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刻む2017〈17〉市民置き去りの協議 小田原、南足柄合併「破談」

社会 神奈川新聞  2017年12月28日 10:20

小田原市主催の市民説明会は小規模な会場でも空席が目立ち、市民の関心は高まらなかった=9月11日夜、梅の里センター
小田原市主催の市民説明会は小規模な会場でも空席が目立ち、市民の関心は高まらなかった=9月11日夜、梅の里センター

 市民を置き去りにしていないか。「行政主導」で進められてはいないか。県西地域の中心市のあり方を議論してきた小田原、南足柄2市の動向を追う中で、その疑問はついぞ頭から離れなかった。

 任意協議会設置から1年2カ月で、「破談」に終わった合併協議。歳出が増える一方、歳入が先細る将来を見据え、安定的な行政サービスの提供を可能にする方策を2市は見いだそうとしてきた。

 3270の事務事業を調整した事務方の労力の半面、市民を巻き込み、全てを共有した上で、進むべき道を共に考えようとする姿勢や覚悟に欠けていたように映る。

採決をとらず


 象徴的な場面がある。ことし1月24日に開かれた任意協3回目の会合だ。

 両市長は南足柄市域を小田原市へ編入する「編入合併」を提案した。合併で誕生する新市の姿をシミュレーションするためのという前提条件は付くものの、この方式は南足柄市が“吸収”されるイメージが強い。

 当然、南足柄市側の委員から異論が相次ぐだろうとペンを握り直した。

 しかし、話し合いは静かに進んだ。自治会代表が反対の口火を切るも、後が続かない。ある市議は事前に議会で一本化していた「新設合併」を主張したが、「協議会の決定には従う」と付け加えた。別の市議も仮の想定であることを念押しするだけだった。

 「そういった(提案の)方向で、まとめさせていただいてよろしいでしょうか」。最後は小田原市長のこの一言で、「編入合併」が承認された。

 合併方式は「特に重要で他の協議項目にも大きく影響が及ぶもの」と小田原市長が言うように、市民が最も気に掛けるテーマだ。

 それにもかかわらず、両市民を代表して選ばれた委員でつくる任意協の場で、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論にならず、南足柄市側から採決をとるよう異を唱える委員もいなかった。

 少なからぬ驚きと違和感を覚えると同時に、ノートには任意協の経過を記した数行の後、「粛々と決まる」と書き留めた。

思惑見え隠れ


 行政主導を感じさせる要因は他にもある。

 任意協は、合併後10年間の累積で約150億円の財政効果が見込まれることなどを取りまとめた。

 だが、それはあくまで「新市の財政計画」で、市民が知りたい新市の具体的な姿とは乖離(かいり)していた。その答えとなるはずの「新市まちづくり計画」も、具体像にまで踏み込めていなかった。

 市民にとって身近で、新市をイメージしやすくする「公共施設の統廃合」の議論も、十分な時間を確保できないとの理由で先送りされた。そこにも、行政の都合が見え隠れする。

 両市長は昨年2月、任意協の設置期間を昨年10月から約1年間と発表。そのスケジュールに小田原市の思惑が反映されていた。

 施行時特例市の小田原市は協議前から、中核市移行を目指していた。施行時特例市であれば、人口20万人未満であっても、2020年3月末までは中核市の指定が受けられるため、仮に合併に進まなくても、単独で移行するための準備の時間を確保できる。

 任意協の役割は本来、小田原市長いわく「合併した場合の全体像をシミュレーションし、メリットや課題を見極め、その結果を両市民に示すための一つのパッケージとして取りまとめること」だった。つまり新市というモデルハウスを市民の目に見える形で建てることだったが、そのための議論の時間を延ばすことは想定しておらず、結局市民が見せられたのはモデルハウスの基礎に限られた。

 約1年間というタイトなスケジュールは、「合併ありき」との印象を強くすることにもつながっていく。

 ことし8月まで計9回開かれた会合の大半は、合併に費やされた。中身も任意協事務局が膨大な資料を読み上げて説明、ほとんどが原案通り承認された。

 ましてや任意協終了後の市民説明会を経て、合併見送りを表明した南足柄市長が「途中からあたかも合併が目的であるかのような様相を深めた」と任意協を評する始末。副会長でもある当事者が議論を深められないようでは、傍聴者の目には、任意協が「合併しか話し合っておらず、しかも追認しているだけの場」と映っただろう。

食い違う認識


土曜日夜の開催にもかかわらず、参加者でびっしり埋まった南足柄市主催の市民説明会=9月9日、南足柄市役所
土曜日夜の開催にもかかわらず、参加者でびっしり埋まった南足柄市主催の市民説明会=9月9日、南足柄市役所

 「合併という選択肢を取り得るならば、そこに進むべき」。小田原市の市民説明会で市長は自らの言葉で結果を伝え、合併推進の考えを明言した。スクリーンに「持続可能なまちづくりに向け 合併は望ましい選択」と映し出す、念の入れようだった。

 だが訴え掛ける会場に、市民の姿は多くなかった。全体会を含む計8回の説明会で、930人の定員に対し、参加したのは3分の1程度の延べ321人。説明会終了後に実施した、合併に対する市民意向調査の回収率も4割に満たず、市民を巻き込んだ議論とは言い難かった。

 一方、南足柄市の説明会は「編入」との想定も影響し、市民であふれた。

 「合併ありきではなく、ニュートラルで、市民に分かりやすく、メリットとデメリットを示すという立場だ」。市長は説明会の場でも、あくまで任意協は仮の議論で、自らは中立との姿勢を崩さなかった。

 合併に対する市民の意見を聞きたいとする市長に対し、市民はトップの考えを知りたがった。「みんな、あなたの考えが知りたいんだよ」。しびれを切らした男性から説明会で水を向けられてもいた。

 市民意向調査の結果は反対が賛成をわずかに上回り、「もっと丁寧に、いろいろな面から検討をした方が良い」が最多となった。小田原市長とともに任意協設置を決断した南足柄市のトップが判断を表明したのは、今月1日だった。

 合併の是非を正しく判断するのは、難しい。実際にやってみないと分からない側面も多分にある。ただ合併するにせよ、しないにせよ、そこに暮らす市民を置き去りにしては元も子もない。

 市民の関心を集めるための、市民の疑念を払(ふっ)拭(しょく)するための、市民の理解を得るための、努力や方法や時間が、十分だったとはやはり思えない。

 この協議でかかった経費は、準備期間も含めれば2億円弱。それを高い買い物にしないための覚悟が、今後の行政や議会はもちろんのこと、市民にも課せられている。

 ◆小田原市・南足柄市「中心市のあり方」に関する任意協議会(任意協) 人口減少や少子高齢化が進む県西地域で、安定的な行政サービスを継続的に提供できる体制を構築するため、圏域で中心的な役割を担う2市が、(1)行財政基盤強化策としての合併(2)権能強化策としての中核市への移行(3)中心市と周辺自治体との新たな広域連携体制の構築-を検討する目的で昨年10月に設置した。ことし8月まで計9回の会合を重ね、合併による財政効果や、方向性や重点的施策などを掲げた「新市まちづくり計画」などをまとめた。計33人の委員は2市の自治や経済、福祉、議会などの分野から選出。会長は小田原市の加藤憲一市長、副会長は南足柄市の加藤修平市長。


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