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大規模団地を襲う高齢化
「まちづくりは面白い」―団地活性化に奔走する学生たち

PR | 神奈川新聞 | 2020年1月10日(金) 00:00


 「団地の高齢化」が、全国各地で進んでいる。都市部への人口流入が急激に進んだ高度成長期には、住宅不足に対応するために大規模な団地の建設が相次いだ。若いファミリー層が一斉に入居してから、半世紀あまり。子どもが巣立ち、高齢化とともに、入居者が埋まらない空洞化も進んでいる。そうした現状と向き合い、にぎわいを取り戻すためのユニークな取り組みが、横浜市金沢区の団地で進んでいる。整備を手がけた横浜市住宅供給公社と横浜市立大学を軸に、地元住民や企業が連携。地域をつなぎ、その魅力を発信しながら、多世代が住まう持続可能なまちづくりに向けて試行錯誤を重ねている。

大規模団地を襲う急速な高齢化


水と緑に囲まれた金沢シーサイドタウン

 「最初は住宅地のイメージしかなかったけど、どんどん面白い地域と感じるようになりました」。横浜市立大3年の遠藤明日香さんは、自らエリアマネジメントに取り組む「金沢シーサイドタウン」について、こう話す。

 金沢シーサイド地区は、横浜市南東部の東京湾沿いに位置する。地区内のシーサイドタウンは1977年に造成が始まり、約9000戸の大規模団地が完成した。著名な建築家がデザインし、水や緑など豊かな自然に恵まれる環境が人気を博した。しかし、高齢化と人口減が急速に進み、70代の比率が上昇。エリアマネジメントに関わる同大の中西正彦准教授は「全国の大規模団地と同様に、最初に入居した世代が近く、入れ替わりも少なかったため年齢構成の偏りが続いてしまった」と分析する。


1985年の周辺の様子。幼児連れの親子が多く行き交う

大学生のアイデアが地域の刺激に

 同大が活性化に本格的に参画するようになったのは、2014年からだ。同じ金沢区に位置する魅力的なエリアが衰退してしまえば、社会的損失が大きい。何かできることをと、地名を冠したコミュニティースペース「並木ラボ」を、市住宅供給公社が管理するシーサイドタウン内の商店街の一角に設けた。
 
 「当初、大家さんと入居者の間柄に過ぎなかった」(中西准教授)関係が変化したのは16年。広場の再整備をきっかけに公社が開いたイベントだった。取り組みを続けるために地域を巻き込みたかった大学側と、団地再生に取り組もうとしていた公社側の方向性が一致した。公社の太田祐輔さんは、「商店街と隣接する広場から団地全体を活性化できれば、市内の他地域のモデルになり得ると思った」と狙いを説明する。

 「あしたタウンプロジェクト」と命名された活動が目指したのは、地域の魅力向上と、外部への発信だ。中西准教授のゼミ生らも交えたワークショップやイベントなどを通じ、試行錯誤を続けていった。


商店街周辺の様子。写真右下などに「ハナバコ」が設置されている

 手作りした木箱に花などの植物を入れる「ハナバコ」の設置も、そこから生まれたアイデアの一つだ。きっかけは、「商店街を走り抜ける自転車が危ないと感じることがある」という住民の声。大学生や地域の子どもたちが、地元の造園業者からノウハウを学びながら約20個を制作し、19年から商店街内に配置していった。その後は自転車を降りてくれる人も増え、商店からも感謝されるなど一定の効果があったという。

 「子どもたちは純粋に花植えや制作を楽しんでくれていた。地域の人を巻き込むには、楽しむための仕掛けづくりが大事なのかなと感じた」と遠藤さん。同級生の菊池志歩さんは「自転車対策という本来の目的を、事前にもっと周知すればなおよかったのでは」と、次回に向けた改善点にも思いを巡らせる。


並木ラボに集まった横浜市立大学の学生ら

 地域住民に、わがまちの良さやおすすめスポットを聞く取り組みも続けている。その成果は、地区外に向けて魅力をアピールする冊子や、子どもが遊べる公園やレストラン情報など、子育て世代の手助けになる冊子の制作に活用。いずれも、人口減が進む同地区へ人を呼び込みたいという狙いが込められている。

 18年に移転した新「並木ラボ」の配置や運営にも大学生の意見が反映されているといい、「アイデアが地域に対する刺激になっている」と中西准教授。同じく3年の宮沼咲子さんも「この1年間を通じても、いろんな人が来てくれるようになった。普段接点のない世代の人と話せるのは楽しいです」と手応えを口にする。地域の主婦がイベントを開くようになるなど、参加者の輪も拡大。「子連れでも気兼ねなく立ち寄れる場所。近所同士の距離感も近くなった」「高齢者が多い地域なので、学生さんの新しい発想の企画が楽しみ」といった声が寄せられている。

「自分の地域にも関わりたい」

 「産官学民」という、特性の異なる人や組織による枠組み。その要にあるのが、公的な存在である公社だ。中西准教授はこう語る。「かっこよく言えば、公社は先端の課題に取り組んでいます。住宅地のマネジメントは社会課題になっているが、商業地の再開発のように大きなお金が動かないという意味で、経済的には地味な仕事。でも、それをうまく回すことができれば、そのノウハウは他の地域にも生かせる」。公社はそのためのノウハウを開発中なのだと指摘する。そして次のテーマとなるのは、プロジェクトの「自立・自走」だ。21年度に収益面などで自立できる態勢づくりを目指している。


並木ラボで開催されたイベント。持続的な取り組みにしていくことが次の課題だ

プロジェクトに携わる大学3年生の多くは、間もなく活動の第一線を退き、自身の進路選択の時を迎える。菊池さんと宮沼さんは「地域の人と関わることは純粋に面白い」「住むことに携わる仕事をしたい」と口々に話す。遠藤さんは「通うようになってから並木を面白いと思ったように、今、住んでいる地域にも面白いことがあるはず。私もわがまちの活動に参加し、貢献していきたい」。
横浜にある一つの団地を舞台にした、「あしたタウンプロジェクト」がつないだまちづくりの輪。それは、着実に未来に向けて広がっている。

編集・制作=神奈川新聞社デジタルビジネス部
提供=横浜市住宅供給公社

横浜市住宅供給公社の「暮らし再生プロジェクト」!!―――「スマイ」「キズナ」「キボウ」3つの再生を柱に横浜の暮らしの再生を目指します。

 
 

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