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刻む2019〈9〉記者の視点=川崎総局・石橋学
差別根絶条例 社会正義の実現へ一歩

社会 神奈川新聞  2019年12月27日 10:01

差別根絶条例を全会一致で可決した川崎市議会=12日、川崎市役所
差別根絶条例を全会一致で可決した川崎市議会=12日、川崎市役所

 歴史的瞬間に立ち会った、という言い回しは決して大げさではないと思っている。12日、「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例(差別根絶条例)」が市議会で全会一致の賛成を得て可決、成立した。ヘイトスピーチに刑事罰を科すことが盛り込まれ、差別が犯罪であると日本の歴史上初めて法令で定められた。その意義を私はかみしめる。

 当日の記者会見、ヘイトスピーチの標的とされてきた川崎区桜本の在日コリアン1世のハルモニ(おばあさん)たちの言葉が深い感慨をもって響いた。

 「無学な私だが、訴えてきたことは無駄ではなかった」

 日本が朝鮮半島を植民地支配して100年余、自分は無学、非力で何をしても無駄と思わされてきた趙良葉(チョウ・ヤンヨプ)さん(82)の安堵(あんど)には、人間の尊厳を踏みつけにしてきた差別にこの国がいかに無反省であったかが刻まれていた。朝鮮人は劣った存在で同じ人間として扱わなくてよいという、他民族の征服を正当化した差別が戦後も制度的、社会的に継続していたからこそ、「朝鮮半島へ帰れ」「朝鮮人をたたき殺せ」というヘイトスピーチは街中で叫ばれるようになった。

 「どうしていまさら出て行けと言われなければならないのか」「なぜ子や孫の代まで差別されなければいけないのか」

 ハルモニたちの悲嘆は、人権侵害が放置されているどころか行政の許可を得て公然と行われているという二重の不条理にも向けられていた。ないがしろにされ続けた人生にその絶望がどれだけ追い打ちをかけたか。石日分(ソク・イルブン)さん(88)は「さんざん悲しく苦しい思いをして生きてきた。ヘイトスピーチを罰則で禁じると議決され、私たちは守られた」と言った。そう、この国には差別を処罰するどころか禁止する法律すらない。2016年、ヘイトデモの襲撃を受けた桜本の被害を立法事実にヘイトスピーチ解消法が成立したが、禁止・罰則規定のない理念法。差別的言動は許されないと宣言し、解消のための施策を国と自治体に求めたものの、どのようにして許さないのかが決定的に欠けていた。

 確信的に繰り返されるヘイトスピーチを食い止めるには罰則を設けて規制していくしかない。ようやく本気で差別を止めさせ、人権侵害から市民を守る前面に行政が立つ。川崎市が踏み出した一歩がもたらす歴史的転換はそこにあった。

多数者の傲慢さ

 私を含むマジョリティーが差別にいかに鈍感であったか。被害を軽んじる無頓着さがなるほど差別のありようを物語ると教えてくれたのも、振り絞るようにして発せられた被害者の言葉だった。

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