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刻む2019〈3〉記者の視点=報道部・武藤龍大
登戸児童殺傷事件 真相不明 苦悩は深く

社会 神奈川新聞  2019年12月21日 09:50

 真相が解明されないまま終結した捜査を、被害者や遺族らはどう受け止めただろうか─。川崎市多摩区登戸新町の路上で5月、スクールバスを待つカリタス小学校の児童と保護者計20人が殺傷された事件は、容疑者が直後に自殺したことで裁判は行われなかった。動機解明や処罰はなされず、被害者感情を少しでも晴らす機会が失われてしまった。事件から約7カ月、被害者や遺族らの苦悩はより深いはずだと専門家を取材したが、向き合おうとしているものの重さを痛感させられた。


事件発生翌日の現場。多くの花束や飲み物が手向けられた=5月29日、川崎市多摩区登戸新町
事件発生翌日の現場。多くの花束や飲み物が手向けられた=5月29日、川崎市多摩区登戸新町

 「ただただ、失ったもののあまりの大きさと深い悲しみに打ちひしがれております」

 「深い悲しみの中にあります。今は何も考えられない状態です」

 殺害された女児と男性の遺族が事件翌日の5月29日に弁護士を通じて発表したコメントの一部だ。「深い悲しみ」とともに共通したのは、「突然」という言葉だった。最愛の家族を失った悲しみや喪失感、理不尽な現実に対する動揺や嘆き、やり場のない怒り。事件を防げなかったと自らを責めているかもしれない。整然とした文章には詰め込みきれない被害者感情を想像したが、やはり計り知ることはできない。

 なぜ事件は起こったのか─。被害者や遺族らの問いに対する答えは、見つからないままだ。容疑者の親族が同小学校の卒業生という情報もあったが、それだけでは説明がつかない。県警は容疑者の自宅からノートなどを押収したが、手掛かりは得られなかったという。最近数年の容疑者の交友関係や職歴は確認されず、孤立した生活ぶりが捜査を難しくさせた。

 9月2日。殺人や殺人未遂などの容疑で容疑者死亡のまま書類送検され、県警の捜査は終結した。裁判は行われず、ついに真相が明らかになることはなかった。遺族らに捜査結果を報告した際、捜査員はねぎらいの言葉を掛けられたという。「本心ではもやもやしているのかもしれない。力及ばず、残念」。取材に対し県警幹部は声を落とした。

 警察庁によると、昨年1年間に摘発した殺人事件819件のうち、8%に当たる67件が動機不明という。容疑者が死亡したこの事件のようなケースは含まれないものの、その割合は少ない。真相が分からずに苦悩する被害者や遺族らの声は果たして世間に届いているのだろうか。そんな問題意識が芽生えた。

 「遺族は動機を知りたいもの」。そう話すのは、被害者の権利確立に貢献し、昨年6月に約18年間に及ぶ活動を終えた「全国犯罪被害者の会(あすの会)」で顧問を務めた岡村勲弁護士。自身も犯罪被害者の遺族だ。「被害者感情といってもさまざまで、十把ひとからげにくくれない」としながらも、経験を交えて話してくれた。

 取材を進めると、この事件における被害者や遺族らの苦悩について巡らせた考えが、浅はかで単純だったと気付かされた。岡村弁護士は「動機が分かったところで楽にはならない。ますます腹が立つだけ」と言い切った。裁判が行われ、犯人が処罰を受けたとしても同様という。少しでも被害者感情について理解を深められればと質問を重ねたが、「頭で理解するものではない。君は何も分かっていない」と、突き放されてしまった。

 「つい熱くなりました」。取材が終わると、穏やかな口調で声を掛けてくれた。向き合おうとしているものが想像よりもはるかに重く、深く、簡単に理解できるものではないことを思い知った。それでも被害者感情を想像し、寄り添おうとすることが支援拡大の一歩となるはずだ。

 「ケアや補償など、被害者らへの社会的支援はまだまだ、行き届いていない」と指摘する岡村弁護士は、せめてもの思いでこう訴える。「事件を、いい社会をつくるきっかけにしてほしい」。少なくともその願いは、この事件の被害者や遺族らも同じなのではないだろうか。

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