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時代の正体〈569〉朝鮮学校認めよ、若者の叫びは問う

時代の正体 神奈川新聞  2018年01月28日 03:59

文科省前で高校無償化制度の適用を訴える朝大生ら=19日、東京都千代田区
文科省前で高校無償化制度の適用を訴える朝大生ら=19日、東京都千代田区

【時代の正体取材班=石橋 学】文部科学省前で今年も怒声が響いた。高校無償化制度から唯一除外されている朝鮮学校への制度適用を求め、朝鮮大学校の学生らが繰り返している「金曜行動」である。若者たちの叫びは何を求めているのか。差別と偏見という寒風が吹きすさぶいまこそ耳を傾けたい。

 午後4時。100人ほどの朝大生に在日コリアンや日本人の支援者らを加えた約150人が列をなし、正門玄関に向き合う。

 7人がかりで「朝鮮学校差別反対! 高校無償化適用!」と書かれた横断幕を掲げる。一人また一人と進み出て、拡声器で思いの丈をぶつける。そして拳を突き上げてのシュプレヒコール。

 「日本政府は朝鮮学校に通う学生たちの教育権を侵害するな!」「侵害するな!」

 「文科省はすべての子どもたちに学ぶ権利を保障せよ!」「保障せよ!」

 野太い叫びは勇ましく響く。でも、痛ましいではないか。

 マイクを手にしたスピーチはどれも「文科省の皆さん、私たちはきょうもまたやって来ました」という喜べない「あいさつ」で始まり、「私たちは朝鮮学校への差別政策が是正されるまでここに立ち続けるでしょう」という次回予告で結ばれるのだ。

 後輩たちをこれ以上悲しませたくないと2013年5月に始まった金曜行動。今年最初となった19日は、学生が休みの期間に支援者たちが続けた「勝手に金曜行動」と合わせて200回目に当たった。毎週金曜、東京・小平市のキャンパスから要する往復の時間に交通費、そして回を重ねるごとに刻まれる徒労感を思う。

 学生の1人は言った。

 「無償化制度から除外されたのは8年前、僕が小学校卒業を控えていた時でした」

 スピーチとシュプレヒコールの合間、「どれだけ叫べばいいのだろう」という歌い出しのテーマソング「声よ集まれ、歌となれ」は唱和するたび、文科省庁舎の分厚い壁に跳ね返り、痛切にこだまするのだった。

 

差別助長


文科省を出入りする公務員らを前に無償化を訴える朝大生ら
文科省を出入りする公務員らを前に無償化を訴える朝大生ら

 民主党政権が「全ての意志ある高校生が安心して勉学に打ち込める社会をつくる」とうたった無償化制度は外国人学校も対象にしている点で画期的だった。

 だが、拉致問題に進展がないという理由で10年4月の制度開始当初から朝鮮学校への適用は留保されてしまう。そして12年12月、政権に返り咲いた安倍晋三首相の第2次政権が真っ先に行ったのが朝鮮学校の無償化除外だった。

 朝鮮学校に限って政治と教育を結び付けることがまかり通るという「たが」の外れぶりは司法にも及ぶ。大阪地裁こそ政府の措置を違法と断じたが、広島、東京両地裁は行政による差別を追認してみせた。

 女子学生の訴えが辛辣(しんらつ)だ。

 「この国が言う『全ての高校生たち』に朝鮮学校に通う生徒は含まれていないのでしょうか。日本では『朝鮮』とつくものには三権分立も機能しないのでしょうか」

 男子学生は心底案じてみせた。

 「僕はサッカーを通じて多くの日本人と友達になり、理解と協力を得ている。大人のあなた方は平気で差別をする。恥ずかしくないですか。日本は20年に東京五輪を迎えます。開催国が差別のある国でいいのでしょうか。差別をしているという事実を理解しているでしょうか」

 街中に、インターネット上に吹き荒れる在日コリアンへの「死ね」「殺せ」のヘイトスピーチは一部の愚かな人たちによる「人ごと」ではないはずだ、という問いも突きつけた。

 「私たちがどう見えていますか。同じ人間に見えるでしょうか。差別するのは同じ人間に見えていないからじゃないですか」

 「朝鮮学校に対する差別には日本政府による差別政策と日本社会による差別行為があります。政府の差別政策が社会の差別行為を扇動、助長しています」

 政府の「お墨付き」を得て、神奈川県をはじめ自治体による補助金停止の動きも広がる。

 朝鮮学校の否定は民族としての「死」を宣告しているに等しい。朝鮮学校の歴史は終戦直後、日本の植民地支配によって奪われた言葉、文化、歴史を取り戻そうと在日1世が自力で設立した国語講習所に始まる。

 4世世代の若者たちの叫びはこの国に根を張った、植民地主義の克服なき歴史認識にも向かう。

 「差別ができるのも歴史から目を背け、なぜ朝鮮人が存在しているかに無知だからではないですか。私たち朝鮮人が日本で民族教育を営む権利は、歴史的事実からむしろ進んで保障しなければならないのではないですか」

 そして8人目の学生が最後の訴えを始めた。

 「文科省の皆さん、学生の本分は何でしょう。勉学です。私はいまこの瞬間も学んでいます。なぜ、日本政府は門を固く閉じたままなのか。なぜ、道行く方々は未来ある世代の無念の叫びを無視して通り過ぎてしまうのか。ここを訪れるたびに考えています。その重い扉を開けて、誰か教えていただけませんか」

 呼び掛ける調子はこう続いた。

 「私は高校無償化を適用すること以上に、文科省で働く方々の倫理観や道徳に基づく変化を求めています。互いに理解し合うことが正しいはずの世の中で、誰かが誰かを嫌悪し、排他することで争いが生まれ、互いに苦しむ。そんな矛盾をもうやめにしませんか」

 「矛盾が矛盾を呼び、矛盾を守るために人はもっと苦しくなる。そんなことよりも世界の平和や発展といったロマンと希望に満ちあふれた話し合いをしましょう。そんな日が来るまで私はここで叫び続けます」

分断の影


朝鮮学校への「差別反対」を訴える横断幕を掲げる朝大生ら
朝鮮学校への「差別反対」を訴える横断幕を掲げる朝大生ら

 日も傾いた文科省前、帰りがけの男子学生に声を掛けた。外国語学部2年の20歳。聞けば横浜市出身、神奈川朝鮮中高級学校の卒業生で、高校に当たる高級部3年の弟と1年の妹がいる。

 -呼び掛けるような訴えはどんな思いからでしたか。

 「難しい現実がある中、でも人間には情があるはずだ、と。情で行政判断などできないと言われたらそれまでですが。でも、例えば子どもがいるなら親としてどう思うか。そうした気持ちに語り掛けるのも大切なのかな、と思って」

 理屈が通じないのだから、情に訴えるしかないという不条理の裏返し。「それに」と続けた。

 「差別がなければ、本当にやりたいことに時間を費やせる。私は世界の平和に貢献したいのです」

 そういえば、この日は韓国で朝鮮学校支援を続けるNPO「モンダンヨンピル(ちびた鉛筆)」のメンバーが駆け付け、激励のために「平和」を語っていた。

 「平昌五輪に北朝鮮選手団が参加することになり、平和の場を共につくることになります。今後、そういう機会が多くなると思います。朝鮮学校出身の方々にも応援に来てもらえるとうれしい。行く道はまだ遠いけれど、統一の時代の主人公になるよう頑張って活動してください」

 -どう聞きましたか。

 「とても勇気づけられました。

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