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刻む2017〈1〉「共謀罪」法成立 民主主義破壊の一手

時代の正体 神奈川新聞  2017年12月12日 16:21

衆院法務委員会で「共謀罪」法案が強行採決された夜、抗議の声を上げる市民団体「未来のための公共」のメンバー(中央)=5月19日午後8時ごろ、国会正門前
衆院法務委員会で「共謀罪」法案が強行採決された夜、抗議の声を上げる市民団体「未来のための公共」のメンバー(中央)=5月19日午後8時ごろ、国会正門前

【時代の正体取材班=田崎 基】 私たちの自由と民主主義が為政者によって破壊されていく。今年6月、慣例や手続きを無視し強行採決され成立をみた「共謀罪」法は、安倍晋三政権の姿勢を鮮明にした。抗(あらが)う術(すべ)を挫(くじ)こうとする権力者の狡猾(こうかつ)。都合の悪い言論を圧殺する準備を整え、そして打たれようとしている「改憲」という最後の一手。私たちはどこで踏みとどまれるだろうか。

 11月中旬、都内で行われた憲法改正について考えるシンポジウムで参加者が質問した。

 「こうした集まりも共謀罪で逮捕されたりするのでしょうか」

 答えは否。しかしそうした不安を社会にもたらすことにこそ共謀罪法の害悪がある。つまりは萎縮。だがその懸念も根拠のないものではない。

 組み込まれたはずの「厳格な歯止め」は虚(むな)しく、条文の解釈と運用次第で乱用される危険がつきまとう。それは「違法捜査」とされる盗撮や、衛星利用測位システム(GPS)機器を疑わしい車に密かに仕込むといった実際に行われている捜査手法が何よりの証左だ。

 政府は答弁で「監視社会にはならない」と再三繰り返したが、捜査手法について具体的に歯止めとなる条文はない。

 特に「共謀」(2人以上で計画すること)という行為を処罰するため、憲法上、最大限の保障が必要とされる思想良心の自由、表現の自由、集会の自由を侵害する恐れがある。そのため、捜査手法の限定も明確に定めるべきだった。

 しかし精緻な議論はなおざりにされ、政府は「テロ対策」という欺瞞(ぎまん)に満ちた説明を押し通しわずか48時間の審議で成立させた。

浅薄な審議の末に


 この法律が刑法体系の根本を揺るがし、加えてその説明も国民を欺くものであったことは一線の刑法学者が一斉に反対の声を上げたことでも分かる。


刑法体系を根底から覆す恐れがあると指摘する刑法学者の松宮孝明教授
刑法体系を根底から覆す恐れがあると指摘する刑法学者の松宮孝明教授

 「刑法の教科書を根本から書き直す必要があるほどの大変革」。こう指摘したのは刑法学者で共犯について詳しい立命館大の松宮孝明教授だ。

 日本の刑法体系は有害な行為が現に行われた後に処罰する「既遂」を基本とする。一部について未遂、さらにごく一部について準備や共謀の段階を罰している。だが共謀罪法は突如として277もの犯罪について「共謀」段階を罰することを定めた。

 共謀罪は「共犯」の一類型だが、犯意の形成や互いの共謀の認識、また「準備行為」の内容についても議論は煮詰まらず、政府が答弁すればするほど疑問が吹き出てきた。

 政府が論拠とした「テロ対策」という名目もまた国民の不安心理にかこつけた偽りの衣だ。

 政府は「国際組織犯罪防止条約の締結」のために法整備が必要だと強調し続けたが、この条約はマフィアなど国際的な組織的犯罪が対象でテロとは無関係だ。政府は法案の通称に「テロ等準備罪」と掲げたが条文には「テロ」という文字も定義もない。

国会の内と外では


 通常国会で政府が法案を提出する方針を示したため、年始から疑義を呈する記事を書き続けた。

 「まともに聞いていると頭がおかしくなる」

 予算委員会の傍聴席で他紙の記者がぼやいた。

 聞いたことに答えない。具体的質問には「個別の事例には答えられない」。抽象的な質問には「ケースバイケースだから分からない」といった具合だ。答弁に立った金田勝年法務相(当時)は追い詰められた末に「私の頭脳ではちょっと(理解できない)。対応できなくて申し訳ない」と開き直った。


野党委員の反対を押し切り衆院法務委員会で「共謀罪」法案を強行採決する委員メンバーら=5月19日午後1時ごろ
野党委員の反対を押し切り衆院法務委員会で「共謀罪」法案を強行採決する委員メンバーら=5月19日午後1時ごろ

 さらに参院審議では法務委員会採決を省き異例の「中間報告」によって本会議で採決してしまった。会期末が迫る中、「廃案」を避けるために禁じ手を打ったのだ。

 積み上げた欺瞞や暴挙の意図は果たしてどこにあるのか。通底するのは、権力者にとって都合の悪い意見の黙殺ではないか。

 松宮教授はこう言った。

 「これは『普通ではない市民』をあぶり出し、殲滅(せんめつ)していこうとする刑法ではないか」

 為政者が市民を「敵」と「味方」に分別し、敵を管理し排除する。安倍政治の本質がぴたりと重なる。

 共謀罪法の審議が大詰めを迎える中、闇夜に浮かぶ国会には抗議のつぶてが投げつけられていた。

 〈盗聴、密告、監視の法案、いらない!〉

 〈自由にものが言える社会を〉

 若者たちが時代の息苦しさを敏感に感じ取り行動していた。毎週末、国会前に足を運び、反対の声に耳を傾けた。


衆院法務委員会で「共謀罪」法案が強行採決された夜、抗議の声を上げる市民団体「未来のための公共」のメンバー(中央)=5月19日午後9時ごろ、国会正門前
衆院法務委員会で「共謀罪」法案が強行採決された夜、抗議の声を上げる市民団体「未来のための公共」のメンバー(中央)=5月19日午後9時ごろ、国会正門前

深意に目を凝らせ



 第1次安倍政権下で憲法改正の布石である「国民投票法」は制定され、そして民主党からの政権交代で2012年12月に発足した第2次安倍政権下で「特定秘密保護法」が施行された。14年には「集団的自衛権」を容認する閣議決定を行い、15年には安全保障関連法を強行採決した。

 着実に布石を打ち最後の一手、悲願の「改憲」に迫る。その内実は平和憲法の根底を覆す戦争への道に他ならない。

 師走の迫る11月27日。都内のホテルに2千人が詰めかけていた。改憲を掲げる国内最大の右派団体「日本会議」の20周年記念大会。節目の集会に、安倍晋三氏は自民党総裁としてメッセージを寄せた。


改憲を掲げる国内最大の右派団体「日本会議」の20周年記念大会には安倍晋三氏は自民党総裁としてメッセージを寄せた=11月27日、東京・港区の東京プリンスホテル
改憲を掲げる国内最大の右派団体「日本会議」の20周年記念大会には安倍晋三氏は自民党総裁としてメッセージを寄せた=11月27日、東京・港区の東京プリンスホテル

 「憲法審査会の具体的な議論をリードし、歴史的使命を果たしていく」

 憲法は、

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