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泣いてストレス解消 現代社会、広がる共感 「涙活(るいかつ)」とは? 

社会 神奈川新聞  2016年10月08日 10:24

「涙活」イベントでは、動画を観ながら涙をぬぐう参加者もいた=横浜市立日吉台小学校
「涙活」イベントでは、動画を観ながら涙をぬぐう参加者もいた=横浜市立日吉台小学校

 「涙活(るいかつ)」なる活動が、静かなブームとなっている。能動的に泣くことで、ストレスや疲れを解消する、というもの。「感涙療法士」の肩書で普及に努める吉田英史さんは、生きづらく、ストレスの多い現代社会だからこそ、涙を流す場を求めている人は多いはずと強調。「少しでも多くの人に知ってもらうことが、自らの社会的使命だ」と意気込む。

 「皆さんは最近、どんなことで泣きましたか?」

 今月3日、横浜市港北区の市立日吉台小学校。PTA主催の涙活イベントには40人の母親が集まった。

 講師を務める吉田さんの質問に対し、参加者からは「息子とけんかして、悔しくて泣いた」「ドラマを見て泣いた」などさまざまな答えが寄せられた。「映画やドラマ、小説といったものに感動して流す涙は(心身に)非常に良いんですよ」と吉田さん。

 会場ではまず、約40分にわたり、10本ほどの動画が上映された。子どもが1歳児健診を迎え、初めての育児に不安を感じながら1年間、手探りを続けてきた妻へ、夫から感謝のメッセージを伝えるものなど、「家族」をテーマにしたものが中心。上映中、ハンカチで涙をぬぐう参加者もいた。

 中には、少数ながら「泣けなかった」という人も。吉田さんは「泣けるツボは人それぞれ。自分の泣ける分野を見つけて」「周りに人がいて泣けない人は、家で1人で泣くのがお勧め。アロマをたくのも有効」と伝えた。
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 涙には、どんな効用やメカニズムがあるのか。

 吉田さんによると、人がストレスを感じる時は自律神経の一つ、交感神経が活発になる。交感神経は仕事や勉強、家事、スポーツなど、主に昼間の活動中に働き、その間、体はいわば“戦闘モード”となり、緊張状態にある。

 緊張をほぐすのに必要となるのが、副交感神経を活発化させること。最も簡単な方法は睡眠という。

 しかし、睡眠不足が続く人や、なかなか深い眠りにつけない人は、交感神経が活発な状態が続くため、ストレスがたまる↓眠れない↓さらにストレスがたまるといった具合に、悪循環に陥る。

 これに対し、眠らなくても副交感神経を活発化させる方法が涙を流すこと。「思う存分、泣いたらすっきりした」という経験をした人も多いのではないだろうか。これは「涙を流すことによって緊張やストレスを促す交感神経から、脳がリラックスした状態である副交感神経が優位な状態へとスイッチが切り替わるから」と吉田さんは説明する。

 涙の種類は三つに区分される。目にごみが入ったり、タマネギを切ったりした時に出る「反射の涙」、眼球を保護するための「基礎分泌の涙」、そして、悲しい時や感動した時に流す「情動の涙」だ。この情動の涙こそが、ストレス解消に効果的という。
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 日吉台小のイベントでは参加者が涙の形をした紙に「泣き言」を記載。吉田さんが用意した「涙千箱(るいせんばこ)」に入れた。心の中にたまっているものを吐き出し、言葉にすることで、今の自分の状況を見つめ直すのが狙いだ。

 「眠りが浅い」「髪が抜けやすい」「人前で話すと緊張してしまう」…。匿名で記された「涙レター」には母親たちの悩みがつづられ、吉田さんは「相当ストレスがたまっているようなので、夜寝る前にぜひ泣いてください」「泣くことでリラックスするはず」などとアドバイスした。全員の前で読み上げることで自分以外にも同じような悩みを持つ人がいると知ることも、癒やしにつながるという。

 続く「涙友(るいとも)タイム」では、ともに涙を流した者同士、交流を深めた。終了後、参加した50代の女性は「自分が涙もろいのを気にしていたが、大いに泣いていいと分かってよかった」と笑顔を見せた。
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 鎌倉市出身で、元高校教員の吉田さん。生徒たちから数多くの相談を受ける中で、あることに気付いた。相談の最中、泣いていた生徒が話の終わる頃には驚くほどケロッとしている。涙には、特別な力があるのではないか、と。

 長年の友人で、現在は離婚式プランナーとしても活動する寺井広樹さんと一緒に涙について研究。寺井さんが提唱者となり、2013年1月、涙活をスタートさせた。当初は東京でのみイベントを開催していたが、次第に反響が広がり、社会的意義があると確信した。

 翌年には、東邦大学医学部の有田秀穂名誉教授と3人で「全米感涙協会」を設立。涙活の普及を目的に、感涙療法士の資格を創設した。「全米」とあるが、映画で使われる「全米が涙した、感動の作品」といった表現に由来する。現在、約80人が資格を取得。医療系の職種からヨガのインストラクター、会社経営者まで、多彩な顔ぶれという。

 吉田さんは学校や医療・福祉の現場など各地で講演活動を展開。「なみだ先生」の愛称で親しまれるが、涙活は必ずしも喜ばれる時ばかりではない。

 東日本大震災発生後、被災地から依頼があった。つらく苦しい経験をした被災者に作り物の動画を見せるのは失礼ではないかと考え、いったんは断った。それでも主催者側から「ぜひに」と要請され、現地へ行ったところ「泣いてすっきりした」と言う人、「この程度のことでは泣けない」と言う人…。反応は真っ二つに分かれた。

 吉田さんは力を込める。「ストレス解消につながったと喜んでくれる人がいる限り、涙活を続けることが自分のミッション」

 今、涙活に一つの可能性を見いだしている。地域活性化だ。公民館に呼ばれて講演する機会も多いが、涙活が、地域の老若男女が集い、交流するきっかけになり得るのではないか、と感じている。

 当面の目標は、感涙療法士の育成・サポートに注力し、涙活のさらなる周知を図ること。将来は、海外での普及も見据えている。


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