがなかった数多くの国内団体が党派を超えて賛同の声を上げた。「原水爆禁止日本国民会議」(原水禁)や「原水爆禁止日本協議会」(原水協)のほか、「全国地域婦人団体連絡協議会」「新日本婦人の会」「全国労働組合総連合(連合)」などが名を連ねた。さらに「創価学会平和委員会」「世界宗教者平和会議日本委員会」といった宗教関係団体に加え、「日本生活協同組合連合会」(日本生協連)も加わり、かつてない取り組みへと発展している。

 一方、ICANは8年ほど前から核兵器禁止条約を採択するよう各国に働き掛けてきた。この間、署名活動に賛同する国内外の各団体も連携を進めてきた。

 私はキャンペーンリーダーとして各団体との連絡調整、イベントの企画、広報、署名の管理など、活動のほぼ全てを一手に引き受けてきた。


被団協結成60周年記念祝賀会に参加する署名活動賛同者らと林田さん(左から5人目)=2016年8月8日夜、長崎市内
被団協結成60周年記念祝賀会に参加する署名活動賛同者らと林田さん(左から5人目)=2016年8月8日夜、長崎市内

署名が結実


 事態が動きだすのを感じたのは16年10月のこと。核兵器禁止条約の採択に向けて各国間で国際会議を開こうという話になった。

 20年ごろの採択を目指して活動していただけに、想像以上に早く実を結ぶかもしれないと胸が高鳴った。

 禁止条約の交渉会議が開催された17年3月と6月には、条約会議のエレン・ホワイト議長に署名活動について報告書を提出する機会を得た。

 議長は署名活動について「非人道的な兵器だからこそ早急に禁止条約を作らなければいけない、というエネルギーになった」と評価していた。

 この6月の交渉会議では議長が条約の文案を提案、その前文には「ヒバクシャ」の文字が明記されていた。


はやしだ・みつひろ 「ヒバクシャ国際署名」連絡会キャンペーンリーダー。2009年に「高校生平和大使」として活動した。15年、安全保障法制反対を訴えた学生団体「SEALDs(シールズ)」の創設メンバー。
はやしだ・みつひろ 「ヒバクシャ国際署名」連絡会キャンペーンリーダー。2009年に「高校生平和大使」として活動した。15年、安全保障法制反対を訴えた学生団体「SEALDs(シールズ)」の創設メンバー。

 核兵器を禁ずる条約にヒバクシャという文言が刻まれるのは核の非人道性を際立たせる意味で極めて意義深い。

 その文案はそのまま現実になった。

 禁止条約を作るに当たり「唯一の被爆国」として被爆者の願いがこの条約に反映されるために、署名活動が果たした役割は大きかった。

 条約の前文にはこうある。
 「核兵器の使用による被害者(ヒバクシャ)ならびに核兵器の実験によって影響を受けた人々に引き起こされる受け入れがたい苦痛と危害に留意」すること。


 条約全体を貫く論理は、それぞれの国が核兵器を「使う」「持つ」「渡す」ことを禁じる前提として「被爆者の経験を鑑みたら、持つことさえも非人道的だ」というものだった。

 条約採択に尽力した各国には共通の思いがあったと受け止めている。被爆者の声を条約に反映させなければならない、と。その流れをつくったのは500万筆を超える国際的な署名活動であり、交渉会議や採択の場で議論の行方を注視していた被爆者たちだ。

 ではなぜ、賛同した各国は被爆者の耐え難い苦難に向き合おうとしたのか。それはいままさに核兵器が再び使われるかもしれないという危機感を共有していたからだ。

人生を破壊


 「核兵器が非人道的である」ということは、誰の目から見ても明らかだ。あれほどの爆発力、破壊力、非人道性を持つ兵器というのは他にない。その事実は冷戦期と全く変わらない。

 だが、何が、どう非人道的なのか。大量破壊兵器として数多くの人を一気に殺すことができる兵器は、それだけで非人道的だと言えるだろう。

 だがそれだけでは人々が具体的に差し迫った脅威として核のことを思い描くことは難しい。

 しかし被爆者の実体験を聞いたらどうか。その残忍さ、非人道性が克明に浮かび上がってくる。

 被爆者たちが身をもって示してきたのは、当事者のみならず、当事者の家族や親族の人生をもめちゃくちゃにされてきたということだ。

 2010年に他界した私の祖父は当時16歳だった。生前は多くを語らなかったが、亡くなる間際に体験を聞くことができた。

 爆心地から1.5キロ圏内にいた祖父は建物の影にいたからか、外傷は免れたという。街では頬(ほほ)の肉を失った人や、亡くなった赤子を背負った人を目撃。「原爆はいけない」。その思いを託された。


長崎市出身、被爆3世として思いを受け「ヒバクシャ国際署名」を率いる林田光弘さん
長崎市出身、被爆3世として思いを受け「ヒバクシャ国際署名」を率いる林田光弘さん

 被爆3世として、これまで多くの被爆者から聞き取りをしてきた。語られたのは、人生そのものが壊されるという

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