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記者の視点=デジタル編集委員・石橋学
時代の正体〈568〉平昌と平和(下)負の歴史から目を背け

時代の正体 神奈川新聞  2018年01月15日 12:00

分断された南北が対峙(たいじ)する最前線、板門店=2017年12月16日
分断された南北が対峙(たいじ)する最前線、板門店=2017年12月16日

時代の正体取材班=石橋 学】臨津江(イムジンガン)はとうとうと流れ、くすんだ空を水鳥の群れが悠々と渡る。

 南北を分かつ北緯38度、軍事境界線の向こうに北朝鮮を臨む展望台に立つ。分断の現実が目の前に広がる。

 平昌冬季五輪が開催される江原道(カンウォンド)は軍事境界線に接する。北朝鮮にも同じ江原道という行政区がある。つまり、朝鮮戦争が休戦状態のまま分割されている行政区で五輪は開かれる。「平和の祭典」はだから特別な響きを持つ。

 ソウルからバスで高速道路を走って約1時間、南北の軍事衝突を避けるために設けられた非武装地帯を巡るツアーに私は参加した。

離散の悲しみ


 憲兵にパスポートと服装をチェックされること2度、署名を求められた宣言書には「敵の行動によっては危害を受け、死亡する可能性がある」と記されている。向かうは韓国、国連軍と北朝鮮、中国軍が共同で警備する板門店(パンムンジョム)。亡命を図った北朝鮮兵士が味方から銃撃された事件は1カ月前に起きたばかりだ。

 だが、張り詰めた空気ばかりを感じるわけではない。

 ここに漂うのは憎しみではなく、悲しみ-。

 そう知ったのはガイドのチャン・ヨンソクさんの語りによってだった。車中、チャンさんは歴史から語り起こした。

 はじめに日本の植民地支配があった。その敗戦によって朝鮮半島は解放をみるも、日本軍の武装解除を名目に北はソ連、南は米国によって分割統治された。そして50年6月、ソ連の支援を受けた北朝鮮軍の南進により朝鮮戦争が始まる。「同じ民族が別れたのは、冷戦時代、イデオロギーの違う列強国の対立の結果なのです」

 米国を中心とした国連軍が韓国側に立って参戦、中国も北朝鮮に援軍を送り戦況は泥沼化。南北両国の犠牲者は200万人以上を数え、53年7月、板門店で休戦協定が結ばれた。「戦争を経験していない世代では統一されないほうがいいという人が多い。貧しい北朝鮮と一緒になれば、経済的に大変になるというのが理由です」

 終始穏やかな語り口は「でも」と続く。

 「南北を行き来できなくなった離散家族は1千万人以上。家族に手紙も送れない。生きているかどうかも分からない。社会主義と資本主義という異なるイデオロギーの問題以前として一日も早く統一されないといけないと思います」

 静かな悲嘆は言葉の端々ににじんだ。東西ドイツ統一後、唯一残された分断国家であること、両国とも徴兵制があり、韓国では若者たちが、北朝鮮では女性までも兵役を課せられていること。「道路脇にあるコンクリート壁にはダイナマイトが入っています。いざというときに爆破し、戦車の進路をふさぐためです」

 同じ民族同士、一つの故郷でなぜ、このようなことをしなければならないのか、という響き。

 「北朝鮮ではお金が武器や核開発に使われ、食糧難にあります。世界各国の経済支援は打ち切られたが、子どもまでが苦しんでいるのを放っておけない。ちゃんと届くかは分からなくても、1%でも役立てばと文在寅(ムンジェイン)政権は人道支援をすると表明しています」

 こうも言った。「私は北朝鮮を少し悪く説明しましたが、北朝鮮のツアーに参加したことがある人によると、あちらのガイドは韓国を全く悪く言っていないそうです。韓国は被害者で、米国という加害者にだまされている、と」

未来を開く扉


 「悪い言い方をすれば、怖いもの見たさです」。ソウルへ戻るバスの中、隣に座った金田大輝さん(23)は声を掛けた私にそう打ち明けた。社会人1年目、最初のボーナスの使い道にこのツアーを選んだのは「情勢が緊迫しているからこそ、見られるうちに見ておこう」という興味本位からだった。

 「まさに百聞は一見にしかず、でした」

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