戦災孤児や原爆など「戦争の昭和」をテーマに撮影を続ける写真家・江成常夫さん(相模原市)が9日、大磯町大磯のエリザベス・サンダース・ホームで講演した。高度経済成長に沸いた戦後日本に「戦争の過ちを長らく曖昧にしてきた。多くの犠牲を生んだ時代を軽視し続けてきた」と疑問を向けた。
「写真と社会 写真の力と写真の今」と題して講演した江成さんは、新聞社を経てフリーカメラマンとして太平洋戦争の負の遺産に焦点を当て続けてきた。
きっかけは退社後に渡米し出会った「戦争花嫁」と呼ばれた日本人女性たちだった。駐留米兵と結婚し渡米したが「今では国際結婚の先駆け。しかし当時は日本人からは罵倒され、米国人からは敵国の人間として冷遇された」。苦難を強いられながらも、母国に思いをはせる女性たちを100人以上、人づてに訪ね歩いた。
日中国交正常化後は、終戦時に中国東北部に取り残された日本人孤児を撮影。現地の中国人に育てられながらも「日本鬼子」とさげすまれ、日本人からは忘れられた存在にレンズを向けた。「スナップショットではなく、あえて視線を合わせて写真を撮った。その視線から、その人が歩んできた悲しみや、戦争悪を見た人に感じ取ってほしい」と訴えた。講演会は地域住民に学びの場を提供する「大磯コミュニティ・カレッジ」の一環で、約20人が参加した。