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時代の正体〈555〉布施祐仁さんに聞く(下) 主権なき平和国家

時代の正体 神奈川新聞  2017年11月20日 15:39

米国から見捨てられるかもしれない、という恐怖や不安こそがこの国を窮地に追い込んでいると指摘する布施祐仁さん
米国から見捨てられるかもしれない、という恐怖や不安こそがこの国を窮地に追い込んでいると指摘する布施祐仁さん

【時代の正体取材班=田崎基】米国の政策と「100パーセント共にある」と胸を張る安倍晋三首相。安全保障に詳しいジャーナリストの布施祐仁さん(40)はそこに対米従属の異常性をみる。「激変する北東アジアにおいて、これからも主権を奪われたままでいいのでしょうか」


 異なる国家にもかかわらず安全保障政策が「100パーセント一致する」ことなどあり得るのか。米朝が開戦すれば被害をまず受けるのは韓国と日本であって、武力行使のオプションも含めて米国の政策を無条件に支持するなど無責任の極みだ。

 だがこれは安倍政権だけの問題ではない。戦後日本の国家の正体、つまり主権なき対米従属国家という問題がそこに横たわる。

 在日米軍基地は単なる米軍基地ではなく、戦争が始まれば朝鮮戦争の当事者である「朝鮮国連軍」の基地として使われる。今も朝鮮国連軍後方司令部のある横田基地をはじめ、横須賀、嘉手納など7カ所が指定されている。日本という主権国家の意思とは無関係に米国の戦争に巻き込まれるのだ。

完全なる一体化


 日米安保、地位協定、そして密約の中で米軍が朝鮮半島で戦争をした際に日本が協力する枠組みは朝鮮戦争直後から存在してきた。

 かつての自民党政権はその枠組みの中で政治を行ってきた。しかし改憲を党是とする政党でありながら、時には憲法9条を盾に「そこは協力できない」と言い米国との完全なる一体化を回避してきた。それが歴代の自民党政権であり、そこには日本国民を代表する政府の立場が示されていたのだろう。


安倍政権の対米従属姿勢は異常だと指摘する布施祐仁さん
安倍政権の対米従属姿勢は異常だと指摘する布施祐仁さん

 だが安倍政権は2014年7月の閣議決定でその一線を突破した。憲法9条によって「集団的自衛権は行使できない」という解釈を一変させたのだ。安倍政権はこれによって日米同盟は強化され、抑止力が高まるのだと説明し続けている。

 本当にそうだろうか。

 仮に抑止力の向上が事実だとしても、一体化によって米国の戦争に日本が巻き込まれ甚大な被害を受けるというリスクを高めていないか。

 安倍政権が無責任に北朝鮮の脅威を利用し政権の求心力を維持しようとしている問題と、日米同盟強化によって対米従属を深めてきた問題の双方が重なり合い、現実のリスクを高めているというのが私の見方だ。

「見捨てられ論」の陥穽


 この状況を現実的に把握しなければならないはずだが、そうはなっていない。それは戦後、日米同盟さえしっかりしていれば日本は平和でいられると信じ続け、思考することをやめてしまったからだ。

 だが、世界と日本周辺の安全保障環境は変化している。頼みの米国は相対的に国力が低下し、トランプ大統領が「世界の警察はもうできない」と言い出した。そして、日本の中で「いざというとき、米国は守ってくれないのではないか」という懸念が生まれている。

 これが「見捨てられ論」だ。そして見捨てられないためにと必死に一体化へと盲進しているのが安倍政権の真の姿だ。

 見捨てられないために従属を深め、従属が深まれば深まるほど主権は狭まるという陥穽(かんせい)。これまでの日本は独立国としての自尊心を経済で保ってきたが、もはやそれもできなくなりつつある。対米従属のコンプレックスを穴埋めするために、隣国に対して攻撃的になる。そのことで国民の支持を取り付ける。

 対米従属を批判するなら、核兵器保有も含めた自主防衛を主張すべきだと言う人もいる。しかし、これも現実を直視していない議論だ。中国とまともに軍拡競争をやるのか。少子化や日本経済の見通しを考えれば、やるとすれば民生予算を大幅に削るしかない。北朝鮮のように国民は飢えても軍事大国への道を歩むのか。そんな選択を望む国民はいないだろう。

 ではいま、異なる選択肢「プランB」はあるのだろうか。

 日米同盟強化でも自主防衛力強化でもない方法で日本の安全を確保するためには、地域的な集団安全保障の発想が必要になる。軍事力で中国に対抗するのではなく、中国も含めて北東アジアの安全保障を共同で行っていく考え方だ。中国とは経済的にも相互依存関係にある。南シナ海はこの地域のすべての国々にとって重要な海上輸送路だ。共通の利益がある。

 領有権の問題など国家間で利害が一致しないことがあったとしても、武力を使って解決するのではなく、あくまで集団的な話し合いで解決するというメカニズムを強化する必要がある。

 この半世紀、欧州をはじめ東南アジアや中南米、アフリカでもそうした試みが行われてきた。軍事同盟で対抗し、軍拡競争をやって緊張を高めるより合理的だったわけだ。世界はその方向へ向かっている。

すり替えの欺瞞


 占領時の残滓(ざんし)のような日米地位協定が60年以上も改定されてこなかったのには、二つの理由がある。

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