1. ホーム
  2. 社会
  3. 自殺防ぐ担い手増を 繰り返させるな座間事件

民間力に限界、支援職育てて NPO法人代表理事・伊藤次郎さん
自殺防ぐ担い手増を 繰り返させるな座間事件

社会 神奈川新聞  2018年01月18日 11:06

相談員と打ち合わせをするOVAの伊藤さん(奥)=東京都新宿区
相談員と打ち合わせをするOVAの伊藤さん(奥)=東京都新宿区

相談員と打ち合わせをするOVAの伊藤さん(奥)=東京都新宿区
相談員と打ち合わせをするOVAの伊藤さん(奥)=東京都新宿区

 座間市のアパートから男女9人の切断遺体が見つかった事件では、容疑者は会員制交流サイト(SNS)を通じて被害者と接点を持ったとみられている。SNS上に自殺願望を書き込む若者の苦悩に、どう向き合えばいいか。横浜市金沢区育ちで、インターネットを活用した自殺予防に取り組むNPO法人「OVA(オーヴァ)」(東京都新宿区)代表理事の伊藤次郎さん(32)は「自殺を防ぐための担い手を増やす仕組みづくりを」と強調する。

 座間の事件では、容疑者がツイッターに自殺願望を書き込んだ女性らと「一緒に死のう」などとやりとりを重ね、自宅に誘い込んで殺害した疑いが持たれている。政府は2017年12月、自殺を誘因するといった有害な投稿を監視する態勢の強化など、再発防止策を決定した。

 -事件を受け、対策が進んでいます。

 「受け皿が十分でない現状では、自殺願望を持つ人がツイッターに書き込むのは当然だと思います。自殺教唆やほう助など、犯罪的な書き込みは規制されるべきですが、『死にたい』という気持ちの裏にあるSOSを求める書き込みまで規制してしまえば、ただでさえ受け皿がないのに、気持ちを吐き出す先がなくなってしまいます」

 「若者のニーズや文化に合わせた支援が重要です。電話相談の窓口は現在もありますが、若い人たちは電話に慣れていないので、電話での相談は負担が大きい。また、10代はメールより(無料通信アプリの)ラインのようなチャット形式のやりとりが基本です。世代によって異なるコミュニケーションの文化に対応する必要があります」

 伊藤さんが代表を務めるOVAは、悩みを抱える若者に対し、米IT大手グーグルの「検索連動型広告」というインターネット広告の仕組みを活用してアプローチするのが特徴だ。「死にたい」など自殺に関連した用語をグーグルで検索すると、パソコンの画面にOVAを紹介する広告が表示される。広告をクリックすれば相談を呼び掛けるOVAのサイトが表示され、相談者は紹介されているアドレスにメールを送り、支援者とやりとりを重ねる。

 -メールで相談に応じるのは珍しいですね。

 「相談者の約8割は30代以下の若者です。自分の抱えている問題を整理できずに、文章が何も入力されていない『空メール』を送ってくる人もいますが、空メールでもいいから敷居を下げることが大切。インターネットを活用して相談の敷居を下げ、メールでコミュニケーションを重ねた後に精神科や生活困窮者の窓口といったリアルの専門機関につなぐことが重要だと感じています」

 -活動を始めたきっかけは。

 「13年に、若者だけ自殺が減らないというニュースがあったんです。調べてみると、グーグルで『死にたい』という検索数がわずか1カ月間で13万件くらいあった。精神保健福祉士として精神科のクリニックに勤めた経験がありましたが、可視化された数字の多さに驚きました」

 「クリニックで働いていたとき、初診の人には死にたいですかと必ず尋ねましたが、『今は違います』と答える人がほとんどでした。対面では打ち明けづらいから、インターネット上に行き場のない思いを打ち込んだのでしょうね。グーグルの検索連動型広告という仕組みを使えば、そういう人たちとつながれるかもしれない。それに気づき、13年の7月に活動を始めました」

 活動開始後の4年間で、相談に対応したのは約600人。臨床心理士や精神保健福祉士らが相談に応じ、このうち約3割が専門機関とつながるなど状況の改善が見られたという。

 -活動の課題は何ですか。

 「私たちが出会えたのは、『死にたい』という気持ちを抱えた人のごくごく一部に過ぎません。相談員は私を含めて4人しかおらず、残念ながら人手が足りない。本年度は広告が表示される地域を、東京23区で自殺率が高い新宿区内と行政から補助金を受ける埼玉県内に限定せざるを得ない状況です」

 「予算面も課題です。当然ですが、自殺を考えるほど追い込まれている人から相談料はもらえません。私は全財産をなげうって活動を始め、日本財団の助成を得たことで、17年から少ないながらようやく自分に月給を払えるようになりました」

 -人材と予算不足は、社会全体の課題でしょうか。

 「SNS上での投稿や検索連動型広告のように、インターネットの発達によって自殺リスクの高い人の特定や、その人たちへのアプローチは従来よりもできるようになった。座間の事件では、残念ながらそこに『悪意の手』が伸びてしまった。本来は支えの手が伸びなければいけないのに。私も痛恨の思いです。では、それを誰が担うのか。現場レベルでは担い手が圧倒的にいません。専門的な訓練を受けていても、精神的な負担など支える難しさがあるのに、今は善意の市民によるボランティアが頼りです」

 「担い手が増えないのは当然です。まずは専門的な支援職を育成する仕組みがない。また、職業化されておらず待遇面での課題がある上、精神的な負担を含め相談員をサポートする仕組みもありません。犯罪に巻き込まれれば警察官、事故でけがを負ったら救急隊が対応するのに、自殺防止の相談に応じるのはボランティアというのが現状です。(一定の事件を起こした精神障害者の社会復帰を促進する)医療観察制度では、社会復帰調整官という専門職を設けています。自殺予防も国が公務員的な地位で職業化するような仕組みをつくらないと、担い手は増えないと思います。OVAのノウハウを、国や行政が生かしてくれたらうれしい。民間だけではとても担いきれませんから」

 いとう・じろう 1985年、東京都生まれ。横浜市金沢区で育つ。精神保健福祉士。人事コンサルティング会社や精神科クリニック勤務を経て、2013年にインターネットを活用した自殺予防活動を始め、14年に「OVA」を設立した。


シェアする