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時代の正体〈554〉布施祐仁さんに聞く(上) 北朝鮮脅威の本質

時代の正体 神奈川新聞  2017年11月19日 09:32

「北朝鮮脅威」の本質に目を懲らさなければならない、と話す布施祐仁さん
「北朝鮮脅威」の本質に目を懲らさなければならない、と話す布施祐仁さん

【時代の正体取材班=田崎 基】声高に外敵の脅威をあおり立てる為政者に問わなければならない。平和を求め続けてきたはずの私たちの国になぜその脅威は向けられているのでしょうか-。安全保障に詳しいジャーナリストの布施祐仁さん(40)は現実的な脅威の本質を語る。「いまそこから目をそらしてはならない」 


 北朝鮮はなぜ日本にとって脅威になるのか。

 核実験や弾道ミサイルの発射実験を行っていることは事実であり、これは国連安保理決議の違反であって断じて容認できない。

 だが目を向けるべきはその目的だ。ミサイルは日本に向けて発射されているわけではない。米国本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発し、そこに核弾頭を載せて米国を攻撃できる能力を獲得しようとしている。核とミサイルを外交カードと抑止力にしようとしているわけだ。

 米国は他国への先制攻撃を排除せず、場合によっては「レジーム・チェンジ(体制転換)」のために武力行使してきた。イラクやリビアでも実際に軍事行動を取ってきた。こうした状況をみて北朝鮮の独裁者は米国に対して非常に大きな脅威や恐怖を抱いている。

 だから北朝鮮はこれまでもたびたび米国に交渉を持ち掛けてきた。その意図は北朝鮮の「体制保障」以外にない。オバマ政権時代にも朝鮮戦争終結のための平和協定締結に向けて、北朝鮮側から米国に交渉を提案している。

 この北朝鮮の意図はいまも変わっていないとみていいだろう。この点からみても北朝鮮の核、ミサイル開発の対象は日本ではない。

武力行使のハードル

 
 ではこの状況を米国側からみるとどうだろうか。

 トランプ大統領は「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と繰り返し武力行使の可能性に言及している。朝鮮戦争以降、米国は北朝鮮への武力行使を何度も検討してきた経緯がある。

 例えば1969年。米海軍の早期警戒機が日本海で北朝鮮の戦闘機に撃墜され、乗員31人全員が死亡した事件があった。

 米国は報復として「限定的攻撃」を検討したが最終的には何もしなかった。一度火ぶたが切られたら全面戦争になる可能性が高いと分析したからだ。当時のヘンリー・キッシンジャー国家安全保障担当補佐官は、対応を検討する米政府内の会合で「北朝鮮に対しては、何もしないか、最大限の選択肢を取るかしかない」という趣旨の発言をしている。


ふせ・ゆうじん 1976年東京都生まれ。ジャーナリスト。「平和新聞」編集長。著書「ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場」(岩波書店)で平和・協同ジャーナリスト基金賞、日本ジャーナリスト会議JCJ賞受賞。著書に「主権なき平和国家」(共著、集英社)など。
ふせ・ゆうじん 1976年東京都生まれ。ジャーナリスト。「平和新聞」編集長。著書「ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場」(岩波書店)で平和・協同ジャーナリスト基金賞、日本ジャーナリスト会議JCJ賞受賞。著書に「主権なき平和国家」(共著、集英社)など。

 「限定的攻撃」が限定で収まる保障などどこにもない。米国は今年4月、化学兵器を使用したとされるシリアに対して巡航ミサイルによる「懲罰的攻撃」を行ったが朝鮮半島の場合とそれはわけが違う。

 38度線という停戦ラインから韓国の首都ソウルまでの距離は50キロに満たない。北朝鮮は38度線付近に1万発を超える火砲を配備しているとみられている。米国が先制攻撃すれば北朝鮮はソウルを攻撃し甚大な被害が生じる危険性が高い。そうなれば「限定戦争」では収まらないだろう。

 北朝鮮が核開発を始めた90年代にも危機があった。米国は核関連施設を精密爆弾で限定攻撃する計画を検討したが実行しなかった。

 当時の国防総省が被害を試算したところ開戦半年で米軍・韓国側の死者数が民間人も含めておよそ100万人に上ったからだ。さらに韓国の金(キム)泳三(ヨンサム)大統領が当時のクリントン米国大統領に「絶対にダメだ」と言って制止した。

 米国は武力による威嚇まではするが、実際に行使できるかといえばそのハードルは極めて高い。従って、合理的に考えれば北朝鮮問題は対話で解決するしかない、ということになる。

巻き込まれる危険

 
 だが米国が武力行使する可能性はゼロだろうか。

 人類の歴史をみると、国家が戦争を始めるときに全てを計算し尽くして合理的な判断が下されるかといえば必ずしもそうではない。それを最も証明しているのが先の大戦における日本の行動だろう。

 仮に朝鮮戦争が再び始まると在日米軍基地はほぼ自動的に、後方支援拠点として動きだす。

 「事前協議制」という仕組みはあるが、かつて朝鮮半島有事は事前協議の対象外とすることを「密約」していたように、日本が「ノー」ということは想定されていない。それに、後方支援だけなら事前協議の対象にもならない。

 北朝鮮からすれば敵の基地が日本にあるため、日本は戦争の準当事国になる。「米軍に基地を提供しているだけ」などという言い訳は国際的に通用しない。


日本が「主権」を放り出すことで米国の戦争に巻き込まれていく危険が増している、と指摘する布施祐仁さん
日本が「主権」を放り出すことで米国の戦争に巻き込まれていく危険が増している、と指摘する布施祐仁さん

 こうした状況で安倍晋三首相はトランプ大統領に「全ての選択肢がテーブルの上にあるとの立場を支持する」と言っているのだ。

 米国の研究機関が試算しているが、北朝鮮が核弾頭を搭載したミサイルで東京を攻撃した場合、数十万から100万人以上の被害が出るという。
 安倍首相の「支持する」とは、東京に核ミサイルが飛んでくるというような最悪の事態も覚悟しなさい、と国民に同意を求めているということだ。であれば戦争になった場合の被害想定についても国民に説明すべきだ。

 安倍首相は米国と「100パーセント共にある」と強調するが、戦争になった場合のリスクは日本と米国では明確に異なる。

 朝鮮半島で開戦したとしても米国本土が攻撃を受ける可能性は低い。米兵には多大な犠牲が生じるだろうが、北朝鮮が米本土を核攻撃できる能力を手にした時のリスクとを天(てん)秤(びん)にかけて先制攻撃の判断を下すかもしれない。

 しかし日本にとっては、戦争になれば直ちに攻撃を受けるリスクが生じる。米国にとってのリスクと日本にとってのリスクが同じ計算になるはずがないにもかかわらず、武力行使の可能性も含めて米政府の対応を100パーセント支持すると言う安倍政権は、極めて無責任と言わざるを得ない。

政治利用する為政者


 ではこの安倍首相の真意は一体どこにあるのか。

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